第3回:新作「クラシック650」で“ライダーの聖地”を巡礼 奥多摩を走って食べる!
2025.08.27 ロイヤルエンフィールド日常劇場![]() |
ロイヤルエンフィールドの最新モデル「クラシック650」で、目指すは“ライダーの聖地”奥多摩! 首都圏随一のツーリングスポットで、バイクの魅力と山里散策を満喫し、奥多摩グルメを食べに食べまくった。いやぁ、バイクって本当にいいものですね!
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ちょっと暑すぎじゃありません?
「今日はどこへ行くんです? これだけ暑いし、夏休みで混み合うのも嫌だから、自分なら真っすぐ富士へ逃げようと思いますけど」
記者にバイクを手渡しながら、「ロイヤルエンフィールド東京ウエスト」のスタッフさんが言う。八王子駅より徒歩で15分。すでに汗でデロデロの記者は思った。いや、そうしたいのは山々なんですけどね(富士だけに)。氏の提唱するルートは非常に魅力的だったが、今回はそれに倣うわけにはいかなかった。この日は奥多摩に行くつもりで、お昼の釜めし屋さんまで予約していたのだ。
奥多摩……厳密には奥多摩にあきる野、日の出、青梅、檜原、それに山梨側の上野原、小菅、丹波山を合わせたこの一帯は、記者がバイクで散策する楽しさを知った開悟の地だ。かねて二輪関連のコラムで紹介してやろうとたくらんでいたのだが、そこに転がり込んできたのが本稿の取材。記者は記事を私物化し、一億読者に山と渓谷の素晴らしさを宣伝しようと決めたのである。
というのは半分冗談で(=半分本気)、本稿の主役はロイヤルエンフィールドの最新作、クラシック650である。創業125周年を迎えんとする名門の、まさに本流の一台。バイクにクルーザーだなんだといったジャンル分けなどなく、このスタイルこそがモーターサイクルだった時代からつくられ続ける、伝統のかたちだ。文字どおり、ロイヤルエンフィールドのクラシック(Classic:古典)。宿る年季の違いもあって、そのたたずまいにはよそさまのネオレトロにはない説得力があった。本日の役者として、文句なしの風格だった。
……そう、バイクに文句はない。文句があるのは、本日のお天道さまに対してである。八王子の気温は優に35℃を超え、バッキバキの太陽とアスファルトにあぶられたバイクウエアの内側は、さながら移動式サウナ。さっそうと店を出た記者は、新滝山街道に出るより早くに身の危険を感じ、「死ぬ、死ぬ」と言いながらコンビニに駆け込んだのである。
いつまでもトコトコ走っていたくなる
「東京サマーランド」へ向かう渋滞を横目に、滝山街道をひたすら北進。道が西向きとなったあたりで多摩川をひょいと越え、青梅街道へと移る。今日の暑さに「無理はしない」と決めていた記者は、ここでふたたびピットイン。「へそまんじゅう総本舗」にて自販機の麦茶と、「こんなだから痩せないんだろうな」と思いつつ奥多摩銘菓をひとついただいた。
それにしてもである。炎天下で人のほうはグッタリなのに、クラシック650は涼しい顔だ。空冷ながらエンジンは安定しているし、放熱でライダーのおまたを焦がすこともない。ナリは古典でも、中身は令和のモーターサイクルである。しかもこのエンジン、驚くほど回転がスムーズで快適なのだ。それに加えて、クルーザーならではの高い走行安定性と、“天神乗り”スタイルの安楽なライディングポジション、そして優雅な乗り心地である。街道沿いの渓谷と濃緑を楽しみながら、いつまでもトコトコ走っていたくなる。
……走っていたくなるのだが、走ったら走ったぶんだけ終点が近づくのは摂理である。井川にたどり着いた記者は、釜めし屋のある大丹波へと信号を右折。味わい深い青梅街道に別れを告げた。
そこから先は急峻(きゅうしゅん)な山坂道だ。見通しの悪いカーブも多く、車速もそんなに出せないのだが、それでもクラシック650は痛痒(つうよう)なくグイグイと駆けていく。意外だったのが取り回しのしやすさで、車重があり、シート高も何気に高いバイクにもかかわらず、撮影のためにちょこまか動かし、たびたび切り返しを試みても、さほど苦にはならなかった。
白状すると、さも奥多摩親善大使のごとくふるまっている記者だが、大丹波地区におじゃまするのはこれが初。未知の道(ダジャレじゃないよ)を「なにが出るかな? なにが出るかな?」と寄り道しながら散策するうえで、クラシック650の扱いやすさと快適さは、非常に心強かった。
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ワインディングも意外と楽しい
それにしても、それにしても、この日の記者はツイてなかった。「食事処ちわき」でアユの釜めしとイワナのお刺し身と団子汁をいただき(うまかった……)、濃緑と渓流で呼吸器系とココロを洗浄し、メカメカしい白丸ダムや小河内ダムの洪水吐(こうずいばき)でダム欲を満たしたまではよかったが、「じゃ、そろそろ記事用にバイクの細部でも撮りましょか」となったところで突如の雷雨。他の観光客とともに、きゃあきゃあ言いながらダム休憩所のあずまやへと逃げ込んだのである。
雨は1時間ほども降り続き、バイクはもちろんぬれてぐっちょり。銭湯を楽しみに持参した手ぬぐい(安心してください。新品ですよ)で車体を拭き上げたころには、記者の心はすっかり折れていた。猛暑の次は豪雨かよ。前々から知ってたけど、神さま仏さまはよほど俺が嫌いに違いない。スマホを見れば時間も押し気味。記者はこののちのスケジュールを切り上げ、奥多摩周遊道路をまわって帰ることにした。東京西端のライダーの聖地は、雨風によってまだらに散らかっていたが、クラシック650は砂利を踏んでも枝葉を踏んでも、ただただ穏やかに傷心の記者をふもとへ運んでくれた。
さて、ここで本日2度目の白状をすると、実は記者は、奥多摩周遊でのクラシック650の身のこなしに、そこまで期待していなかった。安定性重視のクルーザーだし、つづら折れも“楽”ではあっても、“楽しい”なんてことはなかろうと思っていたのだ。しかし楽しかったのである。長くて低い車体は傾けるのに抵抗がないいっぽうで、前後方向には安定していて、下りカーブで減速してもおシリ(≒リアタイヤの荷重)がさほど不安にならない。648ccの並列2気筒は、トルクのツキがいいうえに低回転でもよく粘り、ギアを下げ損ねてカーブに入っても音を上げない。そもそもギアダウンによるショックもほとんどないので、コーナリング中にも遠慮なくシフトしていける。
要は安定志向、快適志向であるがゆえに、車体の操縦に専念でき、またバイクが受け付けてくれる操作の幅も広いのだ。恐らく、世のライターの先生方は、こういう感覚をして「懐が深い」と評するのでしょう。これはあくまでクルーズ+αの速度域の感想だが、そこに、過日取材した「ベア650」(その1、その2)とはまた違った楽しさがあったのは、ホントである。
高速道路は90km/hほどで優雅に流すべし
時は飛んで1週間後、バイクはこの日に返却だというのに、記者はふたたび、奥多摩へと向かっていた。雨天中止となった過日の取材では、奥多摩の魅力……もとい、クラシック650の魅力は表しきれないと思ったのだ。前回と違うルートを採るべく、中央道を西へとひた走る。目指すは山梨・大月で、今度はそこから、国道139号線で小菅へと向かうことにした。
というわけで高速でのクラシック650の様子だが、その走りは648ccの排気量でゆとりが十分。ただし、6速・90km/hを超えると振動が出てくるので、自然と車速はそれ以下に収まり、このバイクらしい、ゆったりとしたスタイルで距離を稼ぐ格好となる。長く乗っているとちょっとお尻が痛くなるが、それは上体の重さがまっすぐ尻にかかる“天神乗りバイク”の宿命。むしろ同ジャンルの機種としては、それも軽微に感じられた。
大月ICで高速を降りたら、甲州街道を少しばかり東へと戻り、「←国道139」「小菅24km」の標識を見て左折。正面にそびえる岩殿山を写真に収め、ついでにロイヤルエンフィールドのナビアプリを起動した。実をいうと、記者はこの国道139号線を走るのが人生初だったのだ。わくわくドキドキであった。
で、実際に走った感想はというと、これはお気に入りリストに追加。マイペースでトコトコと行ける、のどかでいい道だった。前回走った青梅街道のように、名所や名店、ついでに銘菓が点在しているわけでもなく、奥多摩周遊道路のように、肉食系ライダーがブイブイいわしているわけでもない。山野や山里のなかを、深緑で目を癒やしながらのんびり走れるのだ。一部のあい路を除けば道自体も気難しいところはなく、肝を冷やすタイトなつづら折れもない。特に今回の場合、旅のお供が気の置けないバイクだったので、よりのびのびとお散歩ツーリングを楽しめた。
バイクって本当にいいものですね
せっかちなライダーさんなら卒倒してしまうくらいに時間をかけ、奥多摩エリアの西の玄関(と勝手に記者が思っている)「道の駅こすげ」に到着。昼食時までアイスコーヒーとクリームソーダで時間をつぶしてから、白沢川の古民家カフェに向かった。いただいたのは、エゾシカのハンバーグ定食と梅ソーダだ。渓流沿いの建屋は縁側を開くと冷房いらずのすがすがしさで、記者は心底思った。東京に帰りたくねえ。なんて書くと「奥多摩も東京だろうがいっ」という意地悪さんがいそうだが、安心してください。今いる小菅はギリ山梨ですよ……。
それにしても、こうしてひとりツーリングを楽しんでいると思うのだが、都心からわずか2時間でこの風情。つくづくバイクは「どこでもドア」だ。「バイクに乗らない人も損はしていないが、バイクに乗ってる俺は、得してる」という至言を吐いたのは、誰だったか。
それともうひとつ、都合2日の奥多摩ツアーで感じたのが、クラシック650が、こうした散策に実に好適なバイクということだった。必要十分な膂力(りょりょく)があるのに、ライダーをせっつくところがなく、ぜいたくに時間を浪費させてくれる。最近は、クルーザーでさえ「走ってナンボ!」みたいなのが増えてきたけど、皆さん本分を忘れないでくださいね……と、いきつけのライダーズカフェでチーズケーキを食いながら思った次第である。
あとはやっぱり、やっぱりこのカッコよさよ(嘆息)。均整のとれたスタイルに、選色の妙。職人の手になるペイントとストライプ! 陽光にキラキラ輝くメッキの美しさに、路肩に止めては写真を撮る手が止まらんかった。そして故水野晴郎氏のように思ったのだ。いやぁ、バイクって本当にいいものですね!
(文も写真も編集もぜんぶwebCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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