電気自動車の人工的な走行音はどうあるべきか?

2026.07.21 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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電動化が鈍化したとはいわれますが、電気自動車(EV)は着実に増えています。その走行時に車内で耳にする人工的な“音”も多種多様なようですが、こうした音はどうあるべきだと思いますか? 疑似エンジン音がベストでしょうか? 多田さんの考えをお聞かせください。

これは人工音の話ですから、どんな音でも自由自在につくれるわけです。特に今はシンセサイザーなどの技術も発達して、つくれない音はありません。

現実には、クルマが走る際に車内に広がる“実際の音”に人工音をミックスしていろいろなサウンドを生成するなど、メーカーは今、さまざまなやり方を試しています。

で、「EVになって、クルマから(排気音やエンジン音などの)音が出なくなってしまったら、どうすればいいんだ?」という点についてですが、私自身の好みで言えば、「せっかく音がしないクルマになるのなら、静かなほうがいいじゃないか」と思います。まったくもって、身もふたもない意見ですが。余計な音なんか出さないのが一番いい、というのが私の結論なんです。

今の時代はイヤホンなどで「ノイズキャンセリング」が当たり前になっていますが、あの技術を車内空間でもうまく活用して、外からの余計な雑音をどんどん抑え、非常に静かな空間にする。そのうえで、安全上必要な音だけはよく聞こえるような空間をつくるのがいいと思います。

そして、その静かな車内で、自分の大好きな音楽を一番いい音で聞く。長期的な流れで言えば、車内空間はそのように進化していくべきだと思います。

今はまだEVとガソリン車がごちゃ混ぜになっている過渡期なので、「ガソリン車から乗り換えた時の違和感があるから、ちょっとエンジン音みたいなものが聞こえたほうがうれしい」というユーザーの意見に合わせて、わざわざ人工音を出している側面があります。しかし、それに大きな意味があるとは、私は正直、思いません。

いま市販されているEVのなかには、アクセルペダルを踏んで加速するに連れて、リラクゼーションルームの音のような爽やかな人工音がふわーっと高鳴る、というものもあります。まさに、「みんなが好むであろう従来のエンジン音を出す」という発想からもう一歩先に行って、「運転をいかにリラックスして行えるか」ということに目を向けて開発されているのです。

ですから、基本的には静かな空間をつくっておいて、そこへどんな音や音楽を流すかは自由に選べばいいのです。ドライバーのアクセル操作に連動して、音が変化しなければならないということもありません。

自らの操作に対して「音のフィードバック(手応え)」を感じながら運転したいという人が一定数いるのも確かです。そうした人にとっては、音のフィードバックがあったほうが運転しやすいと感じられるでしょう。

ただ、そうした運転操作の反応を得るのが目的であるならば、それは必ずしも「音」である必要はありません。例えば、シートへの振動やシートベルトの締め上げをうまく使ってアクセルの踏み込み具合を体感させることもできます。必ずしも「音」にこだわる必要はなく、今後は音や振動を含めた、さまざまな「体へのフィードバック」の方法が研究され、広がっていくのだと思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。