【F1 2021】進撃のレッドブル 完勝かなわずもペレスの勝利に救われる
2021.06.07 自動車ニュース![]() |
2021年6月6日、アゼルバイジャンのバクー・シティ・サーキットで行われたF1世界選手権第6戦アゼルバイジャンGP。レッドブルがメルセデスを力でねじ伏せるクリーンファイトは、終盤にマックス・フェルスタッペンを襲ったタイヤトラブルで後味の悪い結末となりかけた。それを救ったのが、セルジオ・ペレスの優勝、そしてルイス・ハミルトンのまさかの脱落だった。
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メルセデスの悩み 加熱するウイング問題
ターボハイブリッド規定が始まった2014年からの138戦で102勝。この7年間の勝率74%と常勝を誇ってきたメルセデスが、ドライバー、コンストラクター両チャンピオンシップの首位から転落した。前戦モナコGPで同地初優勝を飾ったマックス・フェルスタッペンは、モンテカルロで絶不調7位に終わったルイス・ハミルトンに4点差をつけ、またレッドブルはメルセデスを1点だけ上回り、それぞれトップに立ったのだ。
もちろん、今季5戦で3勝していたシルバーアローの急激な戦力低下は、モナコの特殊なコース特性によるところが大きかったはずだが、続くアゼルバイジャンGPもモナコ同様のストリートサーキットであるバクーが舞台。タイヤのウオームアップ性能に悩みがあったメルセデスには、市街地特有の摩擦抵抗の低い路面に加え、バクーの2.2kmもの全開セクションでまたもタイヤに十分な熱を入れられないのではないかという心配がつきまとった。
メルセデスとレッドブルがチャンピオン争いでしのぎを削る一方で、全チームにFIA(国際自動車連盟)も巻き込んだ、いわゆる「フレキシブル・ウイング問題」も加熱した。前後ウイングは走行中にある程度“たわむ”ものだが、この弾力を利用し、一部チームはウイングのフラップを大きく寝かせ、直線速度でアドバンテージを得ていると度々指摘されてきた。ルールメーカーのFIAは、第7戦フランスGPから検査の厳格化を打ち出していたが、メルセデスやマクラーレンなどは即時対応を求め抗議の可能性すら示唆。長い直線を持つバクーでは、フレキシブル・ウイングに相当なメリットが出てしまうことから、嫌疑がかけられたレッドブルらをけん制していたのだ。
コロナ禍で10月のシンガポールGP中止が決定。23戦スケジュールを死守したいF1はその代替レースを検討中という。しかし、コース内外での接戦・論戦は、例年と変わらない様相を呈していた。
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赤旗4回の荒れた予選でルクレールが2戦連続ポール
2年ぶりのアゼルバイジャンGPは、メルセデスが初日のプラクティスでトップ10に入るのもままならない不調ぶりを露呈。対照的に快調なレッドブルがやすやすとポールポジションを獲得すると思われたが、その予選で番狂わせが起きた。
雨で荒れた2016年のハンガリーGPのように、予選は4回も赤旗中断となり、5台が壁の餌食に。カスピ海の風に翻弄(ほんろう)され挙動を乱すドライバーが多く、その中には、ここまでミスなく順調にセッションをこなし、初のQ3進出を遂げたアルファタウリの角田裕毅も含まれていた。
クラッシュした角田を避けようとしてフェラーリのカルロス・サインツJr.もマシンを壊し、Q3は前戦同様に各車の最後のアタックを待たず終了。ポールは2戦連続でフェラーリのシャルル・ルクレールが決め、ローダウンフォース仕様に大きくかじを切ったハミルトンがまさかの2位、週末のペースセッターだったフェルスタッペンは3位と、予想外のグリッド順となった。
ポールも狙えたアルファタウリのピエール・ガスリーがキャリアベストタイの4位、サインツJr.は5位。マクラーレンのランド・ノリスは赤旗中の違反により6位から9位に降格されてしまい、レッドブルのセルジオ・ペレス6位、角田7位、アルピーヌのフェルナンド・アロンソ8位と繰り上がった。上位10グリッドのしんがり、10位にはメルセデスのバルテリ・ボッタスと、いつもとは違ったオーダーでレースに臨むこととなった。
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タイヤ交換を境にレッドブルが1-2
51周のレースは、予選以上に予想外の展開となった。まずスタートで2位ハミルトン、3位フェルスタッペンを従えトップを守ったルクレールだったが、フェラーリはレースペースが足らず、3周目目前にハミルトン、7周目にフェルスタッペン、そして8周目にはペレスに次々とかわされてしまう。
1位ハミルトンを2台のレッドブルが追う展開は、タイヤ交換を境に逆転することになる。ハミルトンは12周目にソフトタイヤからハードに換装、その際メルセデスは交換に手間取り4秒以上かけてしまったのだ。翌周レッドブルがフェルスタッペンにハードを与え、続いてペレスにも同じタイヤを履かせると、フェルスタッペンが事実上の首位に立ち、2位にペレス、3位にハミルトンと、ついにレッドブル1-2となった。
ペレスがハミルトンの前に立ちはだかり、フェルスタッペンの後ろで防御線を張るというレッドブルにとっては理想的な展開。当初ペレスとのギャップが1秒を切っていたハミルトンだったが徐々に引き離され、その差は25周目には2.7秒に拡大していた。
しばし膠着(こうちゃく)していたレースが動いたのは31周目。ストレートでランス・ストロールが突如挙動を乱しクラッシュ、セーフティーカーが出た。彼のアストンマーティンは19番手と後方からのスタートだったため、大勢とは逆にハードタイヤを履いて長い第1スティントを走っていたのだが、この左リアタイヤがブローしたためのクラッシュだった。
36周目にレース再開。フェルスタッペンは好スタート、ハミルトンに並ばれそうになったペレスは何とか踏みとどまり、レッドブルは1-2を死守した。また4位を走っていたガスリーは、翌周ベッテルに抜かれ5位に後退した。
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フェルスタッペンのタイヤが突如ブロー! 優勝は僚友ペレス
このままレッドブル1-2かと思われた47周目、トップのフェルスタッペンがストレートで激しくクラッシュ。ストロール同様に左後輪が悲鳴を上げたのだ。幸い自力でコックピットから出ることができたものの、優勝目前、しかもハミルトンとのポイント上のリードを大きく伸ばせる機会を失ったフェルスタッペンは見るからに落胆しており、ブローしたタイヤに蹴りを入れ悔しさをあらわにしていた。
このクラッシュによりセーフティーカーが出たものの、後に赤旗に変わり、レースは30分以上の中断を挟むこととなった。ここまでの上位の順位は、1位ペレス、2位ハミルトン、3位ベッテル、4位ガスリー、5位ルクレール、6位角田。このままレース成立となってもおかしくなかったが、日も傾きかけた現地時間18時10分、たった2周のスプリントレースで戦いは締めくくられることになった。
スタンディングスタートで前に出たのはハミルトン。だが彼のメルセデスはタイヤをロックさせてしまいターン1を曲がりきれずコースオフ、ポイント圏外の15位という信じられない結果となった。メルセデスには、フォーメーションラップやセーフティーカーラン中にタイヤやブレーキをウオームアップさせる「マジックボタン」なるものが付いているが、どうやらハミルトンはこの使い方を誤ったようである。
こうした混乱をかき分け、真っ先にチェッカードフラッグを受けたのはペレス。フェルスタッペンの後ろで鉄壁の陣を築き、チームに貢献したメキシカンにとって、移籍後初、昨季サキールGP以来となる自身2勝目となった。そして今回、メルセデスが無得点に終わったことで、レッドブルはこの勝利の25点を丸々ポイントリードに加えることができた。
ペレス同様、新天地でうれしい2位表彰台となったのがベッテルだ。予選11位から長めの第1スティントを終え上位に食い込み、さらにセーフティーカー明けのリスタートで4位にポジションアップ。フェルスタッペン、ハミルトンの脱落で転がり込んできた幸運とはいえ、実力を十分に発揮してのアストンマーティン初ポディウムに満面の笑みを浮かべていた。
そして3位はガスリー。昨季イタリアGPのウィナーは、アルファタウリのリーダーとして力強く戦い、5戦連続のポイント獲得、そして3度目の表彰台に堂々と立ったのだった。また角田もベストリザルトの7位でゴールし、開幕戦以来の入賞でチームのコンストラクターズランキング5位躍進に貢献した。
タイトルを争うフェルスタッペンとハミルトンは4点差のまま。しかしシーズンの戦況が静かに変わり始めている、そんな予兆を感じさせるレースだった。
次からはフランス、オーストリアでの怒涛の欧州トリプルヘッダー。第7戦フランスGP決勝は6月20日に行われる。
(文=bg)