日産エルグランド250 Highway STAR/ライダー 350 Highway STAR【試乗記】
無冠の帝王 2010.08.31 試乗記 日産エルグランド250 Highway STAR(FF/CVT)/ライダー 350 Highway STAR (FF/CVT)……414万7500円/553万3500円
日産の最上級ミニバン「エルグランド」が、フルモデルチェンジ。8年のときを経て、どんなクルマに仕上がったのか? 乗り心地と走りをリポートする。
オヤジ、くぎ付け
新型「エルグランド」に乗って、撮影のために横浜の本牧埠頭(ふとう)にやってきた。本牧といえば工場やコンテナターミナルが一帯に広がり、その間を大型トレーラーがごう音を上げて行き交うところ。華のある新車で向かうにはちょっとばかり殺風景で、かなりオトコっぽいにおいのする場所だ。そんな本牧には歩行者などほとんどいない。しかし、それでも新しい「エルグランド」で走っていると、痛いほど視線を感じる。トレーラーの運転手からの視線だ。
反対車線ですれ違うとき、交差点で一時停止したとき、あるいは赤信号で隣に止まったとき、こちらをじっと見ている。おそらくは40代以上で、子供たちもそれなりに生意気になってきていて、週末にクルマで家族サービスしたいと思いながら実際は忙しくてなかなかできていなくて、一方で自分のクルマ趣味をじっと我慢しているであろう彼ら(余計なお世話でスミマセン)と、ばっちり目が合う。なるほど、日産はこういったミニバンの“魅せ方”を、よく心得ているようだ。
旧型「エルグランド」の駆動方式はFRだったが、新型ではFFになった。「ティアナ」や「ムラーノ」に用いられている日産-ルノーの大型FF乗用車用「Dプラットフォーム」が使用されていて、北米市場向けミニバン「クエスト」と兄弟車の関係になった。この措置により、フロア高が従来型と比べて129mmも下がり、全高だと95mm低くなっている。
その一方で全長は80mm長くなっている。だから、新旧の「エルグランド」のたたずまいにはスポーツカーとセダンぐらいの違いがある。その昔、「エルグランド」のCMで岩城滉一氏が「でっかく行こうぜ人生は」とキメるのがあったけれども、いろいろ事情があって今どきは「低めで行こうぜ人生は」ということになったらしい。
さて、このクルマに乗っていいよと言われたら、誰もが真っ先に乗るであろう2列目から観察してみることにしよう。
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もう寝ずにはいられない
フロアが13cmも低くなると、さすがに乗降性に違いが出る。さっと楽々と室内に乗り込み、お目当ての2列目に座って室内をぐるりと見渡す。すると広さそのものは旧型とさほど変わらぬ印象を受ける。背が低くなったぶん、天地方向の余裕が減ったのかと思えば、そんなことはなかった。室内高(2列目シート付近)は20mm増えているそうだ。前後方向の余裕はカタログの数値的には減っているものの、実感としてはそうは思えない。全長5m級ミニバンならではの、余裕に満ちた広さである。
大きくリクラインして、オットマンまで付いている2列目シートは、さらに背もたれに“中折れ機能”まで付いて、もう「絶対に寝るな」と言われても無理なほどの領域に達した。これはもう自家用車界の桃源郷、あるいはちまたのマイバッハである。
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ダラっと横になって、天井に格納されている11インチの液晶モニターを出して、エアコンの噴出し口を自分の方に向けてボーズの5.1chサラウンド・シアターシステムで映画のDVDをスタッフの方にかけていただく。箱形ボディだけあってこれはもはや“劇場”だ。カーオーディオの域を超えている。
言い換えれば、東名高速に用賀から乗って、静岡県に入る前に熟睡する自信がある。なるほど、これが基準になってしまったらあぶない。もうセダン、いやラグジュリアリーサルーンにだって戻れまい。しかしだ、偏屈な筆者は、クルマの中で何でここまでダラッと弛緩(しかん)しなくてはならないのか、とふと現実に戻ってしまった。
割り切りが大切(?)
スポーツ選手や政治家みたいにカラダが資本の仕事なら、このリラックスした空間の意味も大いにあろう。でも、筆者は幸いにしてそこまで疲れていない。疲れていない人間が楽をおぼえると、すぐに「タリぃ」みたいなことを口にするダラケた人間になる、ましてや子供をや、とみずからの体にムチを入れ、「自分、運転席にさせてください」と申し出た次第だ。
そして運転席に着いたら着いたで、今度はイライラし始めるのだから始末に終えない。映画が超臨場感でドドーンと盛り上がると、後ろが「おおっ」と声を上げる。しかしダッシュボードのモニターには走行中、安全のために映画は映らないから、自分だけが疎外された気分になるのだ。これで寝られでもしたら……。
新型「エルグランド」のドライバーは、おそらく慈愛に満ちた人でないとダメである。そうでなけりゃ助手席には、みんなが寝静まってからイイ話ができるようなよき理解者に座ってもらわないと。そういう意味ではたぶんフェラーリより運転者の精神的な技量が問われる、“家庭内二種免”が必要なクルマだ。
それはそうと、ひとつだけ気になったのは3列目を立てた標準状態におけるラゲッジルームの奥行きのなさである。7人(仕様によっては8人)で、宿泊ありの旅行に出かけるのはかなり難しそうだ。せめて3列目シートがスライドすれば工夫のしがいもあったと思うのだが……。
低くてアッパレ
背が低くなった恩恵は、もちろん運動性能の違いとして感じることができる。重心が低められ、横方向に踏ん張ったスタンスとなったおかげでロール方向の姿勢変化が穏やかになり、よりセダン的なハンドリングとなっている。また余計なロールが抑えられたぶん、乗員の頭の移動量も減り、結果として快適性の向上にもつながっている。また思いのほか小回りが効くのも新型のいいところである。ステアリングの切れ角を大きくとったため、全長5m、ホイールベース3mのFF車にしては、意外にするりとUターンができてしまう。
エンジンは3.5リッターと2.5リッターの両方を試したが、明らかに3.5リッターの方がトルクに満ちており、そのぶんレスポンスも良く、言うなれば濃厚な味わいに満ちている。高回転では硬質なエンジン音をうっすらと響かせて、クルマ好きの心をくすぐる技も心得ていたりと、なかなかの芸達者だ。それに対して2.5リッターとて2トン級のボディを引っ張る底力こそ十分だが、2500rpmあたりからノイズが室内に透過してきて、やや質感に欠けるところがあった。かたや6気筒でこなた4気筒、まあ仕方のないところである。
乗り心地については、排気量によって方向性の違いはない。路面の不整はタイヤとサスペンションがきれいさっぱり飲み込んでくれるが、それでいてソフトにすぎず、適度な腰のある快適なものだ。その特等席は1列目である。2列目はシートや装備こそ最高だが、後輪からの入力がやや強く感じられ、クルマの構造的な意味における乗り心地は1列目に劣る。
いわく、新型「エルグランド」は「キング・オブ・ミニバン」なのだそうだ。言うまでもなく“アル・ヴェル”(アルファード&ヴェルファイア)相手に挑戦状を叩きつけているわけだが、「キング」をうたうなら、クリーンディーゼルとかハイブリッドとか、環境性能にひと技あっても良かったかもしれない。そうすれば、「キング」という響きから、気恥ずかしさが消えるのではないだろうか。
(文=竹下元太郎/写真=小林俊樹)

竹下 元太郎
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