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ホンダZR-V X(FF/CVT)

これは“めっけもん” 2023.02.11 試乗記 下野 康史 イメージリーダーはハイブリッドの「e:HEV」かもしれないが、「ホンダZR-V」は純エンジンモデルのデキもいい。そのベーシックグレードのFF車、つまりいちばん安いZR-Vは、走りも装備も満足の、すてきなエントリーモデルに仕上がっていた。

「CR-V」の後を継ぐ

かつて新型車の発表と発売は同日であることがふつうだったが、最近は違う。新型コロナ禍に端を発する半導体不足など、サプライチェーンの障害が常態化している。生産が間に合わず、発表はしても発売延期を余儀なくされたり、発売したのに受注停止に追い込まれたりする例が相次いでいる。一方、発表前から“プロトタイプ”と称してメディアにはクルマを見せたり乗せたりすることも多くなった。売ってるのに買えない新型車や、メディアには出ているのに買えない新型車というモヤモヤした状況が、結果として新型車へのシラケムードを加速させなければいいと思う。

2022年11月に発表され、2023年4月に発売されるのがZR-Vである。かつての「ホンダZ」とはなんの脈絡もない中型SUVで、北米では「HR-V」を名乗る。好調の「ヴェゼル」よりひとまわり大きく、主力のハイブリッドe:HEVも1.5リッターのヴェゼルに対して、こちらは2リッターになる。ZR-Vの発表と同時期に姿を消した「CR-V」の事実上の後継モデルということになりそうだ。

そのなかで今回乗ったのは1.5リッターターボのFFの「X」。ホンダの最上級SUVながら、300万円切りの値札をつける最廉価版ZR-Vである。ヴェゼルの純エンジンモデルは1グレードだが、ZR-Vはもうひとつ上級版をそろえる2グレード体制だ。ちなみにこれまでのヴェゼルの純エンジン比率は1割というから、2割くらいのニーズは見込んでいるということか。

2023年4月21日に発売される「ホンダZR-V」。本来は2022年秋の予定だったが、部品入荷の遅れを理由に発売が延期されている。
2023年4月21日に発売される「ホンダZR-V」。本来は2022年秋の予定だったが、部品入荷の遅れを理由に発売が延期されている。拡大
パワートレインは2リッターハイブリッドの「e:HEV」と1.5リッターガソリンターボの2種類。それぞれに「Z」と「X」の2グレードがあり、さらにどちらのグレードでもFFと4WDが選べる。
パワートレインは2リッターハイブリッドの「e:HEV」と1.5リッターガソリンターボの2種類。それぞれに「Z」と「X」の2グレードがあり、さらにどちらのグレードでもFFと4WDが選べる。拡大
国内ではホンダの最上級SUVとなる「ZR-V」だが、北米ではエントリーSUVに位置づけられている。
国内ではホンダの最上級SUVとなる「ZR-V」だが、北米ではエントリーSUVに位置づけられている。拡大
既存のどのホンダ車にも似ていないフロントマスク。おちょぼ口のようにグリルが付いている。
既存のどのホンダ車にも似ていないフロントマスク。おちょぼ口のようにグリルが付いている。拡大
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アシがよく動く

295万円のシリーズ最廉価モデルといっても、試乗車にはカーナビやドライブレコーダーや有料車体色など、50万円近いオプションが載っていた。だが、機能装備に変更はない。アルミホイールのデザインの差はあるものの、純正タイヤはハイブリッドも純エンジンモデルも共に225/55R18で、試乗車はブリヂストンの「アレンザ」を履いていた。

その“すっぴんZR-V”はなかなか好感の持てる中型SUVである。走りだしての第一印象は、まず乗り心地がいい。SUVでもドテッとしたところがなく、ストローク感のあるアシがよく動いてくれる。リアサスペンションはマルチリンクだからCR-Vとの近似性が高い。日本での人気はイマイチだったCR-Vも、そういえば快適な乗り心地がなにより印象的だった。

助手席ドアにかけてのダッシュボードには、現行「シビック」初出の黒いパンチングメタルが埋まる。エアコンの吹き出し口を隠す横長の加飾パネルだ。水平基調のダッシュボードというのはSUVっぽくないが、そんな視覚的演出も手伝って、車内にいるとセダンかステーションワゴンに乗っているような錯覚にとらわれる。

FFでも4WDでも最低地上高は一律19cm。乗り込み時も着座時もそれほど“高い感じ”はしない。荷室フロアの地上高は69cm(実測)で、たまたま同道した「レクサスRX」より5cm以上低かった。重いかさモノの出し入れはしやすいはずだ。全幅1860mmのSUVとしては使いやすく運転しやすいクルマである。

足まわりはフロントがストラットでリアがマルチリンク。乗り心地は良好。
足まわりはフロントがストラットでリアがマルチリンク。乗り心地は良好。拡大
1.5リッター直4エンジンは最高出力178PS/6000rpmと最大トルク240N・m/1700-4500rpmを発生。トルクバンドが広い。
1.5リッター直4エンジンは最高出力178PS/6000rpmと最大トルク240N・m/1700-4500rpmを発生。トルクバンドが広い。拡大
タイヤ&ホイールはグレードを問わず18インチ。試乗車はブリヂストンのSUV用プレミアムタイヤ「アレンザ」を履いていた。
タイヤ&ホイールはグレードを問わず18インチ。試乗車はブリヂストンのSUV用プレミアムタイヤ「アレンザ」を履いていた。拡大
都市型SUV風のスタイリングながら最低地上高は19cmを確保している。
都市型SUV風のスタイリングながら最低地上高は19cmを確保している。拡大

身のこなしが軽い

ZR-Vの1.5リッター4気筒ターボは178PSを発生する。エンジンで141PS、モーターで184PSの最高出力を誇る2リッターハイブリッドと比べたら見劣りするが、パワーは十分だ。まだ乗っていないので、ハイブリッドとの比較はできないが、今回どんな場面でもとくべつ力不足を感じることはなかった。車重はハイブリッドより100kg軽いから、山道での軽い身のこなしなどはむしろ電動ZR-Vより上なのではと想像した。

ただ、あたりまえだが、常にエンジンの存在感は大きい。加速中のエンジン音はけっこう勇ましいし、Dレンジで停車中もアイドリングの微振動がハンドルに伝わる。と思ったら、アイドリングストップ機構が付いていなかった。トヨタは現行「ヤリス」からアイドリングストップをやめ始めたが、ホンダの非電動エンジン車も今後はアイドリングノンストップに戻していくという。燃費、コスト、使い勝手、信頼性など、総合的なメリット/デメリットを考えての判断だろう。

約370kmを走って、満タン法の燃費は10.1km/リッター。車載燃費計でも10.8km/リッターだった。カタログのWLTCモード燃費は14.6km/リッターで、同じXグレードのe:HEVだと45%増しの21.1km/リッターに伸びる。燃費はやはり2リッターハイブリッドの独壇場だ。

11.4インチの大型センターディスプレイはディーラーオプション。「Z」にはBOSEのサウンドシステムと組み合わされた9インチのシステムが標準装備(固定)のため、大きいスクリーンが選べるのは「X」のみの特権だ。
11.4インチの大型センターディスプレイはディーラーオプション。「Z」にはBOSEのサウンドシステムと組み合わされた9インチのシステムが標準装備(固定)のため、大きいスクリーンが選べるのは「X」のみの特権だ。拡大
純ガソリンモデルのシフトセレクターはオーソドックスなレバー式(「e:HEV」はボタン)。「X」には減速セレクターのシフトパドルがないため(「Z」にはある)、エンジンブレーキを強める「B」レンジが備わっている。
純ガソリンモデルのシフトセレクターはオーソドックスなレバー式(「e:HEV」はボタン)。「X」には減速セレクターのシフトパドルがないため(「Z」にはある)、エンジンブレーキを強める「B」レンジが備わっている。拡大
センターコンソールはブリッジ形状になっている。運転席側にはUSBタイプA(写真右端)が、助手席側にはタイプCが備わっている。
センターコンソールはブリッジ形状になっている。運転席側にはUSBタイプA(写真右端)が、助手席側にはタイプCが備わっている。拡大
ステアリングホイールはスムースレザー巻き。右スポーク上で操作する渋滞追従支援機能付きACCは全グレードに標準装備だ。
ステアリングホイールはスムースレザー巻き。右スポーク上で操作する渋滞追従支援機能付きACCは全グレードに標準装備だ。拡大

魅力十分な最廉価モデル

以前、ヴェゼルの純エンジンモデルに試乗した。118PSの自然吸気1.5リッター4気筒は高速道路だとけっして静かとはいえなかったし、相対的にショボイ16インチタイヤを履く足まわりは、乗り心地もイマイチで、正直、アリバイ的な非電動のベーシックモデルという印象を受けた。

しかし、この最廉価版ZR-Vは違う。必要にして十分なベーシックモデルで、プレーンな走り味は好感が持てる。国内でのホンダフルサイズSUVを1.5リッターエンジンで走らせる痛快さもある。数ある内外のSUVのなかでも“めっけもん”な感じがした。

センターコンソールまわりは立体造形で、CVTのセレクターが生える部分は宙に浮いたような趣向になっている。そのあたりに使われるレザーも、e:HEVでは“パール調”の光沢を出しているそうだが、べつにいらないよなと思った。

日本車でも輸入車でも、いちばん安いベーシックモデルのメディア向け試乗車が用意されているというケースはまれである。ベーシックモデルがイイと、うれしい。それが純エンジン車だとなおさらだ。全体フォルムは癒やし系で、フロントグリルだけちょっとベンツ風というスタイリングも妙に魅力的に見えてきた。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

シート表皮はプライムスムース(合皮)とファブリックの組み合わせ。「X」のFF車(=今回の試乗車)にだけシートヒーターが搭載されない。
シート表皮はプライムスムース(合皮)とファブリックの組み合わせ。「X」のFF車(=今回の試乗車)にだけシートヒーターが搭載されない。拡大
後席用にもエアコン吹き出し口を完備。「ヴェゼル」などとはシャシーが違うためシートのダイブダウンとチップアップはできない。
後席用にもエアコン吹き出し口を完備。「ヴェゼル」などとはシャシーが違うためシートのダイブダウンとチップアップはできない。拡大
純ガソリン車の荷室容量は408リッターと、「e:HEV」より13リッター大きい。
純ガソリン車の荷室容量は408リッターと、「e:HEV」より13リッター大きい。拡大
荷室の床下には発泡スチロール製の収納ケースが置かれている。内部が細かく仕切られているので使いやすい。
荷室の床下には発泡スチロール製の収納ケースが置かれている。内部が細かく仕切られているので使いやすい。拡大

テスト車のデータ

ホンダZR-V X

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1840×1620mm
ホイールベース:2655mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
最高出力:178PS(131kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500pm
トランスミッション:CVT
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ブリヂストン・アレンザH/L33)
燃費:14.6km/リッター(WLTCモード)
価格:294万9100円/テスト車=342万2100円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムクリスタルブルー・メタリック>(6万0500円)/Honda CONNECTディスプレイ+ETC2.0車載器+マルチビューカメラシステム+後退出庫サポート(29万2600円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(5万2800円)/ドライブレコーダー<前後車内3カメラセット>(6万7100円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1811km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:369.0km
使用燃料:36.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

ホンダZR-V X
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下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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