ジープ・グラディエーター ルビコン(4WD/8AT)
アナタに使いこなせるか 2022.06.04 試乗記 ファン待望のジープのピックアップトラック「グラディエーター」が、ついに日本に上陸。最強オフローダー「ラングラー」をベースとした“積んで走れる”ニューモデルは「Go Anywhere. Do Anything.(どこへでも行ける。なんでもできる。)」というブランドコンセプトを、より強く体現した一台だった。ジープ史上最大のピックアップトラック
グラディエーター(Gladiator)、その意は剣闘士。随分勇ましい車名の源流は、1960年代の初めに登場した、SJ系「ワゴニア」をベースとするピックアップトラックにある。ジープとしてはウィリス時代から折につけピックアップをラインナップしており、記憶に新しいところでは、1980年代のCJ系をベースとした「スクランブラー」や、XJ系ベースの「コマンチ」などが挙げられるだろう。
これら歴代車種と並べても、新しいグラディエーターはジープ史上最大のピックアップであることは間違いない。その理由は、ブランドとして初めてダブルキャブを採用したからだ。車両前端からリアドア端までは「ラングラー アンリミテッド」と同寸になるが、そこから後ろはグラディエーター専用にホイールベースとリアオーバーハングが延ばされ、ベッド(荷台)が載せられている。
そのボディーサイズは全長×全幅×全高=5600×1930×1850mm、ホイールベースは3490mm。アンリミテッドと比べると、全長が730mm、全高が35mm、ホイールベースが480mm大きい。アメリカ的な尺度で言えば、一番売れているフォードの「Fシリーズ」や「シボレー・シルバラード」「ラム」あたりと比べるとちょっと小さいが、日本的な尺度で言えば、スーパーやファミレスなどの駐車場で間違いなく苦労するサイズだ。
ちなみに、ベッドの最大積載重量は250kg。普通貨物自動車として1ナンバー登録となり、自動車税や重量税は安い一方で、保険関係や高速料金は割高な設定となる。また、車検を毎年通さねばならない手間も考慮しておく必要があるだろう(初回のみ初年度登録から2年後)。
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為替相場の変動が憎い
こうした特殊性もあって、インポーターとしては当初、日本での正規販売は念頭になかったという。が、2018年末のロサンゼルスショーでのお披露目以来、国内のディーラーからも要望が多数寄せられたことで方針転換。それでも月に30台も売れれば御の字だろうという読みは、当初の輸入枠となる400台が一気に売り切れたことで修正を迫られた。そもそも、この狭い国土でラングラーが年に7000台以上売れているというのだから、日本は数字が読めない市場である。それでも、さすがにグラディエーターはその5%ぐらいでしょうと思いきや、現状では需要が大きく上回っているというわけだ。
グラディエーターは、アメリカでは「スポーツ」や「アルティテュード」などいくつかのグレードが用意されているが、日本においての展開は最も悪路走行に適したパッケージとなる「ルビコン」のみ。同様に、アメリカではラングラー系のモデルに6.4リッターV8ヘミの「392ユニット」(グラディエーターには設定なし)や3リッターV6ターボディーゼルなどのパワートレインも用意されているが、日本仕様のグラディエーターに搭載されるのは3.6リッターV6自然吸気の「ペンタスター」のみ。トランスミッションも8段ATのみとなる。それでも、現状の日本におけるラングラーのパワートレインは2リッター直4ターボのみとなるため、あえて大排気量マルチシリンダーのグラディエーターを、という選択の理由も考えられるかもしれない。
当初導入時は770万円だった価格は、現在は840万円に値上げされた。その主たる理由は悲しいかな、急激な為替変動だ。確認も兼ねて、日本仕様と同等の装備内容でコンフィギュレーションしたグラディエーターの米国現地価格は6万3000ドル余。1ドル127円で計算すると、約800万円となる。
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ジープならではの走りは健在
今回のオフロード試乗は、ジープの4WDモデルオーナーを対象に開催された、ドライビングアカデミー用のコースを使って行われた。まだ数少ない車両ということもあって公道での試乗はかなわなかったが、その代わりと言ってはなんだが、4ドアのアンリミテッドや現在はディスコンとなっている2ドアショートとの乗り比べができた。
折からの雨で、コースコンディションは絵に描いたようなヌタヌタ。路面ミューは限りなく低い状態だ。ルビコンは標準でBFグッドリッチのマッドテレインタイヤを装着しているので、ある程度の耐性は確保できるだろうが、オールテレインタイヤでは間違いなくスタックするような悪環境である。
そんななかで乗った日本向けグラディエーターの走破性は、ジープのなかでも悪路最強銘柄をベースとする、その出自に恥じないものだった。試乗のためにしつらえられたコースとはいえ、クルマが走るごとに緩んだ地面の凹凸はネチネチと掘られて深みを増していく。それでも、グラディエーターはあっさりと泥濘(でいねい)路を駆け抜ける。ロングボディー化によるランプブレークオーバーアングル、デパーチャーアングルの低下は想像以上に小さいようで、急な登り坂を乗り越えても腹底や尻がタッチすることはなかった。ドライバーがやることといえば、スロットルをパーシャルで保ち続けるだけ。しかもアクセルペダルは重めにしつけてあるため、悪路走行で大切な踏み加減の調整がとてもやりやすい。このあたりは、ラングラー出自の美点が漏らさず継承されている。
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この荷台になにを積もう?
それでも、一緒に乗った2ドアのラングラーの機動力は、グラディエーターとは完全に一線を画していた。喜々として加減速してはくるくると軽快に向きを変えるそのさまは、泥の上ながら“水を得た魚”。はた目には、風呂にいれる飼い主の面倒もそっちのけで無軌道に駆け回る子犬のようでもある。グラディエーターよりも1030mmホイールベースが短く、400kg軽いといえば、同じ血筋であってももう別物だ。あらためてジープの核心はここにあるということを見せつけられた気がした。そしてアンリミテッドの機動力は、この2ドアとグラディエーターのちょうど間くらいのところにある。よくできた話だが、実際に乗ってみてもそう感じられた。
そんななかで、あえてグラディエーターを選ぶ理由――。ロングホイールベースを利しての乗り心地のよさや、実は「アンリミテッド ルビコン」と大きく変わらない価格設定なども考えられるが、やはり大事なのは、見るだに使いこなしたくなる荷台にこそあるのだろう。それが仕事であれ遊びであれ、過酷な現場の際の際までギアを運ぶことができる機動力をどう生かすかは、オーナー次第だ。ともあれ、簡単にはたどり着けない場所で簡単には体験できない豊かな時間を過ごす、そんなうらやましい人たちに向けた最高のプレゼントであることは間違いない。
(文=渡辺敏史/写真=ステランティス ジャパン/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジープ・グラディエーター ルビコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5600×1930×1850mm
ホイールベース:3490mm
車重:2280kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)LT255/75R17 75S 111/1080 M+S/(後)LT255/75R17 75S 111/1080 M+S(BFグッドリッチ・マッドテレーンT/A KM2)
燃費:シティー=17mpg(約7.2km/リッター)、ハイウェイ=22mpg(約9.4km/リッター)、複合=19mpg(約8.1km/リッター)(米国EPA値)
価格:840万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2342km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ジープ・グラディエーター ルビコン(プロトタイプ)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5600×1930×1850mm
ホイールベース:3490mm
車重:2280kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)LT255/75R17 75S 111/1080 M+S/(後)LT255/75R17 75S 111/1080 M+S(BFグッドリッチ・マッドテレーンT/A KM2)
燃費:シティー=17mpg(約7.2km/リッター)、ハイウェイ=22mpg(約9.4km/リッター)、複合=19mpg(約8.1km/リッター)(米国EPA値)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:281km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。