これぞ日本の得意分野だ! 古今東西のクロスオーバーモデルを眺めてみる
2022.06.13 デイリーコラム隆盛の4ドアクーペのはしり
webCG読者諸氏はとうにご存じだろうが、「シトロエンC5 X」はセダンとワゴンとSUVをクロスオーバーしたモデル……なんだそうである。と言われても、どうもピンとこなかった。どっちかといえば、ワゴンとクーペとSUVじゃないの? ……なんてことをwebCG編集部のFくんと話していたら、彼に「シトロエンは昔からクロスオーバーみたいなことが得意なんですか?」と聞かれた。
どうかなあ? 昔はヘンテコもとい個性的なクルマばかりだったけど、クロスオーバーは……と思い巡らせたら、ありました。1958年に登場した「2CV 4×4サハラ」。FFである2CVのトランクルームにもフロントと同じ425ccの空冷フラットツインを積んで後輪を駆動するという、大胆な発想で4WDに仕立てたモデルである。成り立ちは破天荒だが、これってコンパクトカーとSUV、じゃなくてクロカン4WD(クロスカントリー4WD、ジープに代表されるオフロードに強いモデル)のクロスオーバーだったのではないだろうか?
というわけで、クロスオーバーという呼称こそなかったものの、現在で言うところのクロスオーバー的なモデルは昔から存在していたのである。例えば現在、4ドアクーペと呼ばれている背の低い4ドアセダン。セダンとクーペのクロスオーバーともいえるこの種のモデルの先駆けは、「トヨタ・カリーナED」に始まる1980年代の日本車の4ドアハードトップという説がある。だが、それ以前の1962年にイギリスで登場していたのが「ローバー3リッター マークIIクーペ」(コードナンバーP5)。既存の4ドアセダンのルーフを低めたモデルで、4ドアながら自ら「クーペ」と名乗っていたのだ。
現在はシューティングブレークと名乗ることが多いスタイリッシュなワゴン。かつてはスポーツワゴンと呼ばれていた、スポーツカー/GTとワゴンのクロスオーバーをいち早く送り出したのもイギリスだった。第1号を何とするかは意見の分かれるところだが、量産車という意味では1968年に登場した「リライアント・シミターGTE」だろうか。ベースはそれより4年前に登場した2ドアクーペの「シミターGT」で、GTEの“E”はEstate(エステート)の略だった。
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セダン×トラック
4ドアクーペやシューティングブレークは今日も健在だが、ほぼ絶滅してしまったクロスオーバーもある。例えば頑丈なトラックシャシーではなく、乗用車をベースにしたピックアップ。これのパイオニアは1957年にアメリカで登場した「フォード・ランチェロ」で、後を追って1959年に「シボレー・エルカミーノ」が出た。いずれもフルサイズのセダンやクーペと基本設計は共通なので、いうなればセダンとトラックのクロスオーバーだった。
こうした乗用車ベースのピックアップは日本にも存在した。商用車登録ではあったが、初代から3代目の「トヨペット・クラウン」をベースにしたモデルや、輸出専用車だが、初代および2代目の「スバル・レオーネ4WD」がベースの「ブラット」などである。それを思い出したように、2003年になってスバルは2代目「レガシィ・ランカスター」をベースにした「バハ」をアメリカでつくったが、数年で消えてしまった。最後までこの種のモデルをラインナップしていたのは、オーストラリアのフォードとGM傘下のホールデンだが、2010年代後半に相次いで自動車生産そのものを終了している。
今日のクロスオーバー車、特にSUVの要素があるモデルにとって不可欠ではないものの、多く使われているメカニズムが4WDである。ジープに代表されるクロカン4WD用と思われていたこの機構を最初に使ったオンロードモデルは、1966年にイギリスから登場した「ジェンセンFF」。FFとはF1マシンにも採用されたことがある「ファーガソン・フォーミュラ」というフルタイム4WD方式の略で、米クライスラー製の6.3リッターV8エンジンを積んだ大型高級GTの「インターセプター」をベースにしていた。
これから10年以上を経た1980年に「アウディ・クワトロ」が登場してラリー界を席巻すると、いよいよフルタイム4WDが高性能車のトレンドとなっていくのだが、その前、1970年代に日本から重要なモデルが登場している。1972年にデビューした「スバル・レオーネ エステートバン4WD」。4WDはパートタイム式で商用車登録ではあったものの、ロードクリアランスを確保して悪路踏破性を高めたその成り立ちは、ワゴンとSUVのクロスオーバーといえるだろう。今日の「スバル・アウトバック」のルーツである。
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SUVの本場アメリカで
レオーネ エステートバン4WD登場から3年後の1975年、スバルはレオーネの4ドアセダンにも4WD仕様を追加設定する。量産車としては世界初のセダン4WDであり、いうなればセダンとSUVのクロスオーバーだった。レオーネ4WDはアメリカでも好評で、これをきっかけとしてスバルにとって北米は重要な市場になっていくのだが、そのレオーネ4WDを多分に意識したと思われるモデルがアメリカから登場する。
ビッグスリーには大差をつけられてはいたものの、アメリカ第4のメーカーだったAMC(アメリカン・モータース・コーポレーション)が1980年にリリースした「イーグル(シリーズ30)」。1.8m超の全幅を除けば5ナンバー規格に収まるコンパクトカーの「コンコード」をベースに車高を上げ、当時AMCが傘下に収めていたジープのノウハウを生かしたフルタイム4WD機構を組み込んだモデルで、当初から2/4ドアセダン、5ドアワゴンという3種のボディーをそろえていた。
さらに翌1981年には、ボディーがひとまわり小さいサブコンパクトの「スピリット」をベースにした「イーグル(シリーズ50)」を追加。こちらは3ドアハッチバックと3ドアハッチバッククーペで、サイズ的にレオーネのガチンコのライバルと目されたが、AMC自体の不振もあって1983年には生産終了。先にデビューした兄貴分のシリーズ30もAMCがクライスラーに吸収されたため、1988年までにフェードアウト。しかし、既存のボディーとの組み合わせとはいえ、これだけワイドなクロスオーバーシリーズをAMCは40年も前に展開していたのである。
それらとほぼ同時期の1982年、今になって振り返れば、時代を先取りしたモデルが日本でデビューしている。「面白4WD」とうたった「トヨタ・スプリンター カリブ」である。スプリンターと名乗るものの、ベースは縦置きエンジンとパートタイム4WDを組み合わせた「ターセル/コルサ」の4WD仕様。当時の日本ではクロカン4WDなどといっしょくたにRV(レクリエーショナルビークルの略)とカテゴライズされていたが、これは専用ボディーを持つワゴンとSUVのクロスオーバーの先駆けではないだろうか。
数々のハズレとわずかなアタリ
1980年代後半のバブル期と前後して起きたスキーやアウトドアのブームと呼応して、日本ではRVが一躍脚光を浴びるようになった。当初は「三菱パジェロ」をはじめとするクロカン4WDなどオフロード寄りのモデルが中心だったが、1990年代に入るとブームの広がりとともに敷居が下がり、ワゴンやハッチバックにグリルガードやルーフレールなどを装着したお手軽仕様が続々と現れた。
例えばパジェロを頂点とするフルラインRVを推進していた三菱が1994年にリリースした「ギャラン スポーツGT」。地上高を少々高め、ルーフレールやバンパーガードを装着した5ドアハッチバックボディーに2リッターV6ターボとフルタイム4WDを搭載。「GTの走りとRVの楽しさ」を併せ持つとうたっていたが、ほとんどネタキャラ扱いで終わってしまった。
翌1995年に登場した「スバル・インプレッサ グラベルEX」も同様。2リッターフラット4ターボ+4WDを積む「スポーツワゴンWRX」をベースに、テールにスペアタイヤまで背負ったRV仕立てで登場したが、これも短命だった。登場するのが早すぎたのか? と思いきや、そういうわけでもないようだ。なぜならひと足先に登場していた「レガシィ グランドワゴン」(後のアウトバック)は市場に受け入れられたからだ。
アウディやボルボなどにも後追いモデルをつくらせ、ワゴンとSUVのクロスオーバーの先駆けと自他共に認める存在となったグランドワゴンとグラベルEXの違いはいったいなんぞやといえば、前者はオフロードの走破性を高めたいっぽうで、グリルガードなどのお遊び要素を持たない実力派だった。おかげで“なんちゃってSUV”などと揶揄(やゆ)されることもなかったのである。
それはさておき、1990年代にはこれらだけでなく、さまざまなSUV系クロスオーバー風味のモデルが登場した。独特な平べったい姿の「日産ラシーン」、トールワゴン風SUVにオープンエアの楽しさをプラスした「三菱RVRオープンギア」、オープン2座とクロカン4WDを組み合わせた「スズキX-90」、「ワゴンでもクロカンでもない、アーバンクールなハイライダー」を名乗ったスタイリッシュな「ホンダHR-V」……キリがないのでこのへんにとどめておくが、こうしたトライ&エラーを含めて、日本はけっこうなクロスオーバー先進国だったのかもしれない。
(文=沼田 亨/写真=ステランティス、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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