ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)
もう過去には戻れない 2025.09.09 試乗記 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。乗ったら分かるありがたみ
ホンダのE-Clutchは、発進、停止、変速時のクラッチ操作を自動で行い、ライダーの負担を減らすシステムだ。最初にその説明を受けたときは「本当に必要なのか?」と思った。なにしろテスターのゴトー、免許を取得してからショックのない変速をすることには気を使ってきた自負がある。クラッチ操作にはかなり自信があるから、必要性を感じなかったのだ。
たぶん多くのライダーが、多かれ少なかれゴトーと同じように思ったはずである。免許取り立てでエンストが怖いという初心者ならともかく、中・上級者が「クラッチ操作が面倒でさぁ」とか言っているのは聞いたことがない。ほとんどのライダーが無意識、かつ当然のこととして、自然にクラッチ操作をしているからだ。
しかしこういう新機構は、実際に体験してみないとよさが分からないものである。E-Clutchの第1弾として登場した「CBR650R E-Clutch」に1週間ほど試乗してみたら、目からウロコ。一緒に仕事をしている30歳のライターと「E-Clutchいいよね?」「もう全部のバイク、E-Clutchにしてほしい」などと語り合ったくらいである。渋滞路でクラッチを使わずに済むことが、こんなに楽だとは思っていなかったし、シフトアップ、シフトダウンに気を使わなくて済むから、ライディングに専念できたのである。
そしてCB650R/CBR650Rに次ぐE-Clutch搭載車の第2弾となったのが、今回紹介するレブル250である。
つくり込まれたクラッチ制御に脱帽
CBR650R E-Clutchに散々乗っていたので、どんなものかは分かっていたつもりだったが、走りだしたら全然違う。レブル250のそれは、発進や変速のときのクラッチ操作がメッチャスムーズなのである。
CBR650Rの場合は、スポーツライディングを考えた結果か、ダイレクトな感じでスパッとクラッチがつながる。変速のフィーリングは、よくできたクイックシフターという感じだった(ただしどんな走行状態でも完璧に作動する点はクイックシフターを大きく上まわる)。それがレブル250では、変速や加減速時のショックをすべてクラッチが吸収してくれるので、実になめらか。聞けば、車種の特性などによって、点火をカットする時間やクラッチのつながり方を最適化しているのだとか。変速のとき、失敗してタンデムライダーとヘルメットがゴッツンコした経験のある人は多いだろうが、あんなことはまず起きない。
しかもクイックシフターと違って、どんな速度でどんな走り方をしても対応してくれるところが素晴らしい。加速中にシフトダウンするとか、減速中にシフトアップするなんて操作を試しても、キチンと対応してくれる。シフトダウンでは半クラッチの時間が長めだから、半クラの間にスロットルを開けてみたりしたけれど、ショックは皆無。うまく作動しないときはないかとアラ探しをしてみたが、いつもサラッとこなしてしまう。
先日話を聞いた、レブル250 E-Clutchを購入したという免許取り立て女子は、エンストの心配をしなくていいから緊張することもなく、初めての公道も不安なく走れたとのこと。なんて書くと「そんなバイクに乗っていると、いつまでたってもクラッチ操作覚えねーぞ」と突っ込んでくる人もいるかもしれないが、それは違うと思う。理想的なクラッチワークがなされる走りを覚えておけば、もし将来的にマニュアルクラッチのマシンに乗り換えたときにも、それを評価の軸にして自分の乗り方を考えることができるだろう。うまい料理を知らなければ本当の料理人にはなれない。それと同じことである。
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シンプルであるがゆえに隙がない
褒めっぱなしで気になるところはないのか? という人もいるだろうから、デメリットを探してみるとしよう。
エンジン右側のクラッチカバーが若干張り出すけれど、これは足が当たらないように配置されているので、特に気になることはない。価格は多少アップするが、それも5万5000円だ。ぶっ飛ばすのが好きな若者が試乗したら「ギャンギャン回したときにヌメッとつながる感じが気に入らない」と言っていたが、それはレブル250で想定される乗り方とは違うし、そこが気になるのであれば、飛ばしたいときだけマニュアルでクラッチ操作をすればいいだけのこと。クラッチ操作だけを自動で行うというシンプルな機構なので、マイナスポイントが少ないというのもE-Clutchの特徴なのである。
E-Clutchはほぼすべてのマシンに装着することが可能だというから、今後さまざまなモデルに採用されていくことだろう。市場でどんな評価がなされていくか、非常に気になるところである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=本田技研工業)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2205×810×1090mm
ホイールベース:1490mm
シート高:690mm
重量:175kg
エンジン:249cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:26PS(19kW)/9500rpm
最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:34.9km/リッター(WMTCモード)
価格:73万1500円
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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