トヨタGR86 RZ(FR/6AT)
マニアックだがそこがいい 2024.03.04 試乗記 トヨタのFRスポーツ「GR86」が、理想の走りを求めて各部をブラッシュアップ。ささやかだけれど明確な進化が感じられた改良の中身と、新たに追加された注目オプション“ザックス”と“ブレンボ”の効能をリポートする。兄弟とは違う道を行く
トヨタGR86を実際に設計・生産しているのは、兄弟車である「スバルBRZ」とともにスバルである(味つけについてはトヨタ独自だが)。スバル車は毎年、仕様変更や改良が実施されるのがお約束で、GR86も例外ではない。その変更・改良のたびに(初期をA型として)B型、C型、D型……と、順番に識別呼称が与えられるのも、その筋のマニアにはおなじみだ。
今回試乗したGR86は、2023年9月22日に予約受け付け開始、同年11月に納車が開始された最新モデルで、先述の例にならうと「C型」となる。ちなみに、同時に「AE86」の生誕40周年を記念する限定車も発売されている(参照)。
「86」も含めれば通算2代目となるGR86で、一部改良が明確にアナウンスされるのは今回が初。ただし、じつは2022年夏にウインカーレバーのオートライトスイッチがわずかに変更されており、それがB型だったのだ(参照)。
で、今回のC型における最大のニュースは、MT車にも先進運転支援システムの「アイサイト」が用意されたことだ(参照)。さらに、ステアリングにハンズフリースイッチが標準装備となった。以上の2点はBRZにも共通する変更点であり、GR86独自の変更として「ブラインドスポットモニター」が中間の「SZ」グレードでもオプション装着可能となった(最上級「RZ」では以前から標準装備)。
残るは走行性能にまつわる改良だが、これらはすべてGR86独自となる。といっても、パワートレインや車体、サスペンションなどの主要ハードウエアに手は入っていない。具体的には、横滑り防止装置の「VSC」の制御と、電子スロットルの出力特性が全車で変更されたほか、「ザックス(ZF)アブソーバー」と「ブレンボ製ベンチレーテッドディスクブレーキ」(前後17インチ、フロント対向4ポッド/リア対向2ポッド)が、競技ベース車両の「RC」を除いてオプションで用意された。
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乗ればわかるザックスダンパーの恩恵
今回試乗したGR86は、最上級のRZ。AT車なので、話題のアイサイトについては以前と変わりない。車両本体価格はアイサイトが追加されたMT車が12万円前後の値上げとなっているが、AT車のそれは6万円前後にとどまる。さらに試乗車には、ザックスとブレンボという2つの新オプションもさっそく追加されていた。
ザックスのダンパーは標準に対して減衰が明確に引き上げられているわけではなく、「スポーツ性能を犠牲にすることなく、乗り心地も向上させる」のが、開発意図という。
GR86のフットワークは俊敏なステアリング反応と限界域のコントロール性を重視した調律で、GT的な味わいを表現するBRZに対して、おおざっぱにいうと“フロント柔らかめ、リア固め”となっている。後輪が乗員のヒップポイントに近いFRのスポーツカーということもあってか、タイヤやダンパー構造は同じでも、日常域の乗り心地、あるいはヒビ割れ路面などでの入力の吸収性では、これまではBRZのほうが好印象だった。
ところが、今回のザックス付きのGR86は、路面感覚は相変わらず硬質ながら、とくに低速域での“アシが動いてる感”が如実に高まっている。以前ならちょっと身構えてしまう凹凸でも、拍子抜けするほどシレッと滑らかにクリアしてくれるのだ。さらに、伸び側の減衰が強めなのか、ロール方向の挙動も、標準より落ち着いた気がする。
それにしても、車体全体のがっちりとした剛性感、バリがきれいに取り除かれた豊かなストローク感は、2012年発売当時の先代86からすると、まさに隔世の感がある。よくも悪くも、プラットフォームやパワートレインの基本設計を変えないまま、地道な改良を連綿と重ねてきた成果だろう。そんな熟成のハードウエアに潤いあるしなやかさを加えたザックス装着車のフットワークは、ちょっと見事だ。
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軽快さと落ち着きの見事なバランス
GR86のこれまでのVSCは、通常のON状態でも、ある程度の姿勢変化を許容するマニアックなセッティングだったのが、今回から早めに介入する安定志向に調整された。「振り回したいやつは、どうせVSCもOFFかトラックモードでしょ」との判断らしいが、それはまあ、そのとおりだろう。
C型のGR86をVSC ONで走らせると、ワインディングロードでの緊張感はこれまでより少し緩和されている。もっとも、これはVSCによるものだけではないだろう。先述のように、今回はスロットル特性にも手が入っていて、GR86の乗り味にもっとも大きな変化をもたらしているのも、このスロットルだからだ。
GR86になってからは、荷重移動によるヨーコントロールのキッカケがつくりやすいように、スロットルがBRZより敏感なしつけになっている。とはいえ、明確に鋭いのは初期反応だけで、中開度~全開にかけてはマイルドというかリニアな特性に仕立てられている。それでも、俊敏なステアリング反応とも相まって“過敏”という声があったといい、C型ではその初期反応部分をよりマイルドにしたそうだ。
実際、粗雑なスロットル操作でリアがふらつきやすいGR86特有のクセは、今回はさらに減少している。そして、試乗車では標準よりしっとりとした挙動となるザックスともあいまって、荒っぽいステアリング操作でもより姿勢がくずれにくくなっていた。
それでも、BRZよりはメリハリのあるスロットル特性は健在で、GR86特有のフットワークチューンもあって、右足のわずかな力加減でクルマは軽快に動く。その軽快さと落ち着きのバランスが、これまでより確実に次元が高まったわけだ。BRZよりテールハッピーなフィーリングは86の伝統だが、この最新GR86は尻軽のようでいて、接地感とねばりもあり、クルマを前に押し出すトラクションにも不足はない。
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間断のない改良に感心させられる
ブレンボ製ブレーキもいわゆる“真綿で……”的なフィーリングで、それなりの効能は感じられる。ディスクローター径が拡大されたのは歓迎したいが、絶対的な制動力も飛躍的に……というほどではない。また、フロントがスライディング2ピストンとなる標準のブレーキも悪いデキではないので、20万円強というオプション価格を迷わず出せるかというと、個人的にはビミョーな感じだ。
対して、ザックス(ZF)ダンパーのオプション価格は5万5000円。乗り心地の改善に加えて、GR86らしいメリハリのある動きに、絶妙な落ち着きと潤いを与えてくれるザックスは素直にコスパが高い。個人的には、GR86を買うなら、ザックスだけは是が非でも選びたいところだ。
GR86(BRZもだが)は、先代の86時代から確実によくなり続けているところに、今さらながら感心させられる。このC型とほぼ同時期に大幅改良された「マツダ・ロードスター」の進化っぷりも好事家の間では話題だ(参照)。しかし、なかなかどうして、GR86も地味ではあるが、なんとも滋味深く進化している。
とくに、自然吸気エンジンでもスロットル特性をちょっとイジるだけで、クルマ全体の乗り味がこれだけ変わるとは興味深い。まあ、以前の試乗リポートでも書かせていただいたように、現行GR86はサスペンションやスロットル特性の味つけを発売直前に突貫工事で手直しした経緯があるので、まだ練り込む余地が残っていたのかもしれない。
いずれにしても、こういうマニアックな改良や進化は、ちょっと前までマツダの専売特許だった(?)。しかし、このGR86に加えて先日発表された改良型「GRヤリス」、そして濃厚な年次改良が恒例となりつつある「レクサス」などなど、最近のトヨタはマツダに優るとも劣らないマニアなココロを感じさせる。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタGR86 RZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1290kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)225/40R18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.7km/リッター(WLTCモード)
価格:357万4000円/テスト車=419万5280円
オプション装備:brembo製ベンチレーテッドディスクブレーキ<フロント:17インチ 4ポッド対向キャリパー/リア17インチ 2ポッド対向キャリパー>(20万3500円)/SACHS(ZF)アブソーバー(5万5000円) ※以下、販売店オプション 9インチベーシックナビ<NMZN-Y73D>(24万4310円)/カメラ別体型ドライブレコーダー ベーシックナビ連動タイプ<バックカメラ利用タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万1020円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:863km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:563.5km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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