DS N°8エトワールAWD(4WD)
フランスの誇り 2026.08.22 試乗記 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。フランス大統領の御用達
ステランティスがDSオートモビルとして製造販売するN°8は、「N°4」に続く新ネーミングの最新DSであり、実質的に「DS 9」の後継機種である。ただ「DS 4」のマイナーチェンジモデルであるN°4とは異なり、N°8は最新の「STLAミディアム」のプラットフォームから、すべてが新しいBEVだ。と同時に、フレンチブランドでは事実上の最高級車にして、2022年に「ルノー・タリスマン」が、2025年に「プジョー508」が生産終了して以降、フランス車では唯一のサルーンである(厳密にはハッチバックだが)。
だから……というわけではないが、本国デビューの約半年後となる2025年5月には、N°8をベースとしたフランス大統領専用車「プレジデンシャルDS N°8」もお披露目された。フランスの現政治体制下では初代大統領となるシャルル・ド・ゴールが、公用車として「シトロエンDS」を重用したことから、以降の歴代フランス大統領専用車にはシトロエン、そして近年はDSが使われることが多い。
もっとも、マクロン現大統領が使う公用車はこれ1台ではなく、2025年7月14日のフランス革命記念日にはルノーの「プレジデンシャル・ルノー・ラファール」が登場したし、この2026年の7月14日には、DSの最新モデルをベースとした「N°7エリゼ」も加わっている。
いずれにしても、国家元首も乗るこの種のクルマは、だれが見ても“高級”とすぐに認識できるのが万国共通のお約束のはずなのに、ここまで前衛芸術に振り切るとは! フランス車ファンの筆者としては、一応「これぞフランス!」としたり顔をしてみるものの、この美意識を心から理解できるかというと、正直いってビミョーなのも事実。それは結局のところ、筆者が日本人だからか。
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前衛的すぎるデザインの一方で
N°8の前衛芸術っぷりは写真をご覧いただくとして、各部の放射状モチーフも最新DSのデザインキーのひとつ。……なのはともかく、それを取り入れたステアリングホイールはとくに芸術が爆発している。
スポーツカー的な3スポークが長く主流だったステアリングホイールも、近年は2スポークが復権して、直近では4スポークも出はじめた。N°8もその一例といえるが、X字状のクロススポークなのが大胆だ。直進時に水平となる部分がないので、筆者みたく先入観に凝り固まった人間はムズムズと落ち着かない……が、それも意図したところなのだろう。
こうしたデザイン的な見どころはキリがないほどのN°8だが、随所に最上級のナッパレザーを使いつつも、それ以外は法外にコストのかかる高級素材が使われているわけではないのは、ラグジュアリーカーブランドが存在しないフランス車らしいところだ。
フランスにも戦前はブガッティやドライエ、ドラージュ、イスパノ・スイザといった高級車ブランドがあったが、どこも第2次大戦前後に姿を消した。ちなみに、1990年代と2000年代に創業されたブガッティは、どちらも商標以外、かつてのブガッティとは無関係といっていい。また、戦後にはファセル・ヴェガが高級車市場に打って出たものの、わずか10年で消滅した。こうしてフランスに高級車メーカーが残っていないのは、戦後に導入された出力課税が最大要因とされる。
いずれにしても、N°8の基本骨格はCセグメントにも使われるSTLAミディアムで、4820mmという全長もステランティスでは「プジョー5008」と変わらず、トヨタの「クラウン スポーツ」と「クラウン エステート」の中間くらい。つまり、特段に大きいわけでもない。1005万~1045万円という本体価格も安くはないが、97.2kWhという大きな容量の電池を積む輸入BEVとしては、特別に高価ともいえない。
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よみがえるハイドロ時代の走り
STLAミディアムを土台とするN°8だが、リアサスペンションはトーションビームではなく、マルチリンク独立式で、そこに電子制御ダンパーの「アクティブスキャンサスペンション」を組み合わせる。同ダンパーは前方カメラや加速度センサーで路面状況を検知しながら、瞬時に減衰力を可変する技術で、ステランティスではDS専用と位置づけられる。
STLAミディアムにアクティブスキャン~が組み込まれるのはN°8が初めてとなるが、率直にいって、そのデキは素晴らしい。「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」とドライブモードを切り替えていくと、少しずつ身のこなしが俊敏になるも、基本的な乗り心地やロール量が大きく変化しないのは、逆にシャシーの素性のよさを示してもいる。
なかでもノーマルモードは見事な調律というほかなく、あらゆる速度域でしなやかな吸収力を見せつつ、同時に上屋はフラットに落ち着きはらう。コンフォートモードはサスペンションが電子制御化されて以降のシトロエン/DSの例にもれず、上屋を明確にフワリと上下させる“ハイドロ(ニューマチック)感”の演出が入る。
そしてそのコンフォートモードの守備範囲が広いのもN°8の美点だ。従来の同モードは、速度によって上屋の動きが過大になったり、ワインディングロードではあからさまにレスポンス遅れを感じさせたりするケースが見られた。しかし、N°8ではハイドロ感をきっちり匂わせつつも、どこでもフラットな姿勢をくずさず、タイトな山坂道でももてあますことがない。
オイルとガスを使った「ハイドロニューマチック」やその電子制御版「ハイドラクティブ」を2015年に廃止して以来、非ハイドロによる“ハイドロ感”を追求してきたシトロエン/DSも、このN°8でひとつの完成を見た……と個人的に思わなくもない。
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アクセル操作に覚えるクルマとの一体感
踏みはじめからガツンと利くブレーキも、ハイドロ時代からの伝統だったはずだが、N°8のそれは正反対。初期の利きは明らかに控えめだ。もちろん、しっかり踏み込めば問題はないが、いきなり乗ると面食らうほどだ。そのかわり、パドルで3段階から選べる回生ブレーキは総じて利きが強く、完全停止までのワンペダルドライブも可能である。
さらに、アダプティブクルーズコントロールによる半自動巡航では、ブレーキ作動に合わせて、ペダルも物理的に引き込まれるのが面白い。一見するとただのギミックだが、これなら人間による“追いブレーキ”の反応時間も有利なのかもしれない。そう考えると、いかにも電動時代のブレーキっぽくもある。
またフラッグシップらしく静粛性も高く、充電性能も、少なくとも日本で普及している90kW級の急速充電器なら、電池残量を問わずに気持ちいい飲みっぷりを示す。
それに輪をかけてパワートレインのしつけも素晴らしい。日本仕様のN°8は前後1基ずつの2モーター車だが、エコモードではFWD、コンフォートとノーマルではFWD基本のオンデマンド4WD、そしてスポーツと4WDモードでは常時4WDになるという。常時4WDとなるモードでの安定性と回頭性のバランスもいいし、とくにアクセル操作と加速特性の人車一体感は屈指といってよく、そのあたりは約10年にわたるフォーミュラEの知見もあるかもしれない。もっとも、この2025-2026シーズンをもって、DSはフォーミュラEを卒業するけれど……。
デザインには賛否ありそうなN°8も、クルマとしてのデキはさすがフラッグシップBEVといったもので、とくにフットワークは個人的にほぼ文句なし。しかし、最新の大統領専用車であるN°7エリゼには特製ハイドロニューマチックサスペンションが組み込まれているとか(市販N°7はN°8同様のアクティブスキャン)。となれば、DSもいよいよ“ハイドロ感”を卒業して、真正のハイドロに戻る……のかは定かではないけれど、そうなったら面白い。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
DS N°8エトワールAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1900×1580mm
ホイールベース:2900mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:281PS(207kW)/7500rpm
フロントモーター最大トルク:343N・m(35.0kgf・m)/250-5300rpm
リアモーター最高出力:113PS(83kW)/1万4000rpm
リアモーター最大トルク:166N・m(16.9kgf・m)/1000-4375rpm
システム最高出力:350PS
システム最大トルク:509N・m
タイヤ:(前)255/40R21 102W XL/(後)255/40R21 102W XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック6)
一充電走行距離:750km(WLTCモード)
交流電力量消費率:14.2kWh/100km(WLTPモード、欧州仕様参考値)
価格:1005万円/テスト車=1090万8375円
オプション装備:メタリックペイント<クリスタルパール>(12万円)/アブソリュートコンフォートパッケージ<マルチポイントランバーサポート[フロント]+シートベンチレーション[フロント&リア]+FOCAL HiFiスピーカー+ステアリングホイールヒーター+フロントウインドシールドヒーター>(40万円)/21インチ鍛造アロイホイール+キャップ+255/40R21タイヤ(20万円)/ブラックボンネット(6万円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダーV263A(5万9950円)/ETC1.0車載器<取り付けハーネス含む>(1万8425円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:4549km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:328.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:20.1kWh/100km(車載電費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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