人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17 デイリーコラム欲しければ一刻の猶予もない
去る2025年11月27日、アルピーヌ・ジャポンは現行型「アルピーヌA110」の国内受注を、2026年3月31日をもって終了すると発表した。今ある限定モデルも台数に達した時点で受注終了となる。これはフランス・ディエップ工場でのA110の生産そのものが、同年6月で終了することを受けたものだ。
もう少し詳しくいうと、現在日本でラインナップされているA110の最終カタログモデルは、「A110 GTS」と「A110 R70」の2機種。本国では素の「A110」もカタログモデルで用意されるが、以前から販売の中心が「A110 S」となっていた日本市場では、最後は素のA110を限定あつかいとした。2025年4月18日のGTSやR70の発売と同時に25台限定で用意された「A110アニバーサリー」がそれである。
ただ、そのアニバーサリーが早々に完売したこともあり、冒頭の受注終了予告と同時に導入された最後の限定車「ブルーアルピーヌエディション」として、素のA110を30台限定で追加発売した。アルピーヌ・ジャポンによると、日本向けの素のA110は正真正銘、これが最後だそうだ。
また、日本でカタログモデルあつかいのGTSとR70も、受注期限は一応3月31日とされているが、本国での生産可能台数はほぼ確定している。よって、受注が日本割り当て台数分に達した段階で、3月31日を待たずに国内受注終了となる可能性もあるという。いずれにしても、新車のA110をご所望なら、一刻の猶予もないと考えたほうがいい。
いずれにしても、現行型A110が終わる理由は、日本の「日産GT-R」や「ダイハツ・コペン」が生産終了した(する)理由とよく似ている。年々厳しくなる排ガスや騒音、安全性関連の法規制に、旧来設計のまま対応するのが現実的に不可能となりつつあり、しかもそのための部品調達も困難になっているからだ。
A110終了後はBEV専業に
ただし、後継モデルの用意がないままに終了するコペンとは異なり、アルピーヌの場合は、2026年内に「A110」を名乗る(であろう)電気自動車(BEV)が後継として登場予定だ。つまりこれはA110の正式な世代交代でもある。ハイブリッドも含めて、ガソリンエンジンを搭載した新型アルピーヌの商品計画は、現時点で存在しない。つまり、現行A110の生産が終了する2026年6月をもって、アルピーヌはBEV専門ブランドとなるわけだ。
もっとも、アルピーヌのBEVブランドへの移行は、2021年6月にルノーグループのルカ・デメオCEO(当時)がアルピーヌの次世代モデル計画を公表したころからの既定路線である。このときにシルエットが公開された3台は、後の「A290」と「A390」、そして当記事の主役であるA110の次期型である。続く2023年6月の投資家向け説明会では、アルピーヌをグローバル高級ブランドに脱皮させるべく、さらなる拡大計画を発表。それによると、2030年までに、前記3機種を含めて7車種のBEVラインナップを構築して、それに合わせて2027年には北米と中国市場に参入するとした。
欧州メディアの記事によると、2030年までに販売予定の残る4車種は、A110と同じ自社開発のアルピーヌ専用プラットフォームを土台とする4座スポーツカーの「A310」、A390の上位に位置づけられるDセグメントSUV、そして、米中市場を想定した大型SUVと4ドアサルーン……という布陣らしい。
こうしてアルピーヌがBEV専門ブランドにならざるをえなかった理由はいくつかある。ひとつは、これまでのアルピーヌの市場が非常に限定的だったことだ。現行A110は大半がフランス国内で消費されて、あとは日本のような少量生産スポーツカーだけがやけに売れる特殊なエンスー市場でのカルト人気が目立つ程度だった。ドイツや英国などの(フランス以外の)欧州スポーツカー大票田では、アルピーヌは意外なほど売れなかったという。
「内燃機関に未来はない」のか?
そんなアルピーヌにあらためてテコ入れしようにも、世の排ガスや燃費、騒音規制は厳しくなるいっぽうで、エンジン車で新たに規制をクリアしようとすると、どうしても従来より性能が落ちてしまう。となると、高性能エンジン車をゼロから新規開発するのはきわめてハードルが高いし、そもそもアルピーヌの親会社であるルノーは、2023年の記者会見で当時のデメオCEOが「欧州ではもはや内燃機関に未来はない」と明言するBEV推進派だった。
こうしたアルピーヌを取り巻く環境を考えれば、起死回生のゲームチェンジを期するには、事実上、BEVでライバルの機先を制する以外の選択肢はなかった。
ただ、こうしたアルピーヌのグローバルBEVブランド化計画が練られたのは、欧州で「2035年までにエンジン車販売禁止」がうたわれていて、あのトランプ大統領が再選される以前である。今や欧州の“エンジン車販売禁止”というゴールポストが動かされるのは必至の状況であり、トランプ関税の発動に合わせて、アルピーヌの北米進出も無期限延期となった。
とはいえ、欧州で“エンジン車販売禁止”が撤回されたとしても、CO2規制そのものやエンジンにまつわる各種規制が飛躍的に緩和されるとは考えづらく、アルピーヌがいまさらエンジン車にカジを切り直すのも現実的ではない。ルノーはすでに、エンジン開発機能を中国ジーリーとの合弁会社「ホースパワートレイン」にスピンアウトさせている。また、2026年シーズンからF1で手を組むメルセデスAMGのパワーユニットを市販アルピーヌにも積むのは、物語的には悪くないが、今やメルセデス自体がコンパクトカーから手を引きつつある。アルピーヌに適した小型高性能エンジンを、メルセデスAMGが用意するのは容易ではない。
となると、アルピーヌはやはりBEVに活路を見いだすしかなさそう……というのが現時点での見立てである。ただ、今の自動車産業は一寸先も闇であり、なにがどうなるかわからない。すったもんだの末に、BEVとエンジン車のアルピーヌが共存するという世界線が、われわれファンの理想だけれど、それもむずかしいかなあ。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎、アルピーヌ・ジャポン/編集=藤沢 勝)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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