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BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)

新たなる挑戦 2026.08.17 試乗記 渡辺 敏史 BMWの新世代電気自動車(BEV)の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
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社運を託したプロジェクト

新しいクラスを意味する“ノイエクラッセ”は、BMWにおいて、1960年代前半に登場した「1500」に端を発するモデル群に名づけられた愛称だ。第2次大戦後の復興景気に対して二輪と小型四輪を軸とした商品構成がアンマッチとなり、1950年代末にはメルセデスによる合併を模索されたこともある、そんな窮地を救ったのがノイエクラッセの大ヒットだった。

そんな経緯も察するに、BMWにとっては最も特別な称号であろうそれが、新しいBEVを構成する全ての新技術を束ねた総称として与えられている。すなわち、彼らにとっては社運を託したプロジェクトと言っても過言ではない。そんなノイエクラッセの第1弾となるのが、日本でも販売が始まったiX3だ。

そのサイズはほぼ「X3」に準拠している。すなわちC~Dセグメント級のSUVといえば、世界の自動車メーカーの最激戦区だ。100%サラピンの新兵器を初実戦にいきなりブッ込んでくるのは相当な自信の表れだろうか。iX3単体の開発そのものはアーキテクチャーのモジュラー化によりむしろ短縮されていると聞くが(約30カ月とのこと)、電池や電子プラットフォームなど周辺技術の開発や、iX3の生産拠点でもある専用工場の建設計画にまで踏み込めば、その時計は2018年末までさかのぼることになる。

折しもそれは「i3」や「i8」の生産終了が決定した時期と重なるわけで、BMWとしてはコミューターのBEV化やスポーツカーのプラグインハイブリッド化を壮大すぎる理想論とともに世に提案してきた。その大失敗をもって電動化の規模を縮小するどころか、思いっきり拡大再生産の側にシフトする、その決断の種としたわけだ。こういうエピソードはホンダなどには大いに参考にしてほしいと思う。

国内では2026年7月22日に発売された新型「BMW iX3」。「ノイエクラッセ」として開発された新世代BEVの第1弾であり、この先は新型「i3」(BEV版「3シリーズ」)などが続くことになる。
国内では2026年7月22日に発売された新型「BMW iX3」。「ノイエクラッセ」として開発された新世代BEVの第1弾であり、この先は新型「i3」(BEV版「3シリーズ」)などが続くことになる。拡大
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4780×1895×1635mmで、ホイールベースは2895mm。幅と高さを「X3」よりも小さく設定し、前面投影面積を抑制している。
ボディーのスリーサイズは全長×全幅×全高=4780×1895×1635mmで、ホイールベースは2895mm。幅と高さを「X3」よりも小さく設定し、前面投影面積を抑制している。拡大
ローンチ時のラインナップは「iX3 50 xDrive」と「iX3 50 xDrive Mスポーツ」(今回の試乗車)の2グレードのみ。本国向けには電池容量を抑えて後輪駆動とした「iX3 40」も用意されている。
ローンチ時のラインナップは「iX3 50 xDrive」と「iX3 50 xDrive Mスポーツ」(今回の試乗車)の2グレードのみ。本国向けには電池容量を抑えて後輪駆動とした「iX3 40」も用意されている。拡大
フロントマスク中央の縦長のキドニーグリル(グリルではないが……)がかつての「BMW 1500」を想起させる。ヘッドランプまでつながる白いラインなどはシステムオンで点灯するため、駐車時はブラックアウトしている。
フロントマスク中央の縦長のキドニーグリル(グリルではないが……)がかつての「BMW 1500」を想起させる。ヘッドランプまでつながる白いラインなどはシステムオンで点灯するため、駐車時はブラックアウトしている。拡大
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最大320kWまでの急速充電に対応

欧州での発売から8カ月ほどで日本に上陸したiX3のラインナップは現時点では2モーター四駆の「50 xDrive」のみだ。グレード的には標準仕様とMスポーツに分かれているが、最高出力469PS/最大トルク645N・mのシステムアウトプットや、109.1kWhのバッテリー容量に違いはない。ちなみにWLTCモードでの航続距離は主に装着タイヤによる転がり抵抗の違いからMスポーツは835kmとなるが、標準仕様では906kmと、日本で販売されるBEVとしては最長をうたう。

この足の長さにはSUVのナリにしてCd=0.24という空気抵抗値の小ささも少なからず寄与していることだろう。特に高速移動が多い向きにはこの数値がはっきりと航続距離に効いてくる。それでなくても過去の試乗を振り返ってみれば「i4」や「iX1」など、BMWのBEVは高速巡航燃費のスコアが優れたものが多い。このあたりはドイツ出自のこだわりということだろうか。

その本国仕様と日本仕様との差は想像していた以上に少ない。意外だったのは受電能力で、最大320kWと日本ではごく限られた場所にしかない高出力チャージャーへの対応も織り込んでいる。その場合、10%→80%の充電速度は26分とCHAdeMO的な時間の縛りにおいてもがぜん実用的な使い勝手をみせてくれそうだ。また、2026年11月以降には高速道路上で130km/h以下でのハンズオフドライブを可能にする「ハイウェイアシスト」をソフトウエアアップデートで機能追加するなど、先進運転支援システム(ADAS)についても欧州仕様に準拠するような性能が得られる予定だ。

駆動用バッテリーの容量は109.1kWh。WLTCモードによる一充電走行距離は標準仕様が906km、この「Mスポーツ」では835kmとされている。
駆動用バッテリーの容量は109.1kWh。WLTCモードによる一充電走行距離は標準仕様が906km、この「Mスポーツ」では835kmとされている。拡大
平行四辺形のセンターディスプレイやウインドシールド基部に備わる「パノラミックiDrive」など、インテリアも新機軸にあふれている。そのあたりの装備はあとで個別に紹介する。
平行四辺形のセンターディスプレイやウインドシールド基部に備わる「パノラミックiDrive」など、インテリアも新機軸にあふれている。そのあたりの装備はあとで個別に紹介する。拡大
「Mスポーツ」の場合はブラックのM仕様内装が標準ながら、この試乗車は無償オプションの白内装をチョイス。レザーシートの設定もあるが(有償オプション)、シート表皮はリサイクル素材による「エコニア」が標準だ。
「Mスポーツ」の場合はブラックのM仕様内装が標準ながら、この試乗車は無償オプションの白内装をチョイス。レザーシートの設定もあるが(有償オプション)、シート表皮はリサイクル素材による「エコニア」が標準だ。拡大
後席は足元も頭上の空間も、床面と座面との高低差もきっちりと確保されており、さすが新開発のBEV専用プラットフォームとうならされる。側面衝突からバッテリーを保護するためか、サイドシルの幅が広く、乗り降りしづらいのが惜しい。
後席は足元も頭上の空間も、床面と座面との高低差もきっちりと確保されており、さすが新開発のBEV専用プラットフォームとうならされる。側面衝突からバッテリーを保護するためか、サイドシルの幅が広く、乗り降りしづらいのが惜しい。拡大

テクノロジー満載のインテリア

ノイエクラッセのアーキテクチャーはそのADAS領域やインフォテインメント、動的パフォーマンス、電力マネジメントなどを4つのSoCで統合制御している。「スーパーブレイン」と名づけられたそれは、今後のBMWにおけるソフトウエアディファインドビークル(SDV)の鍵となるテクノロジーだ。これに準ずるコンピューティングはBEVだけではなく、おそらく他のパワートレインを用いたモデルにも展開されていくだろう。

その初出のモデルとあらば、継続的なバグフィックスを前提に安定化までに時間がかかりそうなものだが、限られた時間で扱う限り、システムそのものにも日本語環境にも不自然な点はまったく見当たらなかった。BMWには日本市場でも第7世代OSから約8年間にわたって音声対話型AIを展開してきた実績がある。

この第10世代では対話の会話性が生身の人間のように進化したのがひとつのウリになっているが、この経験値も生きているのだろう。日本語対応も初手からかなりスムーズだ。例えば暑い寒いだの、腹減ったうまいハンバーグ食いたいだの、車中でひとりつぶやく好き勝手なことも、逐一拾って返してくれる。

そのコミュニケーションのスムーズさをもって、対話システムは「インテリジェントパーソナルアシスタント」という名前に昇格。フロントウィンドウ下端に配置される対角43.3インチの「パノラミックiDrive」には、会話に反応するスケキヨのようなキャラクターが陣取っている。周囲には速度や機能の作動状況、日常情報などを横並びで表示、これらの内容は自分好みに変更することも可能だ。これにアシンメトリックな17.9インチのタッチスクリーンと、ダメ押しのようにナビ連動AR機能付きの大型ヘッドアップディスプレイが加わることによって隙なしのインフォテインメント環境を構築しているわけだが、正直な話、できることについては1日いじり回したくらいでは分かった気にもなれなそうなほどに多項目だ。

駆動用モーターは前後アクスルに1基ずつ搭載されており、システム全体では最高出力469PS、最大トルク645N・mを発生。フロントには誘導式モーターを、リアにはローターに電磁石を使った同期式モーターを使っている。
駆動用モーターは前後アクスルに1基ずつ搭載されており、システム全体では最高出力469PS、最大トルク645N・mを発生。フロントには誘導式モーターを、リアにはローターに電磁石を使った同期式モーターを使っている。拡大
ウインドシールドの端から端までをカバーする「パノラミックiDrive」の対角は43.3インチ。ダッシュボード側から鏡像を投影して表示している。奥行きがある表示のためボンネットの下に映っているように見えるのが面白い。
ウインドシールドの端から端までをカバーする「パノラミックiDrive」の対角は43.3インチ。ダッシュボード側から鏡像を投影して表示している。奥行きがある表示のためボンネットの下に映っているように見えるのが面白い。拡大
17.9インチセンターディスプレイはタッチ操作に対する反応が軽快で、表示も非常に高精細だ。ドライバー側の上が飛び出した平行四辺形というところは右ハンドルも左ハンドルも共通のため、わざわざ違うパネルを使ってつくり分けている。
17.9インチセンターディスプレイはタッチ操作に対する反応が軽快で、表示も非常に高精細だ。ドライバー側の上が飛び出した平行四辺形というところは右ハンドルも左ハンドルも共通のため、わざわざ違うパネルを使ってつくり分けている。拡大
3D表示に対応したヘッドアップディスプレイも搭載。ナビゲーションの目的地を入力すると、実際の道路をなぞるようにして曲がるべき交差点やカーブを示してくれるため非常に分かりやすい。
3D表示に対応したヘッドアップディスプレイも搭載。ナビゲーションの目的地を入力すると、実際の道路をなぞるようにして曲がるべき交差点やカーブを示してくれるため非常に分かりやすい。拡大

デジタルをアナログにも活用

今回の取材車は21インチタイヤを履くMスポーツの側だったが、街乗りで多用する低中速域での乗り心地については初出時の印象と少なからず異なっていた。端的にいえば硬い。橋脚のジョイント段差などでガツガツと突き上げるようなインパクトがあるわけではないが、路面の舗装が荒れてひび割れが不規則に並ぶようなところではロールとバウンドが一緒くたに混じり合うような揺すりが前に出てくる。飛ばせば落ち着くあたりはMスポらしいともいえるが、海外での試乗時にはノイエクラッセの看板に応える新しさを感じただけに、ここはちょっと期待外れだった。タイヤ銘柄の違いによる縦バネ感の差や日独の路面環境の違いに加えて、走行距離的にアタリがついてなかった試乗車だったこともあるだろうから、この点については日をあらためて再確認してみたい。

対して、期待どおりのフィーリングにまとまっていたのがクルマそのものの動きやそれに伴う姿勢変化の塩梅だ。加減速にはフラットな姿勢を保ちつつ、旋回では少ないロールながらも後軸側の蹴り出しで頭を振っていくサマを、ふんわりと、でもきちんとドライバーに伝えてくれる。

そういう操縦実感を駆動輪側の制御で緻密にできるのがノイエクラッセのすごいところで、iX3にはその素養を活用してBMWの走りのデザインそのものを変えていこうという意気も感じられた。個人的になぞらえれば、それはE34やE36の世代に溜飲を下げるしかなかった、しなやかさと鋭さの高次元での融合を彷彿とさせるものだ。

開発や生産にまつわるイノベーション、ソフトウエアを軸とした継続的な価値提供など、BEVの価値はとかくデジタルで語られがちなところがある。もちろんノイエクラッセも徹底したデジタル化でその側にリーチしているわけだが、一方でドライビングダイナミクスというアナログ的なアイデンティティーにおいてもデジタルのバックグラウンドを最大限に利用しようとしているわけだ。iX3の背後にはそういうBMWの挑戦を垣間見ることもできるし、彼らが何かをつかみ始めていることが乗れば伝わってくると思う。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)

まだ下ろしたての個体だったためなのか(試乗開始時のオドメーターは457km)、乗り心地はだいぶ硬めだった。高速道路などで70km/hくらいからは抑えが利いてくるものの、街乗りではかなり強めに揺すられる。
まだ下ろしたての個体だったためなのか(試乗開始時のオドメーターは457km)、乗り心地はだいぶ硬めだった。高速道路などで70km/hくらいからは抑えが利いてくるものの、街乗りではかなり強めに揺すられる。拡大
「パノラミックiDrive」の中央に陣取るのが対話型音声アシスタントのアイコン。『犬神家の一族』のスケキヨのような見た目ながら、高い音声認識能力を誇る。
「パノラミックiDrive」の中央に陣取るのが対話型音声アシスタントのアイコン。『犬神家の一族』のスケキヨのような見た目ながら、高い音声認識能力を誇る。拡大
「パノラミックiDrive」にカレンダーとBMWのアートカー、天気予報を表示したところ。表示項目はセンターディスプレイを介してカスタマイズできる。
「パノラミックiDrive」にカレンダーとBMWのアートカー、天気予報を表示したところ。表示項目はセンターディスプレイを介してカスタマイズできる。拡大
「パノラミックiDrive」のカスタマイズ画面。上部の現在表示中の項目を消して、下部に並んだアイコンから好みのものを選んでドラッグすればいい。BMWのアートカー(全5モデル)を全部並べることもできる
「パノラミックiDrive」のカスタマイズ画面。上部の現在表示中の項目を消して、下部に並んだアイコンから好みのものを選んでドラッグすればいい。BMWのアートカー(全5モデル)を全部並べることもできる拡大
荷室の容量は520~1750リッター。ボンネットの下にも58リッターの収納スペースがある。
荷室の容量は520~1750リッター。ボンネットの下にも58リッターの収納スペースがある。拡大

テスト車のデータ

BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4780×1895×1635mm
ホイールベース:2895mm
車重:2330kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:167PS(123kW)/4607rpm
フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)/0-4607rpm
リアモーター最高出力:326PS(240kW)/5500rpm
リアモーター最大トルク:435N・m(44.4kgf・m)/0-5000rpm
システム最高出力:469PS(345kW)
システム最大トルク:645N・m(65.8kgf・m)
タイヤ:(前)255/40R21 102Y XL/(後)255/40R21 102Y XL(ヨコハマ・アドバンスポーツV107)
一充電走行距離:835km(WLTCモード)
交流電力量消費率:150Wh/km(WLTCモード)
価格:1034万円/テスト車=1094万8000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズンスペースシルバー>(32万5000円)/コンテンポラリーインテリア<デジタルホワイト>(0円)/パノラミックガラスサンルーフ<クライメートコンフォートガラス>(21万9000円)/パーキングアシストプロフェッショナル(6万4000円)

テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:457km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:282.7km
消費電力量:59.1kWh
参考電力消費率:5.1km/kWh(車載電費計計測値)

BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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