EV専用のプラットフォームは内燃機関車のものとどう違う?

2025.10.07 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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多くの電気自動車(EV)の車台には「EV専用プラットフォーム」なるものが採用されていると聞きます。従来の純エンジン車のものとの決定的な違いは何でしょうか? “専用設計”の具体的なメリットが知りたいです。

まず、従来の内燃機関車のプラットフォーム開発において、設計上何が難しいかといえば、これはもう、圧倒的にエンジンルームなのです。

トヨタではエンジンルームのことを、エンジンコンパートメントを略して“エンコパ”と呼んでいます。ちなみにスバルは“房内(ぼうない)”。……とまぁ、メーカーごとに特殊な呼び名があるくらい各社がこだわっている、技術的なノウハウが詰まったポイントであるわけです。そして、その難易度の高さこそが、新興メーカーの参入を阻む障壁にもなっていました。

エンジンはご存じのように、大変な重量物です。それが走行中はぶらぶら揺れて、周りに干渉しかねない。しかもかなり高温になるため、周辺の部品が熱害を受ける(例えば溶けてしまう)恐れもある。そうした問題・課題をすべてクリアーしたうえで、エンジン周辺のプラットフォームは設計されています。

その点、EVはモーターを積みさえすればよいのであり、前述のハードルは一気に下がります。

一方で新たに生じるのが、「バッテリーをどうやって積むのか」という問題です。駆動用バッテリーはサイズがかさみますし、最適な動作をさせる温度を維持するために冷やしたり温めたりしなければならない(関連記事)。それがEVプラットフォームのキモです。

つまり、エンジン時代とは、“難しさのポイント”が大きく変わってくるのです。量産型EVが出てきた当初は、エンジン車のプラットフォームをEV用にあてがい、「ここにバッテリーを押し込めばいいだろう」みたいなことを無理やりにでもやっていました。

それが今では、低重心化して運動性能を高めるために、また衝突時にバッテリーが大きなダメージを受けないように床下に薄く敷き詰めるようになった。「このEVは、リアの荷室が駆動用バッテリーに浸食されるため、ラゲッジスペースは狭くなっており……」なんて、もはや懐かしい話です。

そのようにさまざま試行錯誤をして、衝突した時の安全性と、重心の位置、温度管理のしやすさからバッテリーの積み方を最適したものを「EVプラットフォーム」と呼んでいます。

まとめると――かつては、エンジンルームが車両開発の一番の鬼門でした。それを、いかにバッテリーを適切に積むかに焦点を当てたものがEVプラットフォームである、といえるかと思います。こうしたEVプラットフォームは、バッテリーをたくさん搭載する前提なので重くなる傾向にあり、そのためボディー剛性の確保に配慮する必要があるというのも特徴です。

当初の急速なEV移行計画にブレーキがかかった今の自動車業界では、エンジン車とEVのいいとこどりの車種としてプラグインハイブリッド車(PHEV)がいいんじゃないか? みたいな話も聞かれます。しかしPHEVは、裏を返せば、上記の難点を2つ抱えている製品ということになり、比較的高コストなプラットフォームを用意しなければ成立しないのです。クルマは長い目で見れば、いずれはエンジン車かEVのどちらかに収束しなければならなくなると思いますね。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。