【F1 2021】フェルスタッペンがモナコでつかんだもの
2021.05.24 自動車ニュース![]() |
2021年5月23日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第5戦モナコGP。2年ぶりの同GPは、ポールシッターがスタートできず、セーフティーカーが一度も出動せず、フェラーリが絶好調で、2014年のターボハイブリッド規定下で無敵を誇ってきたメルセデスが惨敗するという異例ずくめの展開となった。
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フェルスタッペンとモナコの相性
豊潤な地中海を前に、極小かつ急峻(きゅうしゅん)な土地にへばりつくように伸びるモンテカルロ市街地コース。F1世界の一等地、モナコに2年ぶりにGPが戻ってきた。観客はPCR検査で陰性だった7500人に限られ、いつものきらびやかなレースウイークとまではいかなかったものの、F1のアイコンである同GPはシーズンに花を添え、アクセントをつけたことは間違いない。
今季ここまでの4戦でチャンピオンシップ首位を争ってきたのが、ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンだ。前戦スペインGPでは、速さを手に入れたレッドブル・ホンダを相手に、メルセデスが頭脳プレーとハミルトンの力走で逆転優勝。接戦の中での勝ち方を心得ているハミルトン陣営が3勝目を飾り、14点リードと少しずつ差を広げてきていた。
第2戦エミリア・ロマーニャGPでの1勝のみであったフェルスタッペン&レッドブルには反撃が期待されたが、フェルスタッペンとモナコの相性は、決していいものではなかった。2015年のデビューから2年連続でリタイア。2017年に5位、2018年は9位、そして2019年のレースでは、2位から首位ハミルトンを追い回すも抜けず、ピットアウトする際にバルテリ・ボッタスに幅寄せし5秒加算のペナルティーを受けて4位に終わっていた。フェルスタッペンといえば、今季たびたびトラックリミット違反をおかしては物議を醸してきたドライバー。見るものを魅了する彼のアグレッシブなドライビングも、モナコでは命取りになりかねない。
そんなモナコ初優勝を目指すフェルスタッペンの前に立ちふさがったのは、強敵の7冠王者ではなく、同世代のあのライバルだった。
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ルクレールが母国GP予選でポール&クラッシュ
木曜日のプラクティスから、意外にもメルセデスのペースが思わしくなく、レッドブル&フェルスタッペンにとってはポイントを縮める絶好のチャンス到来。しかし、こちらも意外なことに、フェラーリが2台そろってトップ争いに割り込んできたのだからモナコの週末は分からないものである。
跳ね馬のマシンは、プラクティスで1-2を取るなど上々の滑り出しを見せ、その勢いのまま予選へ。トップ10グリッドを決めるQ3では、シャルル・ルクレールが最初のフライングラップで最速を記録するも、2度目のアタックではウォールに当たり赤旗中断。セッション終了間際だったため再開されることなく予選は終わり、モナコ人ドライバー、ルクレールが、2019年メキシコGP以来となる通算8回目のポールポジションを決めた。
最後にポール奪取を狙っていたライバルたちは不完全燃焼でコックピットを降りざるを得なかったものの、予選2位のフェルスタッペンはモナコ初の最前列スタート。メルセデス勢では、バルテリ・ボッタスが3位につけたが、タイヤを手なずけられずグリップ不足に苦しんだハミルトンはトップから0.749秒遅れの7位に沈んだ。
4位はモナコを得意とするフェラーリのカルロス・サインツJr.。来季以降の契約を更新したばかり、マクラーレンのランド・ノリスが5位につけ、アルファタウリのピエール・ガスリーは6位からレースに臨むこととなった。
アストンマーティンのセバスチャン・ベッテルは今季最高の8位、レッドブルのセルジオ・ペレス9位、そしてアントニオ・ジョビナッツィがアルファ・ロメオで今季初Q3進出、10位からスタートすることに。アルファタウリの角田裕毅は、過去4戦で3度目のQ1敗退となり16位だった。
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ポールシッター不在でフェルスタッペンがトップへ
ルクレールには、クラッシュの影響でギアボックス交換となれば5グリッド降格のペナルティーという可能性もあった。事前チェックでチームはOKを出していたが、グリッドに並ぶ前のレコノサンスラップ中に異変を感じたルクレールはピットイン、このタイミングでドライブシャフトの問題発覚となれば、出走を諦めるしかなかった。
ポールシッター不在のまま、78周のレースがスタート。フェルスタッペンがすかさずボッタスの鼻先を抑えトップでターン1へ入ると、2位ボッタス、3位サインツJr.、4位ノリス、5位ガスリー、6位ハミルトンと各車ポジションを守り、オープニングラップを終えた。
モナコは事実上オーバーテイクができないコースゆえに、速さよりもいかに集中を切らさないで走れるかが勝利への道となる。1位フェルスタッペンは「このソフトタイヤで問題はない」と無線でチームに伝えながら順調にラップを重ね、20周もするとボッタスに2秒以上の差をつけていた。一方ボッタスは、徐々に3位サインツJr.に差を詰められ、25周目にはその間隔は1.5秒となっていた。
コース上で抜けないなら、何かが起こるとしたらピットストップしかない。30周目、まずは6位ハミルトンがソフトからハードにチェンジするも、翌周ガスリーも素早く反応したことで、引き続きアルファタウリがメルセデスの前に居座った。またボッタスもピットへと飛び込んだのだが、こちらは右フロントタイヤのナットが外れず、なんとメルセデスはこの時点で1台を失うことになってしまった。
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フェルスタッペン&レッドブル、チャンピオンシップ首位へ
34周目、フェルスタッペンがハードに換装し、事実上のトップをキープ。もう1台のレッドブル、ペレスが次のラップでピットに入ると、首位に返り咲いたフェルスタッペンの後ろに、2位サインツJr.、3位ノリスが続き、ペレスは4位にジャンプアップ、ベッテルもオーバーカットを成功させ2台抜きで5位につけていた。
ピット戦略が奏功したのがレッドブルなら、失敗したのはメルセデスだ。ボッタスがリタイア、ハミルトンはガスリーを抜けず、逆にベッテルにかわされ、7位に落ちて憤まんやるかたなし。打つ手なしと見て取ると、68周目にタイヤをソフトに交換し、7位6点にファステストラップの1点を加えるのがやっとだった。
フェルスタッペンとサインツJr.、上位2台が安定したペースを刻むその後ろでは、3位ノリスがタイヤに苦しみ、ペレスからの突き上げにあう。それでもマクラーレンの若きエースは集中力を切らさず、第2戦エミリア・ロマーニャGPに次ぐ3位表彰台にのぼることとなった。
モナコ公アルベール2世が待つ表彰台は、23歳のフェルスタッペンを頂点に、26歳のサインツJr.と21歳のノリスが両脇を固めるという、メルセデスが上位にいないとこうも若返るのかというフレッシュな顔ぶれとなった。
フェルスタッペンがモナコでつかんだものは、同地初ポディウムにして初優勝、そして初めてとなるチャンピオンシップリーダーの座だった。「すべてはタイヤをケアすることだった。ほぼコントロールできていたね」とはレース後の弁。ハミルトンにルクレール、ライバルがいなかったとはいえ、難攻不落のモナコで見せた盤石の走りには、堂々とした勝者の風格が漂っていた。
もちろん、ハミルトンとて早々に反撃に転じてくるはずである。両者の差はたったの4点。シーズンはまだまだ長い。
次の第6戦アゼルバイジャンGP決勝は6月6日に行われる。なお今季途中でカレンダー入りしたトルコGPはパンデミックの影響で中止。この結果、第7戦フランスGPは6月20日に日程変更され、その後はオーストリアでの2連戦となり、フランス、オーストリアと今季初のトリプルヘッダーになることが決まっている。
(文=bg)