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トヨタGR86 RZ(FR/6AT)

飛ばさなくても気持ちいい 2022.02.07 試乗記 高平 高輝 新型「トヨタGR86」はスポーツカーであると同時に、流麗なボディーを持つクーペでもある。ことに6段ATモデルはいわばダンナ仕様としてうってつけの存在だ。寒風吹きすさぶワインディングロードに連れ出してみた。

延期してまでこだわったGR86

発売が遅れていたGR86も出そろった今、ちまたのスポーツドライバーたちは、「せっかくのFRなんだから、やっぱりカウンターあてたいならGR86でしょ?」とか「いやいやもっと大人っぽい『スバルBRZ』に決まってる」などと熱い意見を戦わせて盛り上がっているのだろうか。そもそも市場が限られているジャンルではあるものの、そうだといいなと願うばかりである。それでこそスケジュールを変更してまで仕立て直した開発陣の努力も報われるというものだ。

ほぼ10年ぶりにモデルチェンジしたGR86とBRZは、トヨタとスバルそれぞれのこだわりが目いっぱい詰め込まれた2代目である。従来型同様に商品企画とデザインはトヨタ、設計開発と生産はスバルという役割分担とされている。両者のハンドリング・キャラクターの違いについては、既に詳しく解説されているので細かい部分にまでは踏み込まないが、大ざっぱに言えば86はフロントナックル素材やスタビライザーの取り付け方、スプリングレートなどを独自のものに変更して鋭い回頭性とドリフト時のコントロール性を重視、一方でBRZは高いスタビリティーを優先したということらしい。

リスケの理由として伝えられているのは、もっと「GR」らしい活気あふれるクルマにしてほしいという、マスターテストドライバーでもある社長の鶴の一声で最後の最後に開発をやり直すことになったという話だ。ちょっと出来過ぎのような気もするが、まあそういうことだろう。ただし、既に発表発売スケジュールが決まっているクルマの最終段階でやり直すのは、本当に大変なことである。一番偉い人の意見だから通ったが、ほとんど料理が出来上がったころに、下っ端がちゃぶ台返しを試みても静かに黙殺されるのが落ちである。しかも実際に生産を担当するのはスバルなのだから、その手間が増えたことは言うまでもない。実際に皆さんの仕事や生活を想像してみてほしい。「いまさらそんなあ、間に合わねーっすよ、せんぱーい」というものだろう。それだけ思い入れというか、こだわりが強いモデルなのである。

姉妹車の「スバルBRZ」よりも3カ月ほど遅れて発売された「トヨタGR86」。BRZよりも鋭い回頭性とドリフト時のコントロール性を重視したセッティングとなっている。
姉妹車の「スバルBRZ」よりも3カ月ほど遅れて発売された「トヨタGR86」。BRZよりも鋭い回頭性とドリフト時のコントロール性を重視したセッティングとなっている。拡大
四角い開口部が特徴的なフロントマスク。バンパー両サイドのスリットにはきちんと穴がうがたれている。
四角い開口部が特徴的なフロントマスク。バンパー両サイドのスリットにはきちんと穴がうがたれている。拡大
「スバルBRZ」と「GR86」では、フロントマスク以外はバッジ類が異なるのみとなっている。
「スバルBRZ」と「GR86」では、フロントマスク以外はバッジ類が異なるのみとなっている。拡大
18インチのタイヤ&ホイールは「RZ」専用。ミシュランのハイグリップタイヤ「パイロットスポーツ4」を履く。
18インチのタイヤ&ホイールは「RZ」専用。ミシュランのハイグリップタイヤ「パイロットスポーツ4」を履く。拡大
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クルマとして洗練されている

ユーザー側からすれば選択肢が増えるのはありがたいことには違いない。ただし、今回は新たに「GR」も冠することになった86の上級グレード「RZ」の6AT仕様を取り上げて、もしかすると“曲がりたがり”と聞いてちょっと引いている人に向けて、それほど心配する必要はないと伝えたい。確かにBRZと比べれば、乗り心地は若干硬く、ステアリングレスポンスもちょっと鋭いようだが、一般道で乗る限り、気を使わなければならないほどピーキーでもなければ尻軽な感じもしない。もちろん、片やBRZがダルでつまらないというわけでは決してない。何しろ基本は同じクルマ、繰り返すが設計開発も生産もスバルである。そもそもFRの特徴は鋭いターンインというよりも、そこから先のコントロールの奥行きである。いつもお尻が落ち着かないのでは、安心してステアリングホイールを握っていられないというものである。

それよりも声を大にして言いたいのは、新型は(たとえ86でも)従来型に比べて見違えるようにすっきり洗練されていることだ。プラットフォームは基本従来型のキャリーオーバーだが、ボディー構造の大幅な改良のおかげで格段にしっかりしており、乗り心地も雑音が取り除かれたようにクリアでクリーンだ。これまでのものは(特に初期型は)常にガサガサ、ザラザラした“プレハブ感”がつきまとい、まあこのクラスだからしょうがないか、と飲み込んだものだが、新型はあくを丁寧に取り除いたスープのような、雑みのないすっきりとした挙動がうれしい。シャープな回頭性うんぬんの前に、滑らかでクリーンですがすがしい。これが一番の美点だろう。

シャシーの基本構造は変わらないが、ボンネットやルーフなどにアルミを採用し、排気量拡大に伴う重量増を最小限に抑えている。
シャシーの基本構造は変わらないが、ボンネットやルーフなどにアルミを採用し、排気量拡大に伴う重量増を最小限に抑えている。拡大
ドアの内張りにスエード調素材を採用するなど、インテリアの質感が従来モデルよりも向上している。
ドアの内張りにスエード調素材を採用するなど、インテリアの質感が従来モデルよりも向上している。拡大
コンソールボックスの内部に2つのカップホルダーが用意されている。コンソール本体よりもボックスが一段高くなっているのが6段AT車の特徴だ。
コンソールボックスの内部に2つのカップホルダーが用意されている。コンソール本体よりもボックスが一段高くなっているのが6段AT車の特徴だ。拡大
カップホルダーの前方には2基のUSBポートがレイアウトされている。
カップホルダーの前方には2基のUSBポートがレイアウトされている。拡大

2.4リッターボクサーは新規開発

2.4リッターに拡大されたエンジンも、身のこなしのすっきり感同様に一気に洗練されている。スバルには同じ「FA24」という型式名で、同じボアストロークのターボ付きユニットがあるから紛らわしいのだが、新型86/BRZの2.4リッター自然吸気ボクサーはクランクシャフトやコンロッドをはじめ同じ部品はほとんどない新規開発ユニットだ。限られた資源のなかでもよくぞつくったというべきだろう。

従来型2リッターのマイナーチェンジ後のスペックは、6MT車で207PS/7000rpm、212N・m/6400-6800rpmというもの、6AT車では200PS/7000rpm、205N・m/6400-6600rpmだった。それが新型では、AT車でも235PS/7000rpmと250N・m/3700rpmに引き上げられている。ピークパワーの増強はもちろん、最大トルクの発生回転数が大幅に引き下げられていることにも注目だ。その効果は明白で、街なかでもグンと反応するパンチが扱いやすいし、リミットまで引っ張る場合の直線的に伸びていく自然な回転フィーリングも好ましい。従来型はトップエンドでは無理強いしたくないという苦し気なバイブレーションも気になったものだが、新型は途中でもたつくこともなくスムーズに健康的に回る。

スポーツモードでは「シフトパドル要らず」という触れ込みの6ATは、なるほどブレーキングに合わせてなかなか上手にシフトダウンしてくれるが、シフトアップ方向はやはり隔靴搔痒(そうよう)の感ありで、自分で操作したくなる。目いっぱいではなく、ある程度のペースで走る際には十分というレベルだ。ちなみにATモデルの最大の特徴がスバル独自の「アイサイト」を装備すること。ただし最新世代と比べるとレーンキープアシストなどを持たない簡潔なシステムにとどまる。さらにMT車向けのアイサイトをどうするのか、重々承知だろうが、この課題をいつまでも棚上げにしておくわけにはいかない。

パワーユニットは2.4リッター自然吸気の水平対向4気筒エンジン。最高出力235PS、最大トルク250N・mを発生する。
パワーユニットは2.4リッター自然吸気の水平対向4気筒エンジン。最高出力235PS、最大トルク250N・mを発生する。拡大
6段ATのユニット自体は先代モデルから踏襲。「スポーツ」モード選択時にブレーキングに合わせて積極的にシフトダウンするようになった。
6段ATのユニット自体は先代モデルから踏襲。「スポーツ」モード選択時にブレーキングに合わせて積極的にシフトダウンするようになった。拡大
「シフトパドル要らず」をうたいながらも、きちんとステアリングポストから生えている。
「シフトパドル要らず」をうたいながらも、きちんとステアリングポストから生えている。拡大
ドライブモードは「ノーマル」「スポーツ」に加えて「スノー」と「トラック」も用意されている。
ドライブモードは「ノーマル」「スポーツ」に加えて「スノー」と「トラック」も用意されている。拡大

もうちょっと大人っぽく

エンジンも乗り心地も一気に洗練されたのは間違いないものの、クルマとしての統一感という意味でちょっと残念なのが、昔ながらのコックピットまわりである。基本プラットフォームを踏襲しているために全体的な形状は変わらず、もちろん従来型よりは上等なトリムが使用され比べればまだしも、ではあるのだが、全体的な雰囲気が上質だとは感じられない。黒基調のうえに(赤い差し色もありがちだ)、できるだけ情報を盛り込む(スイッチや表示情報が多い)という古い文法を守らなければならないことはもうない。特にメーターのグラフィックは細かすぎて年寄りには見づらい。スポーツカーはこうあるべき、というこだわりもいいが、もっと柔軟に考えてもいいのではないか、と思う。この辺りは「マツダ・ロードスター」に見習うべき点はまだ多い。

このインストゥルメントパネルやインテリアの仕立ての子供っぽさに目をつぶるならば、新型GR86はATモデルでも大人が足に使えるちょうどいいクーペだろう。もう飛ばさないから、そんな年でもないし、と少し離れて見ている人に対しても、いやいや乗ってみると想像以上に気持ちいいクルマですよ、と言いたいのである。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

スエード調素材と本革のコンビシートがおごられる。調整はフルマニュアル式。
スエード調素材と本革のコンビシートがおごられる。調整はフルマニュアル式。拡大
大人が座るには苦労するが、小さいながらも後席があるのが便利。背もたれを倒してトランク側とつなげると18インチのタイヤ&ホイールを4つ積める。
大人が座るには苦労するが、小さいながらも後席があるのが便利。背もたれを倒してトランク側とつなげると18インチのタイヤ&ホイールを4つ積める。拡大
6段AT車には「アイサイト」が付いている。操舵支援などのないプリミティブなタイプだが、アダプティブクルーズコントロールが使えるのはありがたい。
6段AT車には「アイサイト」が付いている。操舵支援などのないプリミティブなタイプだが、アダプティブクルーズコントロールが使えるのはありがたい。拡大

テスト車のデータ

トヨタGR86 RZ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1290kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.7km/リッター(WLTCモード)
価格:351万2000円/テスト車=387万3020円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション T-Connectナビ<9インチモデル>(24万0350円)/カメラ一体型ドライブレコーダー<ナビ連動タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット<ナビ連動タイプ・光ビーコン付き>(3万3220円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1531km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:402.7km
使用燃料:44.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタGR86 RZ
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