第16戦日本GP「ベッテルの信念」【F1 2010 続報】
2010.10.11 自動車ニュース【F1 2010 続報】第16戦日本GP「ベッテルの信念」
2010年10月10日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたF1世界選手権第16戦日本GP。独壇場といわれていた鈴鹿で案の定レースをコントロールし今年3度目の1-2フィニッシュを飾ったレッドブル。チャンピオンシップでも2人のドライバーが1-2となり、ライバルチームとはもちろん、チーム内の覇権争いもいよいよ激しさを増してきた。
■レッドブル圧勝が約束されていたコース
「次のトラックは我々のマシンにとても合っているはずだ」
前戦シンガポールGP、ウィナーのフェルナンド・アロンソを終始苦しめ僅差の2位に終わったセバスチャン・ベッテルは、レース後こうコメントした。
その“次”とは、もちろん鈴鹿サーキットのことを指す。この世界屈指のクラシカルな難コースは高速コーナーに富み、高効率な空力性能を誇るレッドブル「RB6」に打って付けの場所。何事もなければ、マーク・ウェバーかベッテルのいずれかが優勝し、1-2も必至だろう、と思われていた。
フタを開けてみれば、その予想通りの展開。勝者は、週末を通して常にライバルをリードしていたベッテルの方だった。
2週間前の「我々のマシンに〜」という言葉の行間には、「次に勝つのは自分だ」というベッテルの確固たる信念が感じられた。
今年2勝目を記録した6月末の第9戦ヨーロッパGPから未勝利のまま。第12戦ハンガリーGPではトップ走行中のセーフティカーランでミスをおかして優勝を逃し、翌ベルギーGPでは痛恨のクラッシュでポイント圏外に脱落。5人によるタイトル争いで不利な立場に追いやられた23歳の彼には、若さゆえの経験不足や生来の精神的なもろさなど、さまざまなレッテルが貼られた。
だが、第14戦イタリアGPではトラブルで失速した後、奇策を講じて4位。翌シンガポールGPでは2位に入り、そして日本では2年連続となるポール・トゥ・ウィンを達成した。これでベルギーGP終了時には31点あったポイントリーダーとの差は14点に縮まり、一時は5位まで落ちたチャンピオンシップポジションも、2位アロンソと同点になるまで挽回(ばんかい)した。
いっぽう、ポイントリーダーの地位を守り続けるウェバーは、コース上で若きチームメイトを視界にとどめるも、捉えることはできなかった。大雨で各車ろくに走れなかった土曜日フリー走行を除く全セッションでベッテルに先を越され、レースではチームメイトに2秒前後のマージンを築かれコントロールされた。
残り3レース、初の栄冠を手に入れるために「また勝つ必要がある」という34歳のウェバー。ひとまわり近く若いベッテルの追い上げを前に、自らを鼓舞するかのような発言ともとれる。
勝負事では守るよりも攻める方が精神的に有利といわれるが、ともに同じ最強マシンを駆る2人は、コース上のみならず、隣り合うガレージのなかでの神経戦を繰り広げなければならない。
これに、鈴鹿でダメージを最小限にとどめたアロンソ、やや苦境に立たされた感のあるマクラーレンの2人が絡み、残る3勝=75点の争奪戦に突入する。
■史上2度目の予選・決勝同日開催
しの突く雨に見舞われた土曜日の鈴鹿サーキットは、コースのいたる所に川ができるほどコンディションが悪化。午後に予定されていた予選が、2004年の日本GP同様、日曜日の午前中に順延された。予選・決勝同日開催は史上2度目、つまり日本でしか行われていないことになる。
日曜日は前日とは打って変わって秋晴れ。トップ10グリッドを決める予選Q3で最速タイムを計時したのはベッテルで、今季8回目、2年連続となるポールポジションを獲得。0.068秒差でウェバーが2位に入り、レッドブルは今年7回目のフロントロー独占に成功したが、誰も驚きはしなかった。
レッドブルに次ぐタイムはルイス・ハミルトンのマクラーレンが記録したが、トランスミッション交換で5グリッド降格のペナルティを受け、かわりに善戦したロバート・クビサが3番グリッド、そしてアロンソ、ジェンソン・バトンと続いた。
数時間後に迎えた決勝スタートでは、ベッテルが1位をキープしたが、クビサが絶妙のタイミングで飛び出し2位にジャンプアップ、3位に落ちたウェバーの頭上にだけ一瞬暗雲が垂れ込めた。
その後方で、予選13位のビタリー・ペトロフのルノーが、同9位のニコ・ヒュルケンベルグのウィリアムズと接触、さらに12番グリッドのフェリッペ・マッサのフェラーリと、17番グリッドのビタントニオ・リウッツィのフォースインディアも当たり、早々に4台がリタイア。すぐさまセーフティカーが導入された。
この徐行走行中に、またとない好スタートを切ったクビサのマシンが何らかの理由で脱輪しストップ。ルノーは3周にして全滅してしまった。
7周目にレース再開。1位ベッテル、2位ウェバー、3位アロンソ、4位バトン、5位ハミルトンと、タイトル争いを繰り広げる5人全員が上位に名を連ねたが、トップ2のペースに3位以下は追いつけず、ベッテルは時としてアロンソより1秒速いラップを刻み、2位ウェバーに対してはファステストラップを更新し、逃げに入った。
10周を過ぎる頃にはベッテルとウェバーとの間には2秒前後のクッションが築かれ、以降この差はキープされた。明らかにベッテルが終始コントロールしたレースだった。
意外性のないレッドブル1-2フォーメーション、上を狙えないが下からも脅かされない3位アロンソという上位陣のなかで、やや突飛な策に出たのがバトンだった。
よりライフの長いハードタイヤでスタートし、38周までピットストップを遅らせる、という作戦をとり、25周からピットに入るまでレースをリードした。しかし1位走行中にもタイムは伸び悩み、早めにタイヤ交換を実行したライバルの先を越せず。39周目、前を走るハミルトンが3速ギアを失ったことで4位の座を得ることができただけ、だった。
■小林可夢偉のオーバーテイキングショー
バトン同様にピットストップを遅らせたのが、予選14位の小林可夢偉だった。38周を終え、6位まで順位を上げていた小林がピットに駆け込むと、12位でコースに復帰。以後、時として接触されながらもヘアピンを舞台にオーバーテイキングショーを披露し、母国の観客は大歓声で応えた。ハイメ・アルグエルスアリ、ルーベンス・バリケロ、チームメイトのニック・ハイドフェルドを次々と料理、エイドリアン・スーティルのリタイアにも助けられ、スリリングなレースを7位で締めくくった。
このレース後のチャンピオンシップトップ5は、
1位 ウェバー 220点(−)
2位 アロンソ 206点(−)
2位 ベッテル 206点(↑)
4位 ハミルトン 192点(↓)
5位 バトン 189点(−)
1位と5位の差は31点にまで開き、マクラーレンが徐々に追い込まれてきた。
そしてその上では、久々の勝利で弾みをつけたい若きドイツ人と、それを迎え撃つ、ポイントリードを3点拡大したオーストラリア人、この5人のなかで唯一2度タイトルを獲得しているスペイン人が並ぶ。
次戦は初開催となる韓国GP。新設サーキットの準備が間に合わず、日本GP直後にコースの最終確認が行われるという綱渡りのスケジュールとなっている。一時は開催も危ぶまれたが、大方の予想では10月24日には無事レースがスタートするだろう、といわれている。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |