日産エクストレイル 20GT(4WD/6MT)【試乗記】
1万円で自動車旅行 2009.03.11 試乗記 日産エクストレイル 20GT(4WD/6MT)……344万2350円
高速道路の料金が1000円になったら、どんなドライブを楽しもう? 「日産エクストレイル 20GT」のようなクルマで遠くを目指すのも楽しいかもしれない。
クルマ選びが少し変わる(かもしれない)
この原稿を書いている時点ではまだ最終決定ではないけれど、どうやら「Xデー」は2009年3月28日(土曜日)になりそうな気配。この日から、地方では距離にかかわらず、土日祝日の高速道路料金の上限が1000円になる。と、自分で書きながらホントにそんなことが実現するのか半信半疑なわけですが、どうやら自分の目の黒いうちに、そんなことが実現するらしい。
早起きしてバビューンと遠出をするような休日の過ごし方が広まると、クルマ選びも少し変わるかもしれない。たとえば世界で初めて日本のポスト新長期規制をクリアした、クリーンディーゼルエンジンを積む「日産エクストレイル 20GT」のようなクルマが脚光を浴びるのではないか。
軽油とガソリン価格が急接近しているので以前より“うま味”が少ないとはいえ、長距離を走ると仮定すれば燃費のよさは魅力的だ。欧州市場でラインナップされる6段ATモデルは導入検討中とのことで、日本市場では当面、6段MTだけしか用意されない。けれど、渋滞する市街地でウロウロする機会が減るのであれば、多少はハードルも低くなるはず。このクルマでグランドツーリングをするとどんなものか、幸いにもスタッドレスタイヤを装着した広報車両があるというので、東北地方まで連れ出してみた。
車外で聞いていると、アイドリング時の2リッターのディーゼルターボは、ディーゼルっぽいノイズを発する。けれど、運転席に腰掛けてドアをぱたんと閉めると、音は気にならなくなる。信号待ちなど停止状態では、ステアリングホイールから伝わる振動を感じるものの、発進してエンジンを1500rpmも回すと振動は消える。人間の体はよくできているというべきか鈍感というべきか、ものの30分も乗っているとディーゼルエンジンを積んでいるという事実をすっかり忘れてしまった。
クルマの性格は“大陸的”
6段MTは上出来で、カキンコキンと気持ちよくシフト操作ができる。クラッチの作動も滑らか。なにより低回転域からエンジンが有効なトルクを発生するので、マニュアルシフトはまったく苦にならない。自然と、1500〜2000rpmあたりでポンポンと早め早めにシフトアップする運転スタイルとなる。
低回転域での豊かなトルクはスペック表でも証明されており、最大トルク36.7kgmを2000rpmで発生している。日産でこれに近いスペックのエンジンを探すと、最大トルク36.0kgmを3200rpmで発生する3.5リッターV6のVQ35DE型ガソリンエンジンが該当する。「エルグランド」などに積まれるこのエンジンと比べても、エクストレイルのディーゼルターボのほうが、低回転域のトルクが少しリッチなのだ。
高速道路に入ってからの巡航は快適のひとこと。まず、シートがいい。サイズがたっぷりしている以外、特徴があるようには見えないものの、300kmぐらい一気に走ってもお尻が痛くなったり、体の一部に特に疲労を感じるようなことがない。ザックス製のダンパーを備えた足まわりも、乗り心地は適度にマイルドでありながら、ボディの上下の揺れは最小限に抑えるという絶妙のセッティング。あるいはスタッドレスタイヤを履いていることで、少し乗り心地が柔らかい方向に振れているのかもしれないけれど、乗り心地のよさと安定感が両立している。
寡黙でありながら良心的な仕事をするエンジンの性格もあいまって、日産エクストレイル 20GTはグランドツーリングにぴったりの“大陸的”な性格を身につけている。高速道路でのクルージングが退屈ではなく、はるか彼方を目指して、どこまでも走りたくなる。正直、こんなにいいとは思わなかった。忘れちゃイカンのだけど「値下げをETC装着車に限定する根拠」とか「渋滞は?」といった高速道路料金値下げの問題点を忘れてしまいたくなる。
雪道でも抜群の安心感
東北道から山形道へ進むと、周囲の景色が雪化粧を始める。雪道を走ってみようと、山形蔵王インターで降りてみる。東北道の川口料金所から350km、エクストレイル20GTと過ごした4時間強は、あっと言う間だった。そして都心からたったの数時間でこんなにも違う景色と対面できるあたり、日本は狭いかもしれないけれど長い。
インターチェンジ周辺の道路は綺麗に除雪されているものの、山を登るにつれて路面にもちらほら雪が見え始める。そして圧雪と溶けかかった雪が交互に現れるようになり、やがて完璧な雪道となる。雪道に慣れているわけじゃないので、周囲に迷惑をかけない程度にそろそろと走る。四駆システム「ALL MODE 4×4-i」を四駆モードに入れておくと、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザックREVO2」の協力もあって、エクストレイルはどっしり落ち着いて走る。こういう場面でも、素直な反応を見せるディーゼルターボエンジンのレスポンス、良好な乗り心地、しっとりとしたステアリングフィールなどが心強い。
蔵王のとあるスキー場の駐車場へ乗り入れてゲレンデを見渡す。ゲレンデはガラガラで、20年振りにスキーをやってみようかという気になったり。1980年代後半のスキーブームの頃はリフト乗り場に長蛇の列ができていたのに、大げさに言えば貸し切り状態だ。さらにスキーだけじゃなく、温泉の煙も魅力的。懐に余裕があれば、日本蕎麦や山形牛の名店に寄ってもいい。
都心からここまでの有料道路の料金は、首都高速の700円+東北道の7650円、往復で1万6700円。これが首都高速500円+大都市近郊区間分700円+1000円の往復で4400円になるわけだから、かなりグッとくる。ちなみに燃費はそれほど芳しくないので筆圧を弱めて書きますが、往復で968.4km走って軽油を78.05リッター消費、12.41km/リッターだった。山道をがんがん走ったし、スタッドレスタイヤを装着していたし、というのは言い訳です……。軽油は99円/リッターで、燃料代は7726円。高速道路の値下がりが実現した暁には、1万円ちょっとでこんな自動車旅行が実現することになる。
「歴史的な暖冬なのに、CO2を増やすような施策を講じてどうする」という声もあるでしょう。でも、クルマ趣味以外は倹約をモットーに、いたって質素な暮らしをしているわけです。でたらめに化石燃料を燃やそうというつもりは毛頭無いので、年に何度かはこうした自動車旅行を楽しませてくださいと、心の底よりお願いしたいのです。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
![]() |
![]() |
![]() |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
NEW
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
NEW
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。 -
第931回:幻ですカー 主要ブランド製なのにめったに見ないあのクルマ
2025.10.9マッキナ あらモーダ!確かにラインナップされているはずなのに、路上でほとんど見かけない! そんな不思議な「幻ですカー」を、イタリア在住の大矢アキオ氏が紹介。幻のクルマが誕生する背景を考察しつつ、人気車種にはない風情に思いをはせた。