電動ハイパーカー「バティスタ」と「B95」が上陸 再起をかけるピニンファリーナの第2章
2024.06.06 デイリーコラム 拡大 |
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1959年には年間4000台以上を生産
自動車をはじめとするさまざまなプロダクトをデザイン、そして製作してきたイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナ。その名を知らない者は、とりわけ自動車ファンのなかでは皆無といっていいのではないだろうか。
創業者のバティスタ・ピニン・ファリーナが(ピニンは彼の愛称だった)、その兄が経営していたスタビリメンティ・ファリーナ社から独立し、新たにピニン・ファリーナ社を設立したのは1930年5月23日。したがって来年の2025年に、同社は設立95周年という記念すべき節目を迎えることになる。もちろん現在までの彼らの歴史は、順風満帆なものばかりではなかった。1939年には第2次世界大戦によって工場は全壊。同社の操業は一時完全に中止されているし、そこからの復興にも数年の時間を要した。
ピニン・ファリーナでは、ここからチシタリアやナッシュ、あるいはキャデラックのボディー製作に携わるが、彼らの運命を大きく変えたのは、やはり1950年代を迎えてからのフェラーリ、あるいはアルファ・ロメオとの生産提携だろう。1950年代半ばにはトリノ郊外のグルリアスコに新工場を建設するための土地を購入。その新工場にはアルファ・ロメオのスパイダーを毎日20台ずつ生産できるキャパシティーがあった。そして同工場が通年でフル稼働した1959年には、実に4000台以上のモデルが出荷されるまでに至ったのだ。
この新工場建設に前後して、バティスタ・ピニン・ファリーナは、自身の息子であるセルジオと義理の息子であるレンツォ・カルリを後継者として育て始めた。そして1961年、バティスタは正式に会社を後進に譲り、同時にイタリア大統領はファリーナの姓をピニンファリーナに変更することを承認。「ピニン・ファリーナ」の社名は、ここで「ピニンファリーナ」へと改められることになった。
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2015年にマヒンドラ傘下に
1960年代からのピニンファリーナは、デザインはもとより技術革新においてもさまざまな話題を提供してくれた。1966年にはフルサイズの風洞実験装置の導入計画が立ち上がり、それは1972年に完成。多くの自動車メーカーが、同施設を用いて自動車のエアロダイナミクスを飛躍的に進化させた。1980年代もピニンファリーナの拡大期は続き、カンビアーノに新たな研究開発施設を開設。エンジニアリング業務の可視化と独立性を大きく高めた。
だが2000年代に差しかかるころ、自動車メーカー自身による新型車のデザイン開発が一般的になると、いわゆるカロッツェリアの仕事は激減した。ピニンファリーナは自動車以外の業界でも積極的にデザイン活動を続けるが、それでも2007年末には3年連続の深刻な赤字に陥った。
そして2015年、現在のオーナーであるインドの自動車会社マヒンドラ&マヒンドラのオーナーであるマヒンドラグループによる買収に合意し、新たな体制で再スタートを切ることになったのである。
先日ジャパンプレミアが行われた「バティスタ チンクアンタチンクエ」と「B95」は、いずれも現在のピニンファリーナグループにおいて中核を担う、イタリアはカンビアーノに本社を置くアウトモビリ・ピニンファリーナ社によって生産・販売されるモデル。それはまさにピニンファリーナ完全復活の証明と評してもよいだろう。
まずはピニンファリーナ社(当時はピニン・ファリーナ社だった)の創業者である、バティスタの名を堂々と掲げたアウトモビリ・ピニンファリーナ社の復帰第1作ともいえるバティスタから解説を始めよう。バティスタがワールドプレミアされたのは、2019年3月のジュネーブモーターショーでのこと。社内コードで「PF0」と呼ばれていたこのモデルは、エッジの効いた斬新なフォルムが物語るように、最新の電動スポーツカーとして企画・設計されたものだ。
デザインはピニンファリーナのルカ・ボルゴーニョを中心とするチームで行われ、そのシルエットは、圧倒的なパフォーマンスを想起させる。コンセプトカーの誕生から5年を経過しているにもかかわらず、低くワイドなボディーや抑揚の強いウエストラインの採用などによって、現在においても古さをまったく感じさせない。これもまた、ピニンファリーナのテクニックである。
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バティスタは最高出力1903PSを発生
シャシーには現代のハイパーカーでスタンダードな仕様となりつつある、カーボンファイバー製のモノコック構造を採用。その前後にはアルミニウム製のサブフレームが連結され、それがクラッシュボックスとしての機能を果たす。ボディーパネルはほとんどがカーボンファイバー製で、正式な発表こそないがボディーそのものの重量は相当に軽量であると想像できる。前後のタイヤは「ピレリPゼロ コルサ」で21インチサイズ。アジャスタブルサスペンションシステムを採用し、どのようなコンディションでもドライバーは最大の快適性とパフォーマンスを両立した走りを楽しめるという。
パワーユニットはクロアチアのリマック・アウトモビリが開発。各ホイールに4基のエレクトリックモーターが備わる。システムトータル最高出力は1903PS、同最大トルクは2340N・mと驚くべき数字が並ぶ。0-100km/h加速をわずか1.98秒でこなし、最高速は約358km/hを誇る。ちなみにバッテリーは、やはりリマックから供給されるリチウムイオンバッテリーで、容量は120kWh。バッテリーパックはT字型にデザインされ、キャビンセンターのトンネル部分とシート背後に置かれる。フル充電からの走行可能距離は最大で450km。ドライバーは5つのドライビングモードから、好みに応じた設定を選択できる仕組みになっている。
バティスタは、ワールドプレミア後も細部の改良が続けられ、フロントエンドやウイングミラーのデザインが改められているが、さらに2020年にはハンドペイントの特別仕様車「アニヴェルサリオ」や、「インパルソ」とネーミングされた21インチサイズの軽量ホイールなどもリリース。2023年にはバティスタ・ピニンファリーナの甥にあたるF1レーサー、ジュゼッペ・ニーノ・ファリーナにちなんで、5台限定の「バティスタ ニーノ ファリーナ」も発売された。
参考までにバティスタシリーズはトータルで150台の限定。今回日本でお披露目されたチンクアンタチンクエもそれに含まれる。チンクアンタチンクエはイタリア語で55を意味し、ピニンファリーナが手がけた1955年の「ランチア・フロリダ」に着想を得たモデルと紹介されている。
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B95はわずか10台のみを生産
今回行われた、ピニンファリーナのジャパンプレミアイベントでは、バティスタ チンクアンタチンクエとともに、B95と呼ばれるオープンモデルも披露された。B95とは、イタリアのオープンカーではよく用いられるバルケッタの頭文字Bと、来年がピニンファリーナにとって創業95周年にあたることを意味する数字を組み合わせたネーミングだ。ワールドプレミアは、2023年8月。モントレーカーウイークのエクスクルーシブイベントを経て、直後の「ザ・クエイル モータースポーツギャザリング」で一般公開された。
生産台数はわずかに10台。このような限定車の常で、そしてさらにピニンファリーナというブランドのバリューを考えれば、すでにソールドアウト、あるいはそれも時間の問題というのが実際のところだろう。
B95のスタイルは、やはりバルケッタという言葉が最もよく似合う。ピニンファリーナがそのデザインで狙ったのは、オープントップでのドライビング体験を究極の域まで楽しませること。フロントスクリーンは世界初となる電動調整式のポリカーボネート製で、走行中に高速で流れる空気はキャビンの上方を滑らかに流れる仕組みになっているという。
この究極のオープントップともいえるモデルで、オーバー300km/hを可能にする加速を体験してみたい。そのようなカスタマーは世界に多くいるかもしれないが、前で触れたとおり、B95のステアリングを握ることができるのは世界でわずかに10人。しかも邦貨にして約7億円という支払いができる者に限られる。
B95のメカニズムは、基本的にはバティスタのそれと共通だ。すなわちリマック社の開発によるエレクトリックモーターとバッテリーを搭載し、最高出力1903PSを発生する。リチウムイオンバッテリーの容量も120kWhと共通の値。定格270kWのDC急速充電器があれば、25分で20%から80%までの充電ができるという。大胆にルーフやウィンドウを取り払ったことで、バティスタとは異なる独自の世界を体感させてくれるだろう。ピニンファリーナはまた歴史に残る一台を世に送り出すことができたようだ。
(文=山崎元裕/写真=ピニンファリーナ/編集=櫻井健一)

山崎 元裕
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