第15戦シンガポールGP「レッドブルにないもの」【F1 2010 続報】
2010.09.27 自動車ニュース【F1 2010 続報】第15戦シンガポールGP「レッドブルにないもの」
2010年9月26日、シンガポールのマリーナ・ベイ市街地コースで行われたF1世界選手権第15戦シンガポールGP。このレースを含め残り5戦、5人による熾烈(しれつ)なタイトル争いでは、小さなミスが大きな違いを生む。この週末好調な出だしだったレッドブルは、なぜフェラーリに優勝をさらわれたのだろうか?
■若さゆえの過ち
金曜、土曜に行われる3度のフリー走行すべてでトップタイムをマークしたレッドブル勢。スパ、モンツァという不得意コースを終え、すっかり定着したナイトレースの舞台、シンガポールの市街地サーキットは再びレッドブル向きのステージか、と思われたが、結果はセバスチャン・ベッテル2位、マーク・ウェバー3位と表彰台にはのぼったものの、フェラーリのフェルナンド・アロンソにポール・トゥ・ウィンを許してしまった。
ボタンの掛け違いは土曜夜の予選にはじまった。予選Q1でアロンソが最速となったものの、次のQ2ではベッテルがトップタイムを記録。トップ10グリッドを決める最後のQ3、ベッテルもウェバーもポールポジション獲得の自信があったはずだったが、アロンソに2戦連続となるポールポジションを奪われ、ベッテルは2位、ウェバーに至っては5位という不本意な結果に終わった。
10分間しかない短いQ3で2回タイムアタックを行ったのだが、最初の段階でレッドブルはチームとしてミスをおかした。混雑のないタイミングで2人のドライバーをコースへ出さなければならないところを、前に遅めのマシンがいるような場所に出してしまい、貴重な1アタックを無駄にしてしまったのだ。
最初のアタックでトップに立ったのはアロンソ。そのタイムが、結果的にポールタイムとなった。ベッテル、ウェバーとも、予選結果が期待を大きく外れたとコメントした。
決勝レース、スタートで失速することの多いレッドブルだったが、今回はフロントローのベッテルが抜群の出だしで2位をキープ。以降、2時間近くの長丁場で常にアロンソにプレッシャーをかけ続け、ファステストラップを更新しながらトップの座に挑んだが、ウォールに囲まれた抜きづらいマリーナ・ベイのコースでは順位逆転はならなかった。
もし、予選でレッドブルがフロントローを独占するようなことがあったら、もしポールポジションだけでも手に入れられていたら……。仮にマシンのアドバンテージがなかったとしても、フェラーリを従えてチェッカードフラッグを受けることができたかもしれない。
2010年シーズンは日本、韓国、ブラジル、アブダビの4戦を残すのみ。この先は、タイトルに望みをかける5人と、3つのチームの総力戦となる。ルイス・ハミルトン、ジェンソン・バトン、アロンソと彼らが所属するマクラーレン、フェラーリにあって、ベッテルとウェバー、そしてレッドブルにないものは、タイトル獲得の経験である。結成から6年目、今年の最強マシンを擁する若きチーム、レッドブルの真価が問われている。
■ポイントリーダー、ウェバーの賭け
激しさを増すチャンピオンシップを表すかのようなグリッド順だった。ポールのアロンソ、2位ベッテル、3位ハミルトン、4位バトン、5位ウェバーと、くだんの5人がトップ5を独占。前戦イタリアGP優勝の余勢を駆るアロンソが先頭、ポイントリーダーのウェバーが隊列の殿(しんがり)をつとめるというオーダーによって、チャンピオンシップを念頭に置くレースへの期待感がますます高まった。
煌々(こうこう)と輝く照明の下、シグナルが変わると24台のマシンがスタートを切った。ベッテルが好発進を決めるがアロンソを抜くには至らず、上位はグリッド順のままオープニングラップを終えた。
3周目、ビタントニオ・リウッツィのフォースインディアとニック・ハイドフェルドのザウバーが接触し、リウッツィのマシンがコース上にストップ。最初のセーフティカーが導入された。
これを機に多くのマシンがピットに入り、タイヤ交換義務をこなしたのだが、上位陣は1台を除いてコースにとどまった。その1台を駆るのはポイントリーダーのウェバー。抜きづらいシンガポールで5位からの挽回(ばんかい)は容易ではない。ならば早めにタイヤを替え、ライバルがピットへ駆け込むまでにマージンを築き上位を目指そうという魂胆だ。
この賭けは、結果として吉と出ることになるが、混み合うミッドフィルダーのなかに入ってしまうというリスクもあった。
この不安をけ散らすように、6周目の再スタート時に11位まで落ちていたウェバーは、ティモ・グロック、小林可夢偉、ミハエル・シューマッハーを次々とオーバーテイクし8位にまで順位を回復。ペースがあがらないマクラーレンのお陰もあり、ポディウムに向けて着々と駒を進めていた。
その間、トップのアロンソは2位ベッテルをジワジワと引き離し、15周目には3秒のギャップを築いたのだが、ベッテルも負けじとファステストラップで応戦。レース中盤のピットストップが近づく頃には2秒を切る範囲につけた。3位ハミルトン、4位バトンは後退著しく、勝負は2人に絞られていった。
61周中の30周目、先頭のアロンソがピットへと飛び込むと、2位ベッテルもそれに続いた。レッドブルには、1周でもピットインを遅らせ、アロンソの先を狙うという作戦も残されていたはずだが……。
タイヤ交換後にベッテルはチャージをかけ、アロンソとの差が0.8秒にまで縮まった32周目、2度目のセーフティカー導入された。今回は、小林のザウバーがウォールに当たりストップ、さらにブルーノ・セナが追突したことによりもたらされたものだった。
■ハミルトン、痛恨のリタイア
36周目、レースは、1位アロンソ、2位ベッテル、3位ウェバー、4位ハミルトン、5位バトン、6位ロズベルグ、7位クビサ、8位バリケロ、9位スーティル、10位ヒュルケンベルグの順で再々スタートを切る。そして全車が接近しているこのタイミングを逃してはならぬと、3位ウェバーにハミルトンが襲いかかった。緊張の瞬間は、2台の接触、ハミルトンのリタイヤ、というマクラーレンのエースにとって手痛い結果を招いた。
ウェバーは3位のまま周回を重ねることができたが、レース後、この接触の影響でタイヤがリムから外れかかっていたことが判明。あと5mmずれていれば脱輪していただろう、という幸運に恵まれた表彰台だったことがわかった。
トップ2台は、レース終盤に入っても1秒前後の間隔で接戦を繰り広げていた。ベッテルが立て続けにファステストラップを更新したなら、アロンソも最速タイムで応酬。だがアロンソがレースをコントロールしていたことは誰の目にも明らかだった。
2戦連続、今シーズン4回目の勝利で、ポイントランキング1位のウェバーから11点差の2位につけたアロンソ。一時はチャンピオンにもっとも遠いポジションにいたダブルワールドチャンピオンの劇的な巻き返しを、誰が予想できただろうか。あるいはトルコ、カナダと連勝しポイントリーダーに躍り出たハミルトンの後退を言い当てることができただろうか?
1位 ウェバー 202点(―)
2位 アロンソ 191点(↑)
3位 ハミルトン 182点(↓)
4位 ベッテル 181点(↑)
5位 バトン 177点(↓)
ウェバーからバトンまでの差はちょうど1勝分の25点。決して小さくないギャップだが、残る4戦で得られる100点の配分は、誰にも予測ができないほど先行きは不透明だ。
次は鈴鹿サーキットでの日本GP。レッドブルの独壇場、という下馬評を、ライバルが覆すことができるか? 決勝レースは10月10日に行われる。
(文=bg)
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