スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)
スバルがつくる意義 2026.03.05 試乗記 スバルから本格的な電気自動車(BEV)の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。エンジン車と同様のラインナップを構築
スバルが初の量産BEVとなる「ソルテラ」を発売してから間もなく4年。当初は兄弟車に位置づけられる「トヨタbZ4X」とともに産みの苦しみを味わったが、先に施されたビッグマイナーチェンジでは、性能的にも価格的にもきっちり息を吹き返した感がある。
これをのろしとしてスバルは2026年、一気に3銘柄のBEVを販売もしくは発表する予定だ。ひとつは2025年夏に米国で発表された「アンチャーテッド」で、これはトヨタが欧州向けにリリースする「C-HR+」の兄弟車的な位置づけとなる。また、年内には3列シートSUVに相当するモデルも発表を控えているようで、こちらは2月に発表されたトヨタのBEV版「ハイランダー」と内容面での共有がうかがえそうだ。
そして3つ目のモデルがこのトレイルシーカーになる。商品の位置づけ的にはソルテラの室内空間を増やして使い勝手を高めたところが特徴で、こちらもトヨタが2月に発売した「bZ4Xツーリング」とは兄弟的な関係だ。開発リソースや中身を共有しつつ生産を分散しながら不確実な需要に対して可能な限りリスクをヘッジする。これらのモデル群からはそんな両社の意向が透けて見える。
ちなみにトレイルシーカーの開発を指揮した井上正彦プロジェクトゼネラルマネジャーはこれらのモデル群全般のみならず、過去には「BRZ」の開発責任者も担当しており、トヨタとの協業に最も精通したエンジニアだ。IDやラップトップもトヨタとスバルの両方ぶんが与えられ、週に一度は群馬・太田市~愛知・豊田市を自走で往復しているというから役柄にはタフさも求められる。ちなみにトレイルシーカーでは共同開発はもちろん、生産もbZ4Xツーリングとともにスバルの矢島工場が担うことになるため、トヨタ側の基準にも沿った部品設計や調達、品質管理の達成という新たな作業も加わった。
そんな井上さんに話を聞くと、トレイルシーカーの狙いはズバリ、「アウトバック」のBEV版をつくることだったという。いわれてみれば前述のアンチャーテッドは「クロストレック」の、そして後に控える3列シートSUVは「アセント」のBEV版的位置づけと想定すれば、スバルにとって一大票田である北米での需要を漏らさずBEVにつなげていくという大筋がみえてくる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
アウトバックよりも積める
現時点での海外市場はその意向とは異なる流れだが、こればかりはどうにも織り込みようがない。着々と内燃機系のモデルを販売しながら、粛々とBEV系のモデルを準備して機をうかがう。個人的には「S:HEV」の投入で軽くひと息つけたくらいのイメージだったが、トヨタのリソースや井上さんのフィジカルにも支えられつつ、気づけばスバルがいい感じでCO2削減の手はずを固めていたのかと気づかされる。
おっしゃるとおりで、トレイルシーカーのサイズは極めて現行アウトバック(日本では2025年に終売)に近い……というか、ほぼ同じだ。なんなら最低地上高は215mmと、誤差程度ながらアウトバックよりも高くしつらえているあたりに、悪路上等の意気込みがくみ取れる。ホイールベースはベースモデルのソルテラと同じ2850mmがゆえ、伸び広がりしたぶんは漏らさず積みしろに充てられる。ちなみに荷室容量はグレードに応じて595~633リッターと、おおむねソルテラに対して約150リッター、そして現行アウトバックと比べても約70リッター大きい。これほどの容量があれば、大人4人での旅行や家族でのキャンプやレジャーにも余裕で対応できるだろう。
内装は先のマイナーチェンジで大きく手が入れられたソルテラの意匠をベースとしており、装備群にも違いはない。上位グレードの取材車はスバルのイメージカラーであるブルーを基にしたレザートリムが新鮮な印象だったが、質感や機能は廉価なグレードでも十分満足できるものだった。また、ソルテラと同じく上下がフラットに削られたリムのステアリングは好みが分かれるかもしれないが、メーターの視認性や運転しやすいステアリングの位置決めという点においては、丸型よりもがぜん理にかなったものになっている。
スバル車らしからぬ瞬発力
トレイルシーカーの駆動方式は1モーターFWDと2モーター4WDの2つが用意されている。ソルテラと異なるのは前軸の駆動用に用いられる最高出力227PS/最大トルク268N・mのモーターを後軸にも搭載することで、この採用の背景には四駆としてのパフォーマンスもさることながら、用途に大量の積載や牽引(けんいん)も考えられるがゆえの大容量化という側面もある。ちなみに日本仕様は未確定だが、米国仕様ではアウトバックの7割程度、1.75t程度の牽引能力を織り込んでいるそうだ。この後輪側の駆動力強化の副産物として、0-100km/h加速4.5秒とスバル車では聞いたことのないような瞬発力がもたらされた。このずぬけた速さについては社内でもちょっとした物議を醸した……というところが「らしく」て憎めない。
今回は発売前のプロトタイプ試乗ということで、用意された場所は雪積もるクローズドコースだった。つまりその速さうんぬんよりも、四駆としての走破性や安定性をみてくださいということである。前日の日中に溶け出した雪が夜間に凍りつき、人でさえ滑って歩けなさそうな箇所もあるなど、その路面状況は試乗に厳しすぎるかと感じたほどである。
まずはソローッと走りだしてソローッと止まり、感触とクルマのマスを把握しながら徐々に速度を上げていく。以前、同じ場所、同じような環境でソルテラに試乗したこともあるが、その際の印象と比べるに、トレイルシーカーの動きはより安定志向に感じられた。若干の重量差はあれどホイールベースも基本ジオメトリーも同じとみれば、この印象の違いはチューニングの方向性によるところもあるのだろう。くだんのあり余るパワーを生かして自重に見合わぬ軽快さを誇示するというやり方もあるだろうが、車格と用途なりの落ち着きどころを見定めているあたりにもスバル的な見識が感じられる。
いたずらにパワーを誇示せぬセッティング
これはソルテラにも相通じる美点だが、アクセル操作に対する駆動の立ち上がりはすこぶる滑らかだ。トルクの塊が一気に押し寄せるようなしつけとは無縁で、じんわりとなでるように路面とタイヤを擦り合わせることができる。μの変化に合わせてトラクションを調整しやすいから、踏み過ぎで一気に足をすくわれるようなささいなミスも減るだろう。万一、そういう事態になったとしても細密に介入する駆動制御が優しく運転をサポートしてくれるし、減速についても回生制動が絶妙なバランスで速度をじんわりと落としてくれる。総じて、悪路や雪道での扱いやすさは内燃機のそれとは一線を画するところにある。
曲がることに関しても、常識的な速度や操作を心がけている限り、駆動制御任せにしておけばなんの不安もなく雪上のラインをトレースしてくれるわけだが、トレイルシーカーの持ち味はもちろんそれだけではない。ドライブモードを「スポーツ」に設定すれば、後軸寄りの駆動配分にモーターらしい高応答の特性が加わって、アクセルオンで積極的にノーズをインに寄せていくことも造作ない。と、そういう運転をしている間も駆動や制動の独立制御は目まぐるしく介入していて、自分のスキルだけで曲げているわけではないことが完全に可視化されているわけだが、ドライバーにそれを転ばぬ先のつえともいらぬお節介とも感じさせないところがまたすごい。
電気モノは制御でできることが内燃機とは比較にならない、だからつくり手はある種の全能感に陥りがちなんです。極端な話、何でもできそうだと思う。だからこそ、クルマのつくり方や動かし方にしっかりした思想をもっていなければならないんです。
井上さんの言葉を曲解すれば、水平対向の四駆を知り尽くしたスバルだからこそつくる意味のあるBEVがトレイルシーカーということになるのだろう。現時点ではごく限られたシチュエーションでの試乗だが、その隠された自信はクルマの動きひとつからも十分伝わってきた。
(文=渡辺敏史/写真=スバル/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4845×1860×1675mm
ホイールベース:2850mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:227PS(167kW)
フロントモーター最大トルク:268N・m(27.3kgf・m)
リアモーター最高出力:227PS(167kW)
リアモーター最大トルク:268N・m(27.3kgf・m)
システム最高出力:380PS(280kW)
タイヤ:(前)255/50R20 104Q XL/(後)255/50R20 104Q XL(ヨコハマ・アイスガードiG70)
一充電走行距離:627km(WLTCモード)
交流電力量消費率:134Wh/km(WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
NEW
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。 -
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える
2026.6.1デイリーコラム具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.6.1試乗記「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。
























































