【F1 2022】モナコGP続報:モナコで輝いたメキシコの星 ペレスの夢かなう
2022.05.30 自動車ニュース![]() |
2022年5月29日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第7戦モナコGP。大雨に2度の赤旗中断と荒れたレースで勝敗を分けたのは、状況を見極めるチームの判断力だった。
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モナコGPは来季もあるのか?
「モナコのレースも今年限り」などという、数年前には想像すらできなかったうわさが立つようになったのだから、世は移ろいやすいもの。実際、モナコ自動車クラブ(ACM)とF1との契約は2022年までで、契約延長の発表はまだない。背景にあるのは、F1とレース主催者の“駆け引き”だ。
F1のオーナーシップが米企業リバティ・メディアに移ってからというもの、アメリカや中東などでレース数は増え、来年はラスベガスGPが加わり、また南アフリカのキャラミがGP復活をもくろんでいるなどカレンダーは拡大傾向。とはいえ開催数を増やすにも限度があり、従来のGPの継続に黄色信号がともっても不思議ではない。
コートダジュールの碧(あお)い海を眼前に、ハーバーには豪華クルーザー、急峻(きゅうしゅん)かつ狭小の市街地にはカジノや高級ブランドのブティックが軒を連ね、欧州きっての社交場として知られるモナコは、まさにF1界の一等地。最初のレースは1929年までさかのぼり、F1が始まった1950年には早くも世界選手権に組み込まれ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった2020年を除き、1955年からは毎年開かれてきたモナコGPの重要さは、誰もが認めるところである。
しかし一方で、カレンダー中一番低いといわれる開催権料や、独特のレース運営が現代のF1にマッチしていないなど、是正すべき点もあるとされる。例えば昨今はF1の公式スポンサーがコース各所に広告看板を出しているのだが、モナコでは独自の商習慣が貫かれ、F1公式スポンサーのロレックスに遠慮することなく、モナコ独自のTAGホイヤー看板が堂々と掲げられていたりする。さらに、少しでも追い抜きしやすくするためのコース改修に対してもオーガナイザーが消極的であったり、テレビ放映を取り仕切るローカル局が力不足だったりと、F1側が改善したいという領域は多々指摘される。
伝統と格式を持ち合わせた稀有(けう)なレースが、来年以降も続いていけるのかは、F1と主催者が落としどころを見つけられるかにかかっている。過去から連綿と続く歴史と、輝かしい将来に向けた期待がせめぎ合うなか、今年で68回目となるF1モナコGPが、通常より1日遅い金曜日に幕を開けた。
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フェラーリ最前列、母国でルクレールが2年連続ポール
追い抜き不可能な難コース、どこよりも予選のポジションが重要なモナコ。壁にヤスリをかけるような激しいクオリファイは、最後に赤旗が出され各車ファイナルアタックは中途半端に終わるも、大本命が素晴らしいラップを決めて、“勝利に最も近い場所”を奪った。
この週末好調だったセルジオ・ペレスが、海岸沿いの「ポルティエ」コーナー立ち上がりでリアが流れウォールにヒット。コース上に止まったレッドブルを避け切れず、フェラーリのカルロス・サインツJr.が当たって進路をふさいだことで、Q3は赤旗中断、そのまま終了となった。
結果、暫定1位だったフェラーリのシャルル・ルクレールが母国で2年連続、今季では3戦連続、5回目のポールポジションを獲得。0.225秒差で2番手にはサインツJr.がつけ、フェラーリは2017年以来となるモナコでの最前列独占に成功した。
クラッシュしたペレスは3位、前戦スペインGPでポイントリーダーとなったマックス・フェルスタッペンは、赤旗でタイムアップを果たせず4位に終わり、レッドブル勢はフェラーリ2台の高い壁を越えなければならなくなった。
中団勢トップはマクラーレンのランド・ノリスで5位、メルセデスのジョージ・ラッセル6位と若手が躍進。その後ろには、アルピーヌのフェルナンド・アロンソ7位、メルセデスのルイス・ハミルトン8位、アストンマーティンのセバスチャン・ベッテル9位とチャンピオン経験者がずらりと並び、難コースでの腕前を見せた。10番グリッドは、アルピーヌのエステバン・オコンだった。
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スタート前に大雨、ピット戦略でレッドブルがポジションアップ
決勝日は、雨雲の到来を告げる予報が当たり、スタート直前になって路面をぬらし始めたかと思えば、各所に“川”ができるほどの大雨となった。ダミーグリッド上で各車ウエットタイヤを装着し、定刻から16分遅れて、セーフティーカー先導でフォーメーションラップへ。しかし雨脚がいっそう強まったため、この日最初の赤旗が出されしばし中断となった。
周回数は1周減の77周となり、およそ45分後に再びセーフティーカー先導でレースがスタート。3周目にローリングスタートで本格的な戦いの開始となる。
水煙立ち上る滑りやすい市街地コースで、ルクレールを先頭にサインツJr.、ペレス、フェルスタッペンとグリッド順のままの走行がしばし続いたが、レーシングラインは徐々に乾き始めており、浅い溝のインターミディエイトか、あるいは思い切ってドライに切り替えるかの選択のタイミングが近づいてきた。
このチャンスを上手に生かしたのがレッドブル、戦い方に迷いがあったのがフェラーリだった。
まず動いたのはレッドブルだ。3位ペレスを17周目にピットに呼び、インターミディエイトを与えてコースに戻すと、ペレスはコンディションに適したタイヤでペースアップ。19周目、首位ルクレールとフェルスタッペンもインターミディエイトに換装したのだが、2周先んじてタイヤを変えたペレスの戦略が、のちの結果に大きく貢献することになる。
そしてフェラーリは、このピット戦略で勝機を逸した。22周目、サインツJr.にインターではなくドライのハードタイヤを履かせたまでは良かったが、渋滞の中に戻してしまったのが痛かった。
さらにサインツJr.と同じ周、ルクレールにも2度目のピットストップを実施し、インターからハードに変更。このライバルの動きを見たレッドブルは、自分たちもペレスとフェルスタッペンにハードを履かせ、これで1位ペレス、2位サインツJr.、3位フェルスタッペン、4位ルクレールと、レッドブル勢がそれぞれポジションアップを果たし、ルクレールは首位から4位に陥落したのだった。
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ペレスがモナコ初優勝、レッドブル1-3
27周目、ハースのミック・シューマッハーが「プールサイド・シケイン」でクラッシュし、マシンはリアエンドがちぎれて大破。幸いドライバーは無事だったが、バーチャルセーフティーカーの後にセーフティーカーが出動し、30周目には赤旗が出され2度目の中断となった。
約20分後、セーフティーカー先導でレース再開、33周目にセーフティーカーが戻ると、1位ペレス、2位サインツJr.、3位フェルスタッペン、4位ルクレールという隊列で本格的なリスタートとなったが、ここはモナコ、この先また雨でも降らなければ順位変動は考えにくかった。
中断中にレッドブルはミディアムタイヤに履き替えており、またフェラーリは中断前からのハードで走行を続行。終盤にかけてペレスがタイヤに苦しみだし、2位サインツJr.、3位フェルスタッペン、4位ルクレールが数珠つなぎとなるも、ミスさえなければ抑え切ることは容易だった。
前戦スペインGPでチームプレイに徹し2位に甘んじていたペレスが、伝統のモナコGP初優勝。キャリア通算3勝目は、母国メキシコの伝説的ドライバー、ペドロ・ロドリゲスを抜く記録となる。「モナコで勝つことはどのドライバーにとっても夢」と語った32歳のメキシカンは、ロイヤルファミリーとともに立つ表彰台の上で母国の国歌を聴き、目頭を熱くしていた。
ポイントリーダーのフェルスタッペンは3位。今回は主役の座をチームメイトに譲ったが、タイトルを争うライバル、ルクレールの前でのフィニッシュとなったことからも表情はまずまずといったところ。そしてフェラーリは、2位サインツJr.、そして4位ルクレールといった結果に、当然のことながら満足できてはいない。特にルクレールとしては、デビュー以来母国で初めてチェッカードフラッグを受けたところで、うれしさはなきに等しいはずだ。
次は第8戦アゼルバイジャンGP。決勝は6月12日に行われる。
(文=bg)