第17戦インドGP「覇者としての真価」【F1 2012 続報】
2012.10.29 自動車ニュース【F1 2012 続報】第17戦インドGP「覇者としての真価」
2012年10月28日、インドはニューデリー近郊のブッダ・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第17戦インドGP。3連勝して一気にチャンピオンシップ首位に躍り出たセバスチャン・ベッテルが今回も勝利し、レースを2位で終えたランキング2位のフェルナンド・アロンソとのポイント差はさらに拡大した。
■挑戦者からディフェンディングチャンピオンへ
冒頭から昔話になるが、歴史のひもを少し解いて、
それまでポイントリーダーの地位を守っていたフェルナンド・アロンソは、2位以上で自力でチャンピオンになれるはずだった。しかしピット戦略を誤り7位でゴール。タイトルにもっとも近かったフェラーリのエースに、3度目の栄冠はやってこなかった。
一方ランキング3位だったベッテルは、自らの優勝とアロンソ5位以下という厳しい条件をひっくり返し、レースを圧勝して自身最初のワールドチャンピオンの称号を勝ち取った。
この年のベッテルはチャレンジャーであり、タイトル争いで言えば本命とは言えなかった。速いマシンを武器とするも、トップドライバーとしてはミスが多く、トルコGPではチームメイトのマーク・ウェバーと接触、ハンガリーGPではトップを走りながらセーフティーカーラン中規則違反を起こし優勝を逃した。さらにベルギーGPでもジェンソン・バトンを巻き添えにクラッシュを演じた。
ベルギーGPまでの13戦で2勝、トップから31点離されてのランキング3位だったベッテルが、シーズンの後半戦で開眼することになる。レッドブルの苦手なイタリアGPで4位に入賞、続くシンガポールGPでは2位、日本GP優勝、韓国GPではエンジンブローでリタイアに見舞われるもブラジルで再び勝利、そして最後のアブダビGPでもライバルを圧倒して、一気に頂点までのぼりつめた。
挑戦者がディフェンディングチャンピオンとなった2011年、ベッテルは最速「RB7」との抜群のコンビネーションで他者を蹴散らし、4戦を残して2連覇を達成する。同じマシンをドライブするウェバーは最終戦でようやく勝利できたのに対し、新王者は19戦11勝、15ポールポジションを獲得。まさに無敵という表現が似つかわしい、ベッテルの年だった。
そして、2012年。開幕から7戦して7人の違うウィナーが誕生した前半戦で、ベッテルは第4戦バーレーンGPウィナーとなったが、以降は勝ちに恵まれずポディウムの前後をさまようレースが続いた。
それが後半戦に差し掛かるとレッドブルは見る見るパフォーマンスを上げ、第14戦シンガポールGP以来、ベッテルは今年誰も成し遂げていなかった3連勝を達成。インドGP直前の韓国GPでは、ついにアロンソからチャンピオンシップ首位の座を奪うことに成功した。チームとしても2戦連続でフロントローを独占しており、レッドブルが「RB8」開発の突破口を見つけた感を受ける。
低調なシーズンスタート。終盤にかけての劇的なキャッチアップ。最大のライバルは最速とは言えないマシンを駆るアロンソ ── 2010年と2012年の展開は似ているが、最終戦で大逆転した2年前とは違い、戦いはまだ4戦もある。
ポイントリーダー、ベッテルとランキング2位アロンソの間には、わずかに6点の開きしかない。3連覇を目指すベッテルの、覇者としての真価が問われる4レース。その初戦となるインドGPで、王者はパーフェクトな結果で応えた。
■レッドブル、3戦連続となる予選一列目独占
昨年から新たにカレンダーに加わったインドGP。ベッテルがポールポジション、優勝、ファステストラップ、全周リードで完勝した1年前の記憶がまざまざとよみがえる週末となった。
金曜日から土曜日の3つのプラクティスすべてで最速タイムを記録したベッテルが、土曜日午後の予選になっても速さを維持。トップ10グリッドを決めるQ3の最初のアタックでは失敗したものの、2度目にはきっちりと1周をまとめあげ、ポールポジション(PP)を獲得した。チームメイトのウェバーが2位に入り、レッドブルにとっては3戦連続PP&フロントロー独占という、勢いを裏付ける予選結果となった。
セカンドローには3位ルイス・ハミルトン、4位ジェンソン・バトンとマクラーレンが、3列目には5位アロンソ、6位フェリッペ・マッサのフェラーリが並び、チームとマシンの序列がきれいに分かれた。
7番グリッドにはロータスのキミ・ライコネン。以下、セルジオ・ペレスのザウバー、予選Q1でトップだったウィリアムズのパストール・マルドナド、計時なしでタイヤを温存する策に出たニコ・ロズベルグのメルセデスが続いた。
ベッテルのPPタイムと3位ハミルトンのタイム差は0.261秒。レッドブルの勢いはたしかなものだが、決してライバルが絶望するほどのギャップではない。
プラクティス中のロングランペースを見ればマクラーレン、フェラーリの逆襲もじゅうぶんあり得ると思われた。
■スタート直後、見せ場をつくったアロンソ
近年のGPサーキットの多くを手がけてきたヘルマン・ティルケの“作品”であるブッダは、DRSが使えるストレートが2カ所設けられるものの、追い抜きはなかなか難しいコースだ。レースではスタートが勝敗のカギを握ることになり、実際、このレースでも見せ場のひとつとなった。
トップのベッテル、2位ウェバーが順当にスタートを切る一方で、続くマクラーレンの2台は3コーナー後のバックストレートでサイド・バイ・サイド状態に。この背後からスリップストリームでオーバーテイクを仕掛けたのが、何としても早々にマクラーレンを抜きレッドブル、そしてベッテルを追いかけたいアロンソだった。
フェラーリはインから仕掛け、ストレートエンド手前で一瞬3位の座を奪う。だが4コーナー進入で両脇からマクラーレンが襲いかかり、再び5位に後退。それでもアロンソは諦めず、直後の短い直線でハミルトンをパスし、オープニングラップを4位で終えた。
60周レースの4周目、ペースが伸びないバトンを抜き3位となったアロンソは、いよいよ照準をトップ2のレッドブルにあわせるのだが、1位ベッテルは既にハイペースで逃げ切りをはかろうとしていた。
ハードとソフト、2種類のタイヤはそれぞれ“もち”がよく、1ストップが理想的だった今回、上位陣は最初のスティントでソフトタイヤを、最後にハードを使う作戦をとった。1周目で2位ウェバーに1.2秒差をつけていたベッテルは、10周目に3秒、スティントも終盤に差し掛かった26周目には10秒ものクッションを築いてしまう。チャンピオンお得意の独走劇だ。
2位ウェバーのソフトタイヤはチームメイトのそれとは違い、20周を過ぎると苦しくなった。3位アロンソとの差は1秒台に迫るが、DRSが使える1秒以内まではいかない。
その後方、4位のハミルトンは、チームメイトのバトンを従えてトップから20秒近く遅れて、レースの前半で優勝戦線から脱落した。
■レッドブル“火花”の謎
折り返し地点の30周目に3位アロンソが、翌周には2位ウェバーがピットへ飛び込んだ。かなたのベッテルはともかく、目の前のウェバーは是が非でも仕留めておきたい ── アロンソは必死にレッドブルに食らいつこうとするが、ウェバーもファステストラップで応戦しポジションを守った。
だが、レースの3分の2を過ぎた45周目、ウェバーは、KERSが使えないと無線でチームに報告した。実はスタートから20周前後でこの電気ブースト機能が不調に陥り、だましだまし走っていたのだという。
フェラーリのエースはDRSとKERSの双方を駆使し、48周目にウェバーを抜き2位へ。トップのベッテルは10秒も先だが、アロンソはファステストラップをたたき出して前を追った。ウェバーに起きたトラブルがベッテルに起きない、という保証はないのだ。
レースを掌握しているかに見えたベッテルだったが、残り10周を切った時点で、DRS作動時にマシンの下から時折火花が飛び散るという不可解な現象に見舞われていた。パフォーマンスに影響が出ていたわけではなさそうだが、プランク(すり板)が規定以上に摩耗すると失格の可能性もある。幸いレース後に何事も発表されなかったが、かねてからレッドブルは、マシンフロアが不自然に“たわむ”ことでアドバンテージを得ているのではないか、と疑惑の的になっていただけに、ほぼ勝敗が決まりかけすっかり興奮も冷めてしまったサーキットは、この火花でささやかに色めき立った。
ベッテルは、最終的に9秒以上のマージンをキープし、華麗なる4連勝を飾った。
アロンソはダメージを最小限に抑える2位フィニッシュ。3位で終われば16点差のところを、なんとか13点にとどめた。
KERSなしのウェバーは、ハミルトンからの猛攻に耐えて3位でチェッカードフラッグを受けた。もし4位に落ちていたら、その時点で数字上タイトルの可能性はゼロになっていた。とはいえ、そもそもゼロを回避しても、限りなくゼロに近い可能性しか残っていないが。
■4連勝=100点満点のベッテル
4連勝で満点の100点を加えたポイントリーダーのベッテルは、これまで17戦で獲得したポイントの実に40%以上をこの4レースだけでかき集めたことになる。さらにベッテルは、丸々3レース連続で一度もトップを譲っていない。これは1989年のアイルトン・セナ以来の快挙だ。覇者の真価を問えば、いまのところ盤石と言っても過言ではない。
対するランキング2位のアロンソが足し上げたポイントは4戦で48点。ベッテルとのギャップもレース前の6点から13点へ拡大した。
残る3レースもベッテル/レッドブルが席巻しそうな勢いを感じるが、アロンソはまだタイトルを諦めてはいない。次戦アブダビGPにフェラーリが持ち込む予定の大幅なマシンアップデートに期待を寄せ、大逆転をもくろんでいるのだ。
3戦=75点満点で13点差。もちろん、アロンソには十分な可能性はある。ランキング3位で今季未勝利のライコネンが、今後2勝してもまだ埋まらない67点差であることと比べれば……。
アブダビGP決勝は11月4日に行われる。
(文=bg)
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