第2回:1週間のオーナー体験! 最新マシン「ベア650」を仕事と遊びに使い倒す
2025.03.21 ロイヤルエンフィールド日常劇場![]() |
このほど日本デビューしたばかりの「ロイヤルエンフィールド・ベア650」が、webCG編集部にやって来た! 1週間にわたるプチオーナー体験で感じたその魅力とは? 話題の最新スクランブラーの日本での走りを、(たぶん)業界最速で読者の皆さんにお届けする。
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編集部にクマがあらわれた!
編集部の地下駐車場で、初めて見たロイヤルエンフィールド・ベア650は、やっぱりカッコいいバイクだった。やっぱり、なんてわざわざ副詞を付けたのは、「EICMA 2024」での世界初公開以来、ずっとネットで続報を追いかけてたから。写真や動画をチェックしては、勝手に期待値を上げていたのだが、実車はそれを優に超えて、イカしていた。
丸い目玉に丸いタンク、古式ゆかしきツインクレードルフレーム、趣深いスポークホイール。エンジンの造形もムチムチしていて、いかにも“心臓”って感じだ。遠めに見たスタイルも均整がとれていて、同時になんとも愛嬌(あいきょう)がある。
資料によれば、このバイクはモダンクラシックの「INT650」をベースとした、スクランブラーだそうな。1960年代のオフロードレーサーを範としたカスタムスタイルらしいが、そういうムズカしい話以前に、クラッシックな“オートバイ”として、ひとつ完成されている感じがした。
そんなナイスな650ccパラツインのクマさんを、ちょいと1週間、webCGで預かることになった。通勤、取材、ついでに道楽と、いろいろ使ってその使用感をお届けするためだ。問題はリポーターが私ってところで、とにかく原形をとどめたままバイクを返却できるよう、善処いたします(笑)。
さっそくこれからの1週間に備え、車両の仕様、状態を確認。次いで車載機器の使い方をチェックする。ひととおり試乗前の儀式を終えたら、バイクにまたがり、ふんっと息を込めて車体を起こす。堂々とした体格に短めのスタンドもあって、正直、引き起こしには気合がいる。足つきにしても、身長167cmの胴長短足(=記者)では足先ツンツンだ。車庫での押し引きは横着せず、降りてやりましょう。
しかしまぁ、このあたりはいずれも予想の範囲内。むしろ覚悟していたよりは易しい印象で、取り回しができないってほどの難物ではなさそう。なにより、このカッコよさとのトレードオフなら安いもんよ。夜の渋谷をさっそうとゆくベアの姿を夢想しつつ、エンジンを始動。翌日の取材に備え、この日はそのまま家に帰ることにした。
せわしなくもなく、退屈でもなく
日はあらたまって2025年2月26日。この日は豊洲で、某新作タイヤの試乗会に参加する予定がある。アシは当然、ベア650だ。バイクを引き出し、世も明け切らぬ早朝の武蔵野をひっそり出立。こいつがコールドスタート時にデカい音を立てるタイプじゃなくて、本当によかった。
音といえばこのベア650、エンジンサウンドがユニークというか、記者としてはちょっと意外で驚いた。ロイヤルエンフィールドというと、ついキャブトンマフラー風のポンポンといった音を想像しがちだが、このバイクではビュルルルルというエンジン音とボンボボンといったエキゾーストサウンドが、前と後ろから届くのだ。聞きようによっては昨今の2気筒スポーツ的でもあり、存外にモダンなノリである。
しからばとスロットルを開けると、3000rpmあたりから興が乗ってくる感じで、そこを楽しみつつ4000rpmあたりでシフトアップしていけば、ちょうど一般道で流れをリードする程度のダッシュになる。退屈ではなく、煩わしくもなく、エンジンの高まりとシフト操作を程よく楽しみながら、いい具合で走れるのだ。遠くインドのバイクだというのに、井の頭通り→甲州街道→山手通りという記者の通勤環境に、妙に性能がハマっていてニヤニヤした。
ちなみに、そこから先の領域はというと……残念ながら試していません。なにせこのバイク、慣らし運転もまだの状態でお貸し出し願ったのだ(笑)。借り受け時のオドメーターは、聞いて驚け9km! さすがの私も、そんなバイクをレッドゾーンまでカチ回す蛮行には及べませんでした。
もっともベア650は、そこまで回さないでも十分にパワフル。そこは大型バイクといった感じで、富ヶ谷交差点→代々木上原の上り坂でキックダウンをサボっても、するすると登り切ってしまう。さすがはクマさん、懐の深い力持ちだ。
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普段使いで感じる絶妙なあんばい
時は飛んで2025年3月1日。世間はステキな週末休みだが、記者は仕事が終わってないので原稿を書かねばならない(泣)。家では誘惑が多すぎるので、ノートパソコンを持って井の頭公園に出かけることにした。ここの駐車場は、百円玉2枚で日がな一日バイクを止められるから、重宝するのだ。この日もパソコンの電源が切れるまで居座ったろうと思ったのだが、走りだすと存外ステキなバイク日和だったので、早々に仕事を切り上げ、渋谷→皇居と足を延ばすことにした。この、思い立ったら即行動なフットワークの軽さは、やっぱりバイクならでは。タイヤを4つもぶら下げた乗り物じゃ、こうはいくまいて。
四輪車への当てこすりはさておき(笑)、こうしたサッと乗ってパッと出かけ、ついでにフラッと足を延ばすような使い方だと、ベア650はかなりいいあんばいのバイクである。かつての“パパサン”やカワサキの“W”とかにもその気はあったが、これよりマッチョだと煩わしく、軽々しいとビッグバイクのだいご味に欠ける。そんな本当に絶妙なところに、ベアの車格はあると思う。
あと、これは個人の好みにもよるのだが、街なかだとスクランブラーにしてはアシが固めなところもよかった。発表当初は「結構フワフワなのかな」と思っていたが、その実はロードスポーツ的に引き締まったもの。おかげさまで、スロットルを開けたら間髪入れずに後輪が大地を蹴るのだ。個人的には「ホンダCL500」のようなフワ脚も大好きだが、ストップ&ゴーを繰り返す普段使いでは、この痛痒(つうよう)のなさに軍配かな、と思った次第。
……丸の内仲通りの路肩にバイクを寄せ、上述のような印象・感想をスマホにメモっていく。そこでついでに、スマホとバイクのBluetooth通信設定も済ませておこうと思い立った。明日は久々の秩父縦走。迷子になること必定なので、ナビアプリを準備しておくのだ。
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寒さ以外は無問題!
2025年3月2日、記者は秩父のダム巡りを満喫すべく、朝6時半に家を出た。練馬ICから関越道に乗り、一路花園ICを目指す。おそらくはベアにとっても初の高速道路だろうが、その走りはどっしり落ち着いたもの。エンジン回転は5速・80km/hで3800rpm、6速・100km/hで4200rpmといった具合で、こちらも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だ。手足がかゆくなるような振動もなく、オシリも全然痛くならない。問題があるとすれば、真正面から風を浴びる記者の体が寒いことだが、こればっかりはネイキッドバイクの宿命なので仕方なし。ウエアと気合で防寒しましょう。
そんなこんなで、存外あっさり花園IC着。彩甲斐街道に降りたら適当なコンビニに寄り、朝ゴハンをいただきつつスマホで「ロイヤルエンフィールド アプリ」を起動する。
このアプリの主要機能である「トリッパーナビゲーションシステム」の使用感については、当連載の第1回で弊社、関も触れたとおり。今回ひとつ違うのは、ベア650には丸い5インチのTFT液晶メーターが付いていること。矢印による右左折指示だけでなく、地図画面をドーンとそこに映せるのだ。これはいい、わかりやすい。明日出社したら、関青年に散々自慢してやろう。
ちなみに、ベアにはUSB Type-Cポートも付いていて、スマホが電欠してもそれで充電が可能……なのだが、これ、皆さんは充電中のスマホをどこへしまっているのだろう? その答えを見いだせなかった記者は、結局この便利装備に手をつけずじまいだった。ガジェット野郎への道は遠い。
トリッパーの道案内に従い、末野大橋から皆野寄居有料道路に乗る。厳しさを増す寒風に耐えつつ皆野大塚ICで降りたら、そこは“聖地”埼玉・秩父だ。本当なら有料道路なんか使わずに下道をトコトコ走りたかったが、時間の都合で今回は割愛。次はぜひ、東秩父でヤマメを食べたいな。
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有識者にもそうでない人にも薦めたい
右に左に秩父連山を眺めながら国道140号/299号をしばし走り、ひょいと長尾根を越える。最初の目的地は、武甲山の西に位置する「浦山ダム」だ。ここは堤の直下に駐車場があることで知られており、案の定、下から見上げるダムのデカさにおののき、減勢池の深さに本気で腰を抜かした。巨大物恐怖症、高所恐怖症、海洋恐怖症のアナタ、ぜひお試しあれ(笑)。
次いで向かうは、埼玉県最大の規模を誇る「滝沢ダム」。ループ橋の「雷伝廿六木橋」とセットでご存じの方も多いだろう。中津川沿いにある駐車場からの眺めは誠に雄大なので、こちらは冗談ではなく、本当に皆さんにお試しいただきたい。
さて、今回記者が通ったルートは、秩父往還という古い街道の一部で、特に三峰口から先は「いかにも秩父!」(私見です)といった感じの山坂道になっている。で、そうしたシーンでベア650は、ちょっと意外な一面を見せてくれる。ワイドなバーハンドルを腕で押したり、あるいは体ごと倒し込んだりして、積極的にバイクを傾けられるのだ。それにトルクフルなエンジンと踏ん張る後ろ足が相まって、前のめりにライディングを楽しめるのである。
同じネイキッドでも、ベースとなったINT650はもっとおおらかで、むしろ「趣深いお散歩バイク」だった。もちろんクルーザータイプのモデルや、“天神乗り”スタイルで乗るブリティッシュビンテージ系のモデルも同様だ。浅学な記者の取材経験だと、同門のロイヤルエンフィールドでベアのようなモデルといえば、それこそ「ハンター350」ぐらいか。あとは、日本未導入の「ゲリラ450」ぐらいではないかと思う。
このベアのご機嫌な感覚は、ロイエンをよく知る人には新鮮だろうし、古いイメージしか持たない人には、鮮烈な一撃をカマすことだろう。有識者もそうでない人も、ぜひこの走りを試していただきたい。(本日3度目)
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いつもは素通りしてしまう景色を探しに行こう
滝沢ダムを満喫したら、いったんそのまま国道140号を西進。大峰トンネルを越え、今度は大滝道路を通って「二瀬ダム」へと向かう。栃本関所跡などが趣深いこちらの道は、秩父往還の旧道にあたり、片側がのり面、片側が崖の急峻(きゅうしゅん)なあい路となる。普通の大型バイクだといささか持て余しそうなシチュエーションで、また「この先どうなってるの? 未舗装路だったりしないよな」と、ちょっと不安を誘う場所もあった(実際には終始舗装路が続いていたのだが)。臆病者の記者のこと、普段乗っているバイクだったら、途中で引き返していただろう。
それでも今回、「……ま、なんとかなるでしょ」と踏み込んでいけたのは、やっぱりベアがスクランブラーだったから。184mmの最低地上高とデュアルパーパスタイヤで、多少道が荒れていても、どうにかなると思えたのだ。秩父や奥多摩、道志の裏街道を愛好する同士なら(ダジャレじゃないよ?)、この感覚のあるとなしとでは、バイクでの行動範囲がまったく変わることにうなずいてもらえると思う。
そもそも四輪、二輪を問わず、ささやかな旅が大好きな記者だが(参照:その1、その2、その3)、両者に求める旅のだいご味はちょっと違う。一息で距離を稼ぎ、劇的な景色の変化を楽しめるダイナミックな前者に対し、バイクでの旅といえば、クルマでは素通りしてしまう場所や景色、取りこぼしてしまう情緒や体験を拾っていける、そんなところが魅力ではないかと思うのだ。なにが言いたいかというと、ベア650は、そういうささやかな宝探しが、他のバイクよりちょっと得意なのではあるまいか……と、1週間のプチオーナー体験でそう感じた次第。いささか抽象的で主観的だが、この感覚が読者諸氏にも伝われば幸いである。
最後に、二瀬ダムで仲良くなった他のライダーさんより、ひとつ新しい情報を得た。秩父にはもう1カ所、有名なダムがあるのだ。ここよりやや北にある、その名も「合角ダム」。地元では既出の3カ所と合わせ、「秩父4ダム」として観光にプッシュしているのだとか。秩父に詳しい読者諸氏は、「そんなことも知らないで『秩父ダム巡りにGO!』とか言ってたのかよ」とあきれているに違いない。
さてどうしたものか。せっかくだし行ってみようか。ベア650で秩父を巡る機会なんて、なかなかなさそうだし、まだダムカレーも食べてないしねぇ。予定外の旅程となるが、このバイクなら、その道中も楽しいことでしょう。
(文も写真も編集もぜんぶwebCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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