ターボエンジンは、いかにして“高効率エンジン”になったのか?

2024.02.13 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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かつてターボ車といえば「燃費を犠牲にして大パワーを得る」イメージでした。しかし、いまでは「高効率な内燃機関」として広く使われるようになっています。どうしてこのような変化が起きたのでしょうか? 技術的進化のポイントなどあれば教えてください。

ターボ付きのエンジンは、フォルクスワーゲンなどによる“ダウンサイジングターボ”の登場で大きく変わりました。

ターボというのは、もともと排気の圧力を使ってエンジンを過給する、つまり本来は捨ててしまうエネルギーを利用するので、基本的に「効率がよくなる方向の技術」ではあるのです。なかでもダウンサイジングターボは、排気量を減らしつつ(=課税レベルを下げつつ)ひとクラス上のトルクを得るという、一挙両得のようなテクノロジーになっています。

高効率型ターボエンジンの特徴のひとつは、「低回転域(アイドリングより少し上の回転域)からフルブーストがかかるようなつくりになっていること」です。ターボラグも、全くといっていいほどありません。

かつてターボは、タービン自体の慣性が大きく、ある程度強い排気が得られる領域でないと利きませんでした。それがどんどん改良されて、低回転域から使えるようになったわけです。2つの排気流路からエネルギーを回収する「ツインスクロールターボ」にも、小型化して慣性モーメントを下げたタービンが使われています。「トヨタ・スープラ」のターボを例にとると、1500rpmも回っていればフルブースト。アクセルペダルを踏んだらもう最大トルクが出る、そんな感覚です。

ここで大事なのは、原理原則。ひとくちに過給機といっても、例えばスーパーチャージャーは、吸気のコンプレッションのためにエンジンが発生する動力の一部を使ってしまうので、効率の面で限界があるのです。

高効率ターボエンジンでもうひとつ重要なのは、「ターボがかかっていない状態でも高い圧縮比を実現できている」ということです。

昔のターボは、過給すると圧縮比が上がりすぎたので、もともとのエンジンの圧縮比を下げていた。つまり、燃焼によるエネルギー効率の低い範囲が広かったのです。いまは直噴技術も発達していますので、圧縮比を高く設定しても異常燃焼によるノッキングは起こらなくなっています。「低圧縮で非効率な範囲」が大幅に減ったわけです。

以上2つの改良点が、ターボエンジンが高効率ユニットへと進化した要因といえるでしょう。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。