第18戦ブラジルGP「隣り合う相克というジレンマ」【F1 2010 続報】
2010.11.08 自動車ニュース【F1 2010 続報】第18戦ブラジルGP「隣り合う相克というジレンマ」
2010年11月7日、ブラジルのアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェで行われたF1世界選手権第18戦ブラジルGP。早ければ最終戦を待たずにフェルナンド・アロンソの3度目のタイトルが決まる、という重要なレースで、ライバルのレッドブルが圧倒的なペースで1-2フィニッシュを達成、次のアブダビGPでチャンピオンが決まることとなった。
ポイントでリードするアロンソ、それを追うマーク・ウェバーとセバスチャン・ベッテル。事実上3人に絞られた覇権争いは、チーム戦略とドライバー心理が複雑なあやをなし、大一番へと突入する。
■アロンソのタイトルを阻止する最善の方法
前戦韓国GPでも他を圧倒したレッドブルが、まさかの2台ノーポイントに終わったことで、優勝したフェラーリのアロンソがチャンピオンシップテーブルでも首位に躍り出た。
今回のブラジル、次の最終戦アブダビを前に、タイトルに可能性を残すドライバーの相関関係は、
1位 アロンソ 231点
2位 ウェバー 220点(1位から11点差)
3位 ハミルトン 210点(同21点差)
4位 ベッテル 206点(同25点差)
5位 バトン 189点(同42点差)
最高50点しか手に入らない状況で、しんがりのバトンは現実的に厳しい立場に追いやられた。そしてアロンソは、もしブラジルGPで優勝し、チャンピオンシップ2位のウェバーが5位以下でゴールした場合など、条件によっては3度目のタイトルに手が届くこととなった。韓国までポイントリーダーを守ってきたウェバーは2位、ベッテルは4位に沈んだ。
インテルラゴスは、昨年ウェバーが勝利した、レッドブルにとって験のいいコースだ。エイドリアン・ニューウェイが手がけたレッドブル「RB6」の高いパフォーマンスで反攻に転じたい彼らだったが、頂点の座を2人のドライバーが奪い合うというシナリオは、多くのリスクを伴うものだ。第7戦トルコで起こった同士討ちもそうだが、ポイントが散逸し結果としてアロンソに栄冠を奪われるということもあり得る。
ブラジルでレッドブルがアロンソのタイトルを阻止する最善の方法、それはウェバーが第12戦ハンガリーGP以来の勝ちを収め、ベッテルが2位に入ること。仮にアロンソが3位になった場合、アロンソ246点、ウェバー245点、ベッテル224点とウェバーが1点差まで詰め寄ることができるのだ。
だが、結果はそうはならなかった。レッドブルの独走劇は思惑通りだったが、ウィナーは、後半戦に入り僚友を凌駕(りょうが)し続けてきたベッテルの方で、タイトルにより近いウェバーは若きチームメイトの軍門に下った。アロンソは3位でゴールし、ダメージを最小限にとどめ、ランキング2位のウェバーに8点差をつけ中東へと向かうこととなった。
6年目にして初のコンストラクターズタイトルを手中に収めたレッドブルは、双方のドライバーに可能性がある限り、片方の肩を持つことはしない、という厳しくも危うい規律を最終戦まで貫こうとしている。
一方ただひとりに集中すればいいフェラーリは、最強のライバルを前に、アロンソを2位以上でフィニッシュさせ、チームにとって2007年以来のドライバーズタイトル獲得をもくろむ。タイトル決定戦は、わずか1週間後に控えている。
■意外なキーマンの登場
土曜日の予選は、雨が思わぬ結果をもたらした。濡れた路面ではじまったセッションは、途中一瞬の降雨があったものの、トップ10グリッドを決めるQ3の頃にはレーシングラインが乾きつつあった。
10分間と短いQ3後半、浅溝のインターミディエイトからドライのスリックにスイッチする瞬間が訪れ、スリリングなタイム争いとなった。結果ポールポジションについたのは、ウィリアムズのルーキー、ニコ・ヒュルケンベルグだった。後続を1秒以上離しての圧倒的な速さで自身初、ウィリアムズにとっては2005年第7戦ヨーロッパGP以来のポールポジションとなった。
ドライではペースセッターだったレッドブルは、ベッテル2番手、ウェバー3番手。ルイス・ハミルトンのマクラーレンを挟み、アロンソは5番グリッドとやや後方からスタートを迎える。
もしレースで、ヒュルケンベルグがレッドブルの2台を抑えるようなことになれば、後ろのハミルトン、アロンソにとっては願ってもない展開となったかもしれない。が、現状のウィリアムズ+コスワースエンジンとルーキードライバーの組み合わせでは、それは無理な注文だったのかもしれない。
打って変わって夏の青空が広がるレースデイ。シグナルが消えた直後の出だしこそ悪くなかったものの、1コーナーではヒュルケンベルグに予選2位のベッテルが襲いかかり、続く4コーナーではウェバーにかわされ、あっという間にレッドブルが1-2フォーメーションを完成させた。
ところが、ヒュルケンベルグが定位置(ミッドフィールド)に戻るのは、あっという間というわけではなかった。4位ハミルトン、5位アロンソを前に善戦、その間グリップ不足を訴えるハミルトンをアロンソが抜き4位に上がった。アロンソがヒュルケンベルグをオーバーテイクするシーンは、全71周の7周目まで待たなければならなかった。
ようやくレッドブルを追えるポジションについたアロンソだったが、ペースの上がらないウィリアムズに抑えられていたおかげで、トップのベッテルに10秒以上ものギャップを築かれてしまった。しかし、仮にヒュルケンベルグがいなかったとしても、フェラーリ「F10」の力量では、レッドブルの弾丸列車を捕らえられなかっただろう。
捕らえられないといえば1位ベッテルの後ろを走る2位ウェバーも同じだった。両車のギャップは1.5秒から3秒の間を行ったり来たりで、火花散らす戦い、とはならない。そうこうしている間に、ウェバーのルノーエンジンにオーバーヒートの兆候がみえはじめ、ペースを抑えなければならなくなった。
レース残り20周という時点で、ビタントニオ・リウッツィのフォースインディアがクラッシュ、セーフティカーが導入された。ウェバー最大のチャンスかと思われたが、ベッテルとの間に周回遅れが紛れ込み、好機を結果に結びつけることはできなかった。
レース終盤、わずかな可能性を信じて3位アロンソが2位ウェバーにプレッシャーをかけ続けたが、韓国で起きたような波乱はなく、レッドブルは今年4回目の1-2でチェッカードフラッグをくぐり抜けた。
■アロンソ、次戦2位で3度目のタイトル
レース前まで5人いたチャンピオン候補は、ベッテル優勝、ウェバー2位、アロンソ3位、ハミルトン4位、そしてジェンソン・バトン5位というリザルトで、正式にバトンが外れ4人となった。
1位 アロンソ 246点(-)
2位 ウェバー 238点(-)
3位 ベッテル 231点(↑)
4位 ハミルトン 222点(↓)
1位と4位の差は24点。残り1戦で最大25点しか追加できない今、ハミルトンの逆転は「奇跡が必要」と本人が認めるぐらい、極めて難しくなった。
ウェバーに8点差をつけたトップのアロンソは、アブダビで自らが2位に入り18点を加えれば自動的にタイトルを奪取できる。しかしそれには、少なくともレッドブルの1台を上回らなければならないことを意味する。
レッドブル対フェラーリ、現状のパフォーマンスギャップを考えると、特に予選でギャンブルに出るなど“何らかの仕掛け”が必要だろうが、韓国でみたように、ライバルにまさかのマシントラブルが起きたり、プレッシャーによるミスでリタイアしたりと、勝算はまだ十分にある。
一方レッドブルは、よりトリッキーなシチュエーションにいる。今回4勝目をマークし勢いに乗るベッテルが5回目の勝利を飾ると、ウェバーが2位であっても、3位にアロンソが入ればアロンソにタイトルが渡る。ウェバーが優勝、2位ベッテルだと、ウェバーがアロンソを2点突き放して初の王座に就くことができる。
最終戦に際してのレッドブルの戦略は、もし上記のような状況になれば、最終的にドライバーに任せる、というものだ。
「もし(レッドブルの2人のうち)片方が(タイトルを)勝ちを取れず、チームメイトを助けるべき状況となれば、もちろん彼らはそうするはずだと思う。しかしそれはドライバーが決めることだ」とは、レッドブルを率いるクリスチャン・ホーナーの弁。ウェバーはチームのスタンスを受け入れるとコメントした。そして、1-2状態でチームメイトに勝利を譲らなければならなくなるかもしれないベッテルは、このことについて多くを語ろうとしなかった。
2010年の王者は、いよいよ1週間後に決まる。3+1の決戦、アブダビGP決勝は、11月14日だ。
(文=bg)
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