ジープ・グラディエーター ルビコン(4WD/8AT)
荷台に夢を載せようか 2022.07.27 試乗記 世界屈指のオフロードマシンとピックアップトラックが合体! 強烈無比な個性を放つ「ジープ・グラディエーター」が、いよいよ日本の道を走りだした。日常を非日常に変えてしまうパワーを秘めた一台に触れ、「このクルマがある生活」を想像した。出自を感じる繊細なアクセルレスポンス
撮影前日、編集部から「全長5.6mなんで気をつけてください」という親切なメールをいただいたけれど、薄暗い地下駐車場で借り受けたので、そんなにデカいとは感じなかった。ただ、ジープの顔とピックアップトラックの荷台の組み合わせは見慣れないだけに違和感があって、半人半馬のケンタウルスの姿が頭に浮かぶ。そのまま街へ出ると、高い着座位置からの見晴らしがいいおかげで車幅感覚がつかみやすく、デカいはデカいけれど、持て余すほど巨大だとは感じなかった。
このクルマをひとことで説明すると「ジープ・ラングラー アンリミテッド」のピックアップトラック版で、ホイールベースを480mm、全長を730mm延伸して、荷台を設置している。ただ、前述したように運転席に座って走らせてみれば、ボディーの四隅がどのへんなのかが意外とわかりやすくて、内輪差にさえ注意すればなんとかなりそうだ。
3.6リッターのV型6気筒自然吸気の「ペンタスター」エンジンは、低回転域からリッチなトルクを発生。信号待ちからのスタートでは、クリープ状態から軽く右足に力を込めるだけで滑らかに速度を積み上げる。アクセル操作に対する反応が意外と柔軟で繊細だと思ったけれど、考えてみればそれも当然だ。このクルマは、泥濘(でいねい)地やぬれた岩場を乗り越える能力が求められているわけで、そんな難局でアクセル操作への反応が大ざっぱだったり不正確だったりしたら、ツルンと滑ってどんがらがっしゃんだ。
3490mmの長~いホイールベースによる内輪差に慣れて交差点をリラックスして曲がれるようになると、インテリアを確認する余裕ができてくる。といっても、インテリアの眺めは記憶のなかにあるジープ・ラングラーと同じ。ヘビーデューティーな雰囲気を伝えつつ、機能的でインターフェイスに優れた操作系だから、昔からのジープファンも、初めてジープに乗る人も、どちらも満足させるはずだ。
なんだ、ラクショーじゃん、と思ったのだけれど、だがしかし……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ボディー・オン・フレームならではの走り味
自宅周辺まで戻って考え込んだのが、どこに止めるのかだ。なじみの屋根付きコインパーキングに行ったけれど、前面の道路の車幅が狭くて、長~いホイールベースがアダとなってうまく収まらない。もちろん後方を映すカメラやボディー各部のセンサーがアシストしてくれるけれど、物理的に曲がれない場所ではどうしようもない。別のパーキングスペースではうまく収まったけれど、今度はフロントがちょっぴり道路にはみ出てしまう。尻隠して頭隠さず、だ。このっ、ホイールベースめ!
ようやく安心して止めることができたのは、一駅離れたホームセンターの駐車スペース。ルーフに脚立を載せたハイエースや、荷台に肥料が詰まった袋を積んだ軽トラに囲まれて、なんとなく収まりがいい。都心では居心地の悪さを感じたけれど、ここに居場所を見つけたような気分になる。今後、街でこのクルマを見かけたら、「だだっ広い駐車場を持っている人だな」という目でドライバーのことを見てしまうだろう。
そして撮影当日、集合場所の御殿場まで東名高速を走る。2018年にフルモデルチェンジを受けたばかりのジープ・ラングラーに試乗した時には、悪路での圧倒的な走破性能はそのままに、乗り心地が劇的に改善されて……いなかったことに戸惑いを覚えた(参照)。昨年(2021年)、ホイールベースが4ドア版より550mm短い2ドア仕様に乗った時は、「こっちはモデルチェンジしなかったのか!?」と思いたくなるぐらいドッタンバッタンの乗り心地だった。首都高速程度のスピードでさえ、まっすぐ走らせるのに苦労したことも驚きだった。
果たしてロングホイールベースのグラディエーターは、まずまずの乗り心地で、まずまず快適に東名高速の追い越し車線の流れに乗ることができる。「まずまず」という曖昧な表現を使ったのは、ジープ・ラングラーの歴史で見れば素晴らしく改善されているけれど、モノコック構造の最新プレミアムSUVに比べると 、フレームとボディーがバラバラに動くような“ラダーフレーム感”が顔をのぞかせるからだ。乗り心地はゴワゴワしているし、首都高の段差を乗り越える時のマナーも洗練されているとは言い難い。ズシンと身体に響く。
とはいえ、先述した2ドア版とこのグラディエーターを比べると、ホイールベースが短くなると“ラダーフレーム感”が凝縮され、長くなると薄まることが身体でわかる。一方、ロングホイールベース化による直進性の向上は目をみはるものがあって、こちらは「まずまず」ではなく、はっきりとリラックスしてハンドルを握ることができた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
気分はマッチョマン
で、乗り心地がゴワゴワしているから高速巡航が苦行だとかつまらないかといえば、そんなことはない。理由のひとつは、ジープ・ラングラーの悪路での超絶パフォーマンスを知っているからで、「こいつはちょっとゴワゴワするけれど、出るところに出れば誰にもまねできないアクロバットができるんだぜ」(参照)と思うと、そのゴワゴワもちょっとうれしかったりする。
ハンドルを握りながら、「NVH(ノイズ、ヴァイブレーション、ハーシュネス)じゃ人は死なない」という清水和夫さんの名言を思い出した。少しぐらいゴワゴワしようが、ブルブルしようが、ガーガーいおうが、そんなことで人は死なない。このクルマは、もしかするとホントに死んじゃうかもしれない場所から生きて帰ってくるためのものだから、ほかのクルマとNVH性能を比べること自体が間違っているのだ。
あと、このクルマにはコスプレ的な楽しさもあると思った。このデカくてゴツいクルマを転がしていると、自分が強靱(きょうじん)な身体と不屈の魂を備えたタフガイになったような気分になる。つい腕まくりをして、肘を窓枠に載っけたくなる。ランチはドライブインでハンバーガーとコーラとポテトにしよう、とまるでバカみたいだけれど、このクルマにはおじさんをその気にさせるパワーがある。
乗り心地とは対称的に、パワートレインは洗練されている。前述したようにV6エンジンは滑らかだし、8段ATはシームレスに変速するだけでなく、アクセルペダルを踏み込んだ時にギアを落とすタイミングがいい。気が利いている。高回転域での音はちょっと工作機械っぽい味気ないものだけれど、巡航時は静かで、これも高速道路を気分よく走れる理由のひとつだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
載せる荷物がなくたって
御殿場周辺のワインディングロードも楽しい。ただし、くいくいと曲がるから楽しい、というのとは逆だ。
コーナリングは、ハンドルを切ってからちょっと間を置いてから始まる。喜んで向きを変えるかというとそんなことはなく、ドライバーが誘導する必要がある。やや強めのクセがあり、スムーズに走らせるにはちょっとしたコツが必要だ。でもそのコツをモノにした時、自分がドライブしているんだという充実感が得られる。600PSのスーパースポーツでもシレッとコツいらずで乗れるようになった昨今、これも得難い個性だ。
撮影をしながら、ああだこうだと取材班の話が弾む。くだらない内容ではあるけれど、以下、だらだらと列記。
ルーフの着脱は意外と簡単&スムーズで、慣れればひとりでできそうだ。この広大な荷室には何を載せる? MTBやモトクロッサーが順当なところだろう。水上バイクはクレーンで積む必要があるから、載せるよりけん引だ。ソロキャンプだったら荷室でできるんじゃない? それは車中泊ではなく車上泊か。
内容こそくだらないけれど、これだけ話が弾むクルマはここ最近なかったことは間違いない。で、何も載せないというのもアリではないかとも思った。300m防水のダイバーズウオッチを持っている人で、300mも潜る人はほとんどいないだろう。一度も海に入らない人すらいるかもしれない。あれは、冒険ができるものを身に着けることで、仕事中でも満員電車の中でも冒険する心が感じられるというアイテムだ。
ジープ・グラディエーターも同じだ。バイクや自転車やキャンプ道具を満載して出かけるのも素晴らしいし、空荷で乗っても夢があった。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジープ・グラディエーター ルビコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5600×1930×1850mm
ホイールベース:3490mm
車重:2280kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4100rpm
タイヤ:(前)LT255/75R17 75S 111/1080 M+S/(後)LT255/75R17 75S 111/1080 M+S(BFグッドリッチ・マッドテレーンT/A KM2)
燃費:7.7km/リッター(WLTCモード)
価格:840万円/テスト車=851万9900円
オプション装備:ボディーカラー<ハイドロブルーパールコート>(5万5000円)/オールウエザーフロアマット(6万4900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:5119km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:303.9km
使用燃料:46.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:6.5km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】 2025.11.7 現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。
-
プジョー2008 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.11.5 「プジョー2008」にマイルドハイブリッドの「GTハイブリッド」が登場。グループ内で広く使われる最新の電動パワートレインが搭載されているのだが、「う~む」と首をかしげざるを得ない部分も少々……。360km余りをドライブした印象をお届けする。
-
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(後編:無限/TRD編)【試乗記】 2025.11.4 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! 彼らの持ち込んだマシンのなかから、無限の手が加わった「ホンダ・プレリュード」と「シビック タイプR」、TRDの手になる「トヨタ86」「ハイラックス」等の走りをリポートする。
-
スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.3 スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ボンネットの開け方は、なぜ車種によって違うのか?
2025.11.11あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマのエンジンルームを覆うボンネットの開け方は、車種によってさまざま。自動車業界で統一されていないという点について、エンジニアはどう思うのか? 元トヨタの多田哲哉さんに聞いてみた。 -
NEW
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2025.11.11試乗記ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は? -
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.10試乗記2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。 -
軽規格でFR!? 次の「ダイハツ・コペン」について今わかっていること
2025.11.10デイリーコラムダイハツがジャパンモビリティショー2025で、次期「コペン」の方向性を示すコンセプトカー「K-OPEN」を公開した。そのデザインや仕様は定まったのか? 開発者の談話を交えつつ、新しいコペンの姿を浮き彫りにしてみよう。 -
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(後編)
2025.11.9ミスター・スバル 辰己英治の目利きあの辰己英治氏が、“FF世界最速”の称号を持つ「ホンダ・シビック タイプR」に試乗。ライバルとしのぎを削り、トップに輝くためのクルマづくりで重要なこととは? ハイパフォーマンスカーの開発やモータースポーツに携わってきたミスター・スバルが語る。 -
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.8試乗記新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。



















































