アルピーヌA110アニバーサリー(MR/7AT)/A110 GTS(MR/7AT)/A110 R70(MR/7AT)
君を忘れない 2025.11.27 試乗記 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。2026年6月に生産終了
北アルプスから富士山までを遠望できるビーナスラインはもちろん、大門峠を越えて上田に抜ける山道もまことにアルピーヌにふさわしいワインディングロードである。もうそろそろ本当に、長くはなかったモデルライフに幕を下ろすアルピーヌA110の試乗会の舞台に信州美ヶ原を選ぶなんて、アルピーヌ・ジャポンは分かってる。路肩にはオレンジ色のカラマツの落ち葉が厚く積もり、不用意にタイヤを乗せるとズズッと滑ることもあるが、ご存じ軽量コンパクトで、クルマの四隅まで自分の神経が伸びているように一体感のあるA110ではあまり怖がる必要はない。
そういえばツールドコルスにも似たようなステージがあった。かつてコルシカ島でオリジナルA110の「1600S」を借りてヒストリックラリーに出場した際に、夜のステージで栗の落ち葉に乗って真横を向いたことがあった。フラッドライトの光も届かない谷に向かって滑りながら、こりゃもうダメだと一瞬諦めたが、何とか立ち直った。軽くて俊敏、ミスをしてもどうにか取り返せるコントロール性は現代のA110にも受け継がれている。
こんなすてきなスポーツカーが生き延びられないなんて何とも難儀な世の中だが、嘆いても仕方ない。念のため、A110が終了するのは売れないからではなく、ご存じのとおり現行型では新規制に対応するのが難しいためだ。2024年末時点で累計販売2万3000台以上といわれるから、当初の計画を大きく上回っているのだ。この度正式に発表されたフィナーレのスケジュールは、2026年6月で現行A110は生産終了、それに先立つ3月で日本向けのアトリエ・アルピーヌ(カスタムプログラム)による受注を終了するというもの。ただし、割り当て生産枠がなくなった時点で受注終了となる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
国宝級ライトウェイトスポーツカー
クルマ好きの皆さんにはあらためて繰り返すまでもないが、軽量コンパクトで軽快機敏、かといってスパルタンすぎない日常的な実用性も併せ持つライトウェイトスポーツカーが現代のアルピーヌA110である。われらが「マツダ・ロードスター」と並んで、現代におけるライトウェイトスポーツカーの双璧であることに誰も異論はないはずだ。
アルピーヌ創立70周年を迎えた2025年4月に日本仕様のラインナップが刷新され、現在はスタンダードモデルたる「A110アニバーサリー」(ただし25台の限定だった)、装備充実の「A110 GTS」、そして軽量化を突き詰めた極めつけの硬派高性能モデルたる「A110 R70」という3台体制である。スタンダードモデルは当初から変わらない最高出力252PS/6000rpmと最大トルク320N・m/2000rpmを生み出す1.8リッター4気筒ターボを、GTSとR70は同じエンジンを300PS/6300rpmと340N・m/2400rpmにパワーアップしたユニットをミドシップする。
軽量コンパクトとはいっても、オリジナルA110と比べれば、当たり前だがサイズはずっと大きい。オリジナルは最後期型の1600Sでもパワーは140PS程度だったが、全長は4m以下で全幅は1.6m以下、車重は800kgぐらいだったのである。もちろん、最新のA110も現代の基準からすると飛び抜けて軽量コンパクトなことに疑いはなく、これほどスポーツカーの定理に忠実なミドシップ2シーターは今ではほかに例がない。現実的なライバルと目される「ポルシェ718ケイマン」(1360kg)と比較しても1120kgの車重(スタンダードモデルとGTS、R70は1090kg!)は際立って軽いのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
こんなクルマはほかにない
それゆえにA110はピタリとフィットするランニングシューズ感覚である。軽快敏しょう、自由自在のシャープな身のこなし、さらに後輪が滑り出しても(スタンダードモデルでもなかなかそうはならないが)十分にコントロールできるピーキーすぎないバランス感覚が好ましい。かつての「ロータス・エリーゼ」ほどむき出しのスパルタンさはなく、ケイマンほどガッチリと装甲されているモビルスーツ感もない。堅苦しい感じもせず、身軽さと扱いやすさがちょうどいいあんばいであり、さらにはアルミボディー各部の建て付けなども、失礼ながら以前の「アルファ・ロメオ4C」などとは比べ物にならないぐらい“ちゃんとした”隙のない出来栄えである。
ちなみに7段DCTを介したスタンダードモデルの0-100km/h加速は4.5秒、最高速は250km/h(リミッター作動)と十分以上に速いが、正直言って広いサーキットよりも現実のワインディングロード、それもモンテカルロやコルシカ、あるいは日本のようにタイトでツイスティーな山道が打ってつけの舞台だろう。いっぽう簡潔でキュートなスタイルをあえて捨てて、大きなカーボンリアウイングやフロントおよびサイドのエアスプリッターなどの空力付加物を装備するR70では3.9秒と285km/hに向上する。Rはラディカル(過激な)の頭文字というぐらいだから、あらためて試乗してもやはり別物だ。A110 GTSの「シャシースポール」より明らかに引き締まった「ラディカルシャシー」を備え、さらにZF製の車高調整式減衰力可変ダンパーを装備するRは当然ながら不整路面ではダンダンと強力な上下動に見舞われるが、角がとがった突き上げではないので、これぐらいならまあ日常使用もギリギリこなせるかもしれない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
もう手が届かないアイドル?
とはいえ、ひらりひらりとしたカジュアル感が気持ちいい標準型、あるいはリクライニングもする快適なシートを備えるGTS(以前の「GT」と「S」のいいとこ取りという)とどちらがいいかと問われると、やはりGTSかなとちょっとひよる。本格的な6点式シートベルトの手間とリアウィンドウがないこと、さらにカーボンホイールを心配することを考えるだけでおっくうになってしまうからだ。
だがどのモデルにせよ、円安に伴う値上げで以前よりはだいぶ高くなってしまったことが問題だ。最初のころのように頑張れば何とか手が届く、という価格とはいえなくなっている。2018年6月に国内導入が発表された最初の「プルミエールエディション」(左ハンドルのみ)は790万円だったのである。それに対して、現行モデルはスタンダードたるA110アニバーサリー(限定モデル)が960万円、GTSは1200万円、最硬派モデルのR70になると1790万円と同じクルマとは思えないほどの値づけとなっている。
なお、生産終了の発表とともに日本向け最終限定車も発表された。すべて「ブルーアルピーヌメタリック」のスタンダードA110(999万円)が30台、GTS(1200万円)も30台、R70(1850万円)が10台の計70台である。アイドルが手の届かないスターになって消えてしまう前に何とかできないものか。素晴らしい秋の空ほど心はスカッと晴れ上がってはくれなかった。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アルピーヌA110アニバーサリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1120kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252PS(185kW)/6000rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)205/40R18 86Y XL/(後)235/40ZR18 95Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.5km/リッター(WLTCモード)
価格:960万円/テスト車=965万4890円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<ブラックステッチ>(0円)/ETCユニットキット<ブラック>(4万4000円)/セーフティーキット(1万0890円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2652km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アルピーヌA110 GTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1130kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)215/40ZR18 86Y XL/(後)245/40ZR18 97Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.7km/リッター(WLTCモード)
価格:1200万円/テスト車=1386万4890円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーポン>(72万円)/ブレーキキャリパー<ブラック>(0円)/GT RACEホイール<グリトネールマット>(9万円)/GTS専用アクラポヴィッチ製チタンエキゾースト(100万円)/グレーレザー・グレーステッチインテリア(0円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ブラックステッチ>(0円)/ETCユニットキット<ブラック>(4万4000円)/セーフティーキット(1万0890円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1862km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アルピーヌA110 R70
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1240mm
ホイールベース:2420mm
車重:1090kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)215/40ZR18 89Y XL/(後)245/40ZR18 97Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:1790万円/テスト車=1927万5690円
オプション装備:ボディーカラー<グリアシエマット>(0円)/ブレーキキャリパー<ライトグレー>(6万円)/R専用アクラポヴィッチ製チタンエキゾースト(100万円)/ブルーアルカンターラインテリア(0円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー機能付きデジタルミラー(26万0800円)/ETCユニットキット<ブラック>(4万4000円)/セーフティーキット(1万0890円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2153km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
NEW
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
NEW
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。




















