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電動化時代とクラシックカー 貴重な内燃機関車の価値はどうなる?

2022.05.23 デイリーコラム 西川 淳

「変わらぬ価値」は幻想なのか?

旧車やヒストリックカーの世界は今、空前の売り手市場だ。バブル時代をほうふつとさせる、どころか、それ以上に過熱した高値相場だというマーケット関係者(ブローカーやオークショニア)も多い。半導体不足による新車供給減を端緒とした中古車相場の高騰までもが旧車相場を押し上げており、ほとんど、どんな旧車でも全面高の様相だ。

一方で、エネルギー危機や半導体不足の現在では少し足踏み状態になったとはいえ、電動化の波が寄せつつあることもまた事実。内燃機関がまるでなくなることは考えづらい、とはいうものの、少なくともこのままでは古い(=うるさくて排ガスの汚れた)クルマたちの肩身は狭くなる一方だろう。

それゆえ周りのクルマ好きからは、こんな類いの質問を受けることが最近めっきり多くなった。

「クラシックカーの価値ってこれから下がるんじゃないですか? 電気自動車の時代になると暴落するんじゃないですか?」

筆者の予想はこうだ。これまでの歴史と同様に、下がるモデルもあれば上がるモデルもあるけれど、ことコレクタブルカーに限って言えば厳密な意味でその価値を失うことはない。ただし、貨幣で測ることのできる価値という意味ではその国の経済成長や社会の安定度にもかかわってくるため一概には言えないので、そこの判断が難しいのだけれど……。

例えば、20年前の1000万円の価値は日本では変わらず1000万円かもしれないが、海外ではもはや半分くらいのイメージになっている。つまり20年前に1000万円だったクラシックカーが今2000万円になっているとして、われわれ日本人は2倍に高騰したように思うが、所得の増えた欧米人にとっての価値はほとんど変わっていないのではないか。そこに時の為替レートもかかわってくるから、なおさら金額ベースでの判断は難しい。

クルマの電動化は、多くの自動車ファンを魅了してきたポルシェでも着々と進む。ブランド初の量産型EVとして登場した「タイカン」(写真)の販売台数は今や、長年ポルシェの象徴とされてきた「911」のそれを上回っている。
クルマの電動化は、多くの自動車ファンを魅了してきたポルシェでも着々と進む。ブランド初の量産型EVとして登場した「タイカン」(写真)の販売台数は今や、長年ポルシェの象徴とされてきた「911」のそれを上回っている。拡大
国内での新車価格が年々上昇してきた「ポルシェ911」だが、往年のオリジナル911をはじめとするクラシカルなモデルの価格も、近年は極めて高価になっている。
国内での新車価格が年々上昇してきた「ポルシェ911」だが、往年のオリジナル911をはじめとするクラシカルなモデルの価格も、近年は極めて高価になっている。拡大
高価なクラシックカーといえば、やはりフェラーリは外せない。写真は、モータースポーツにおける活躍と希少性から、邦貨にして数十億円もの価格で取引される名車「250GTO」。こうした内燃エンジンを搭載する貴重なクルマの価値は、電動車が主流の時代になると、どうなってしまうのか?
高価なクラシックカーといえば、やはりフェラーリは外せない。写真は、モータースポーツにおける活躍と希少性から、邦貨にして数十億円もの価格で取引される名車「250GTO」。こうした内燃エンジンを搭載する貴重なクルマの価値は、電動車が主流の時代になると、どうなってしまうのか?拡大
ポルシェ 911 の中古車

この世にコレクターがいる限り

言えることはただひとつ。好きな人や欲しい人が世界中にいるモデル=コレクタブルカーに限って言えば、その価値を失うことはないということ。一定数のコレクターがいる以上、彼らの好むモデルの価値は上がることはあっても下がることはない。「コレクターの好むモデル」という基準を決めることがまた難しいが、コレクタブルであるかどうかはクルマ好きであればあるほど経験と知識である程度判断できることだろう。

例えば、生産台数のごく限られた人気ヒストリックカーだ。価値ある生産台数の目安(モデルごとのみならず、グレードや仕様の台数を問う場合もある)は、1000台→500台→300台→100台。当然、少なくなればなるほど価値の上昇する確率が高くなる。コレクターの好むモデルとはそういうクルマのことで、減ることはあっても増えることは絶対にない。

反対に価値の下がる可能性があるとすればそれは、特別なグレードの人気が高まり過ぎた結果、同じ形をした2ドアのスタンダードモデルはおろか、ひと昔なら見向きもされなかった4ドアのセダンやバンまで相場が高騰したような例だ。こちらは元値に戻るかどうかは別にして、もう少し相場を下げてくる可能性は高い。

また、世代が交代し電気自動車に慣れた人たちが増えたとしても、歴史を学ぶ機会がある以上、コレクターは世界規模で増えていく。だからやはりコレクタブルカーの需要は増えこそすれ減ることなどない。貧富の差が激しくなればなるほど、その傾向はさらに強まっている(富の独占)。

街なかで乗れなくなったら価値がなくなるのではないか、という質問に関しては一層、コレクタブルカーほどその可能性は低いと答えるほかない。今でもほとんどのクラシックカーは“動いていない”。美術品のような価値を持ち続けるモデルもあるだろうし、サーキットやクローズドな場所(ひょっとしたら特別な自治体)で走らせるという趣味の世界もまた確実に広がりつつある。メーカーやディーラーがそういったクルマの走行専用施設を建設したり、サーキット施設をリゾート的に充実させようとしたりするのは、そういう未来を見越してのことだ。

国産の旧車価格も上昇中。1970年代の名車として知られる“ハコスカ”こと「日産スカイライン ハードトップ2000GT-R」は、状態のいいものであれば2000万円以上の値をつける。
国産の旧車価格も上昇中。1970年代の名車として知られる“ハコスカ”こと「日産スカイライン ハードトップ2000GT-R」は、状態のいいものであれば2000万円以上の値をつける。拡大
例えば、2012年12月までに500台限定で生産されたレクサスのスーパースポーツ「LFA」は、その多くが“そもそも納屋の中”といわれる。多くの貴重車は、街で乗れなくなったからといって、即価値を失うものでもないのだ。
例えば、2012年12月までに500台限定で生産されたレクサスのスーパースポーツ「LFA」は、その多くが“そもそも納屋の中”といわれる。多くの貴重車は、街で乗れなくなったからといって、即価値を失うものでもないのだ。拡大
フェラーリが2021年11月に公開した限定車「デイトナSP3」。自然吸気のV12エンジン(最高出力840PS)がもたらすパフォーマンスもさることながら、フェラーリの最上位客やコレクター、アンバサダーだけにしか販売されないという事実が、その価値を約束する。
フェラーリが2021年11月に公開した限定車「デイトナSP3」。自然吸気のV12エンジン(最高出力840PS)がもたらすパフォーマンスもさることながら、フェラーリの最上位客やコレクター、アンバサダーだけにしか販売されないという事実が、その価値を約束する。拡大

名車が日本から消えていく!?

筆者としてはむしろ、日本にあるコレクタブルカーの貨幣価値が海外からみて安くなる一方だということのほうが気になって仕方ない。前述したように、所得の増え方もしかり、為替レートしかり、日本は今、欧米はおろかアジア諸国のなかでも低水準に推移している。今後、日本の国力が低いままであれば円安状態もさらに続いて、日本から有望なクラシックモデルがこれまで以上に海外マーケットへと流出するという憂き目に遭うことだろう。

今までなら流出を嘆く必要などさほどなかった。日本人だって海外からたくさんの名車たちを買いあさってきたし、出ていったクルマはまた戻ってくるものだ、と言うことができたからだ。日本と海外を行ったり来たりする個体は実を言うと意外に多い。為替レートの変動ひとつで誰も損することなくコレクタブルカーはグローバル市場において流通していた。けれどもこのまま日本人の経済力が世界の主要国や発展途上の国々に比べて伸び悩んだままだと、一度出ていったモデルが今後、日本市場をパッシングして流通する、つまり戻ってこない可能性が高くなる。

クルマの価値が高くなること自体、クルマにとっては良いことだと筆者は信じる。価値が上がったからこそレストアされ、草むらのヒーローから見事によみがえった個体も多い。けれども過熱した相場の上昇、それもクルマそのものの人気というより為替や経済力の差によってもたらされたハイプライスな状態は、日本のクルマ好きにとって大いに嘆かわしい事態だ。

もっとも人とは勝手な生き物で、クルマが高くなり過ぎて困ると言いつつ、自分のクルマを売るときには1円でも高く売りたいと思うものなのだけれど……。

(文=西川 淳/写真=ポルシェ、フェラーリ、日産自動車、トヨタ自動車/編集=関 顕也)

R32型「日産スカイラインGT-R」は、日本が生んだ高性能車の傑作として広く知られ、海外のマニアには大人気。国内の中古車は、北米をはじめとする海外のマーケットに続々と運び出されている。
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日本の経済水準次第では、国内外を行き来しているコレクタブルカーが、海外に流出したままになる状況も考えられる。クルマの価値が高まること自体は、好ましいことではあるのだが……。(写真はイメージ。2018年に開催された、ポルシェのラリーイベントにおけるワンシーン)
日本の経済水準次第では、国内外を行き来しているコレクタブルカーが、海外に流出したままになる状況も考えられる。クルマの価値が高まること自体は、好ましいことではあるのだが……。(写真はイメージ。2018年に開催された、ポルシェのラリーイベントにおけるワンシーン)拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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