ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)
日々の足にも 旅のお供にも 2025.09.02 試乗記 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。ひさしを貸して母屋を取られる?
先代にあたる6代目ムーヴが2023年6月に生産終了したことからも想像できるように、新型ムーヴは本来、2023年夏に発売される予定だった。当時は販売店にも具体的な情報が出回っていたから、開発も終了していたはずである。ところが、その直前の2023年4月末に認証不正問題が発覚したダイハツは、新車の発売どころではなくなってしまった。で、この2025年6月、当初の予定の(おそらく)ちょうど2年遅れで、新型ムーヴは世に出たわけだ(参照)。
……といったことをダイハツ関係者に問うても、もちろんあからさまに認めてはくれないが、否定もしない。2年のタイムラグの間には細かな法規対応が新たにおこなわれたと思われるが、商品コンセプトやデザイン、性能、装備などは大きく変わっていないようだ。
そんな新型ムーヴ最大の特徴は、いうまでもなくリアサイドがスライドドア形式になったことだが、それは初期の企画段階で迷うことなく決まったという。2016年に初代「ムーヴ キャンバス(以下、キャンバス)」が発売されて以降、市場では従来型ムーヴと主役の交代が起こりつつあるのは明らかだったからだ。
ちなみに、新型ムーヴの当初予定のちょうど1年前に、現行の2代目キャンバスが登場している。新型ムーヴは、そのキャンバスとDNAを共有化することも最初から決まっていたとか。実際、最新のムーヴとキャンバスでは、プラットフォームは共通で外寸もほぼ一緒。室内高やヒップポイントまで同じだ。当初はAピラーの角度も共通化する想定だったそうだが、「さすがに、それではムーヴの後継には見えない」とのことで、そこは専用化することにした。
もとは先代「タント」の“背低版”なのに、全高に合わせて車名だけムーヴ系に編入されたキャンバスが、今度は本家ムーヴの母体となった。ひさしを貸して母屋を取られる……とはこのことか。ちょっとちがう気もするけど。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「ムーヴ」という名前の重要性
今回の試乗車は、新型ムーヴの売れ筋になるであろう自然吸気モデルの中間グレード「X」だった。FF車であれば本体価格は150万円を切る。さらに下のエントリーグレード「L」だと、本体価格は140万円切りの135万8500円(FF車)で、スライドドア付きの軽スーパーハイト/ハイトワゴンとしては最安値。その手ごろ価格を実現できた最大要因も、キャンバスとの設計共通化にあるという。
「カスタム」が廃止されたのも、新型ムーヴのトピックである。ただ、どちらかというとキリッと系に思える新型ムーヴの顔つきを見るに、カスタムの廃止というより、カスタムに一本化では……と思わなくもない。実際、担当デザイナー氏にうかがうと「そう理解していただいて構いません」との答え。ギラギラした典型的カスタム顔がウケづらくなったのは他社の例を見てもわかるが、新型ムーヴはキャンバスとファミリー化したことで、「カワイイ系がお望みならキャンバスをどうぞ」との態度を明確化したともいえる。
歴史が長く信頼のブランドでもあるムーヴは、旧ムーヴからの“同名乗りかえ”が多いのも特徴という。歴代ムーヴはハイトワゴンでも比較的低めのヒップポイントだったから、キャンバスと共通化された新型の運転席に座ると、これまでより目線がポーンと高くなる。また、Aピラーに仕込まれた小さなガラスも意外なほど視界確保に効いている。
とはいえ、歴代ムーヴに慣れ親しんだ顧客が、これをムーヴと認めるのかはわからない。ただ、実際のムーヴの顧客はくだんのスライドドア化も含めて、「今度のムーヴは視界もよくなって、こんなに便利になった」とポジティブに受け取るはず……とダイハツの担当氏。ムーヴに特別な感情をもたない門外漢は「だったらキャンバスでもいいのに」と思ってしまうが、一定数の顧客には、慣れ親しんだムーヴという名前のままいいクルマになる必要があるらしい。
好ましい身のこなしとパワートレインの所作
走りはとてもしっかりしている。ストローク感や接地感はあるが、ロール過多ではなく、操舵しても安定した水平姿勢のままノーズが反応する。これは2019年のタントから導入されたDNGAプラットフォームの熟成に加えて、FF車で1655mmというスライドドアワゴンとしては絶妙に低い全高も効いている。これと比べると、全高1.7m台後半のスーパーハイト各車は、多かれ少なかれ、カーブでは頭上からしなだれかかるような挙動に感じられてしまう。そこ(と手ごろな価格)が、新型ムーヴ最大の売りだろう。
「タント」では全車に使われる「D-CVT(デュアルモードCVT)」が、ターボ車のみとなるのはキャンバスと同様。つまり、今回の試乗車は従来型CVTを使うが、乗り手の意思にシンクロしてくれるパワートレインの所作はとても好ましい。エンジン単体のパワーではホンダあたりにゆずるのは否めないものの、あのスズキに負けず劣らずの軽量設計もあって、少なくとも市街地でもどかしさを感じることもない。同時に、アクセルを戻したときの減速感もちょうどよく、一部のCVT車のようにブレーキペダルを頻繁に踏む必要もない。
ステアリングホイールには、ダイハツが先べんをつけた「パワー」ボタンも健在だ。これは一般的なパワーモードやスポーツモードとはちょっとちがっていて、ボタンを押した瞬間に、わずかに“追いアクセル”してくれる機能である。運転に不慣れなドライバーはそもそもアクセルペダルを踏み込む行為自体がストレスで、このボタンで一時的な加速のキッカケをつくると、合流や追い越しなどが速やかに遂行できる。
筆者も運転経験(だけ)は豊富なほうなので、最初は「アクセルをちゃんと踏めばいいだけでは?」と思ったし、そのとおりではあるのだけれど、パワーボタンを使い慣れると、これが意外に快適。アクセルペダルを踏まずに済むことが、運転自体の疲労軽減につながることも実感する。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
高速道路も意外に快適
新型ムーヴの走行性能における開発テーマのひとつは「ワンデートリップ」だったという。パワー控えめの自然吸気モデルでも、高速を使った“日帰りドライブ旅行”にも十分に使えるように……というのが、そのココロだ。
なるほど、高速でもそれなりにしっかりしたフットワークや直進性は好印象。追い越し車線に張りついて、先を急ぐような下品な走りをするのでなければ、新型ムーヴは高速でも歯がゆさや大きな不満はない。
……であれば、現代の高速走行の必須アイテムとなりつつあるアダプティブクルーズコントロール(ACC)と、ダイハツでいう「レーンキープコントロール」が、上級の「RS」と「G」にしか設定がないのは、まことに残念と申し上げたい。今回の「X」ではオプションですら選べない。高速でアクセルペダルを踏み続ける行為は、パワーが控えめなクルマほど疲れるのに……である。
それはともかく、新型ムーヴが高速道路で快適なのは、車内が静かだからでもある。静粛性は基本骨格を共有するキャンバスより高い印象で、80km/hくらいまでなら、市街地でセットしたオーディオ音量もことさら上げる必要を感じない。
聞けば、キャンバスよりAピラーの角度を寝かせたことで、ムーヴの室内はエアボリュームが減っている。それが、静粛性でも有利に働いているとのことである。加えて、キャンバスの開発で得られた知見から、ムーヴでは限られた遮音・吸音材をリア周辺により手厚く配置しているという。これによって、フロントシートでも静かに感じるようになるんだとか。へえー。
つくづく、新しいムーヴの自然吸気モデルは“街乗り専用”と割り切るのはちょっと惜しいクルマだ。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資/車両協力=ダイハツ工業)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:860kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52PS(38kW)/6900rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.6km/リッター(WLTCモード)
価格:149万0500円/テスト車=177万6170円
オプション装備:9インチスマートフォン連携ディスプレイオーディオ スマートパノラマパーキング&純正ナビ装着用アップグレードパック付き(17万0500円) ※以下、販売店オプション カーペットマット<高機能タイプ・グレー・2WD・EPB無車用>(2万9040円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万0130円)/ドライブレコーダー<スマートフォン連携モデル>(6万6000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:910km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:117.7km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.7km/リッター(車載燃費計計測値)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【ニュース】ダイハツが7代目となる新型「ムーヴ」を発売 待望のスライドドアを初採用
◆【試乗記】ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)/ムーヴRS(FF/CVT)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トヨタ・アクアGRスポーツ(FF/CVT)【試乗記】 2026.11.2 「アクア」のビッグマイナーチェンジに遅れること10カ月。“最新のトヨタ顔”に変身したスポーツコンバージョンモデル「アクアGRスポーツ」が登場した。専用チューニングが施されたボディーや足まわりの仕上がりを、ワインディングロードに連れ出して確かめた。
-
ベントレー・コンチネンタルGT S(4WD/8AT)【試乗記】 2026.10.31 ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」にハイパフォーマンスバージョンの「S」が登場。すでにトップパフォーマンスモデルの「スピード」が存在するなかで、果たしてSはどんなポジションを担うのだろうか。試乗を通じて検証した。
-
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】 2026.10.28 「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。
-
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】 2026.10.27 ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
-
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.26 1976年に誕生し50周年を迎えたフォルクスワーゲンのホットハッチ「ゴルフGTI」と、333PSの出力とハイテク満載の4WDシャシーを武器とする高性能モデル「ゴルフR」にサーキットで試乗。両者の違いとそれぞれの特徴を報告する。
-
NEW
ポルシェの「ミッションS」にはどんなエンジンが積まれるのか
2026.11.4デイリーコラム「ポルシェ・ミッションS」はリアミドシップレイアウトの次世代スポーツカーだ。興味深いのは“「911」より上”とされる商品のポジションで、911といえば水平対向6気筒、ミッションSにはどんなパワートレインが積まれるのか。状況証拠をもとに検証した。 -
NEW
第135回:アウディデザイン水掛け論(後編) ―モアイ像か、怪物か アウディの未来を決める極限の選択―
2026.11.4カーデザイン曼荼羅「Q9」に「A2 e-tron」に「ヌヴォラーリ」と、方向性の異なるデザインを同時多発的に提案してきたアウディ。かつて先駆的な造形美で世界を瞠目させた彼らは今、どこへ向かおうとしているのか? カーデザインの識者と、フォーシルバーリングスの未来を考えた。 -
第348回:これでスーパーカーは完全に終わった!
2026.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。イーロン・マスクが宇宙ロケット技術をクルマに応用し空飛ぶクルマ「テスラ・ロードスター」を発表した。スラスターで姿勢を制御しつつ“飛行”する様子には度肝を抜かれ、「これでスーパーカーは完全に終わった」と思った。 -
多田さんが「わかってるね!」と感じるクルマの特徴は?
2026.11.3あの多田哲哉のクルマQ&Aトヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが、新型車に試乗して「このクルマの開発者はよくわかっているなぁ」と感じるのはどんな時か? “出来の違い”が出るポイントについて聞いてみた。 -
BYD ATTO 3 EX AWD(4WD)【試乗記】
2026.11.3試乗記BYDの「ATTO 3」がビッグマイナーチェンジで「ATTO 3 EX」に進化。EXは「EXTEND」「EXPLORE」「EXPERIENCE」を示すとのことだが、それはともかく、前輪駆動から後輪駆動に変わり、パワーも大幅にアップするなど、電気自動車(BEV)としての基本構造がまるで別物になっている。新たに追加された4WDモデルを試す。 -
いま軽自動車を選ぶなら、エンジン車とEVのどちらが得か? リアルな数値でコスパを比較・検証する
2026.11.2デイリーコラム海外ブランドまで参入するなど、近年活況をみせる軽EV。従来型の軽自動車と比べた場合の、コスト面の良しあしは? ホンダの2車種を例にとり、そのコストパフォーマンスを考えよう。


















































