トヨタ・ノア X “Lセレクション”(FF/CVT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ノア X “Lセレクション”(FF/CVT) 2007.09.07 試乗記 ……288万9600円総合評価……★★★★
フロントマスクの変更もさることながら、新エンジン搭載で生まれ変わった「トヨタ・ノア/ヴォクシー」。親しみやすい印象の「ノア」でその進化を試す。
気合いを実感
「トヨタ・ノア/ヴォクシー」は、クルマに趣味性を求める人にはもはや“圏外”の存在かもしれない。とはいえ、いうまでもなく今の日本の自動車シーンを牽引しているのは、こうしたモデル。
一部化粧は違えているものの、「ノア」と事実上の“双子車”である「ヴォクシー」。2台の先代は、2001年の発売以来、毎月コンスタントに9000台以上を販売する文句なしのスーパーヒットモデルであった。
6年ぶりのフルモデルチェンジで、新型の開発に気合いが入らないはずはない。同じ“日本専売車”でも、明確に年配の団塊世代層を狙った新型「カローラ」などと較べると、異なった積極性を感じられる。最新技術を盛り込んだ新エンジンをこうしたミニバンから展開するなど、ひと昔前では考えられなかった。
今回もノアとヴォクシーは、前者をカローラ店、後者をネッツ店で販売。そうした無理矢理の(?)作り分けをしてまで複数のモデルを用意する意義があるのかどうかは別にして、より若者向けネッツ店のヴォクシーが「クールで男っぽい」というイメージを意識したのに対し、ノアは「堂々とした中にも親しみやすい」というのが狙いであるという。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年11月、「タウンエース」「ライトエース」の後継として、3列シート8人乗りのミニバン「ノア」「ヴォクシー」が誕生した。商用車をベースとしたFRからFFの新設計プラットフォームに変更され、まったく別のクルマに生まれ変わった。2004年8月のマイナーチェンジを経て、2007年6月27日にフルモデルチェンジに至った。
2代目も、5ナンバーサイズ(上級グレードは3ナンバー)に8人乗りの3列シートという基本コンセプトで、子育て家族をターゲットにする。親しみやすい「ノア」に、クールで個性的な「ヴォクシー」という、2種類のデザイン展開も引き継がれた。
新型では、新エンジン搭載による環境性能の向上が図られ、さらにシートアレンジをはじめとする、便利機能が多く採り入れられた。
エンジンは新開発の2リッターが2種類で、それぞれにCVTが組み合わされる。駆動方式はFFのほか、4WDモデルも用意される。
グレードは、ベーシックな「X」、その2列シート5人乗りの「YY」、豪華仕様「G」のほか、スポーティな新開発エンジンを搭載した「S」と「Si」が設定される。また、「X」に快適装備を追加した「X Lセレクション」と「ZS」には、7人乗りの“サイドリフトアップシート装着車”もラインナップされる。
(グレード概要)
テスト車の「X Lセレクション」は、ベーシックな「X」にディスチャージヘッドランプや助手席パワースライドドア、オプティトロンメーターを追加装備したモデル。
また、ドアの開閉やエンジンスタートに便利なスマートエントリー&スタートシステムや、2列目シートが180度回転するロングスライドマルチ回転シートはオプション設定となる。
【車内と荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
上面が低くフラットなダッシュボードに縦長のセンターパネルと、最近のモデルとしては直線基調でまとめられた。
従来型のコラム式からいわゆる“インパネシフト”へと変えられたATセレクターは、ステアリングホイールからも近く、見た目以上に扱いやすい。その隣の空調コントロールパネルは、操作スイッチがおおよそ機能に関係なくレイアウトされているので、操作時にいちいち視線を落とす必要があるのが残念だ。センターメーターは、遠めだが見やすいデザイン。安全のために重要な、外気温表示が追加されたのは嬉しいポイントだ。
(前席)……★★★
従来型に比べるとフロアが10mm、ヒップポイントが20mm下がったとはいうものの、それでも絶対位置は低いとはいえない。乗降性にはやや難アリ。
一方、そんな“苦労”がもたらしてくれるのが独特の見下ろし感覚で、「それが運転のしやすさに繋がっている」という意見も一理ありそうだ。
ステアリングコラムにテレスコピック機能が加えられたのは、このクルマの開発に気合いが入っていると実感させてくれるポイントのひとつ。好みのドライビングポジションを得やすい。残念なのは前進したAピラーが生み出す死角が、比較的ゆるいRのコーナーと被ることになって鬱陶しいこと。
(2列目シート)……★★★
8人乗り「X」のセカンドシートは、ウォークスルーのための跳ね上げ構造となったセンター部分を降ろせば3人かけが可能なデザイン。ただし、この部分はクッション性に乏しく、ヘッドレストの用意もない。大人が快適に着座することはできない。
さらに、このポジション用の2点式シートベルトはシート背後のフロアマット下に隠されている。安全性に配慮をした最新モデルのアイディアとはとても思えない。シートバックの丈が肩下部分までしかないのはフルフラット化への対応か。「5ナンバーボディ+3列シート」の限界が見えるひとコマ。
(3列目シート)……★★★
こちらも横3人かけが可能だが、大人がゆったりと座れるのは2人まで。シートバック丈が低いのは、やはり限られたボディサイズの中で多彩なシートアレンジ性を成立させるため。センター席用のヘッドレストがなく、シートベルトも2点式。すなわち、このモデルに快適に乗れるのは大人6人まで。残りの2席分はあくまでも「緊急時に合法的に乗れる」というスペースと解釈をすべき。
(荷室)……★★★★
「全席使用時には荷物のためのスペースはなくなる」のがミニバンの常。しかしノアでは、座席の使用にかかわらず、深さが20cm以上もあるサブトランクが78リッターという大容量で確保されているのは立派。
また、新型の売り物であるサードシートの“簡単跳ね上げ機構”は扱いやすい。ダンパーの力で軽く跳ね上がると同時に、脚が自動で折り畳まれる構造は秀逸だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
Xグレードが搭載するパワーパックは、最高で143psを発する「2リッターエンジン+CVT」という組み合わせ。普及グレードであるこのモデルが搭載する3ZR-FE型エンジンには、話題の連続可変バルブタイミング&リフト機構“バルブマチック”は採用されない。
1.6トンに迫ろうという車両重量に2リッターという排気量の組み合わせゆえ、スタートの瞬間の力感は一人乗りの状態でも「そこそこ」な印象。それでも感心したのは、CVTの制御が実に巧みなこと。加速力を欲してアクセルペダルを踏み加えた際にも、エンジン回転数のみが上昇して不自然な“滑り感”が生じたりしない。
これまで一部のCVTが不得手としてきた、微低速時のアクセルワークでのギクシャク感も、ほとんど意識させられることはない。アクセル開度の小さなクルージングシーンでは、CVTの特性上エンジン回転数が低く抑えられるので、期待以上に静粛性が高かったのも好印象につながっている。
ただし、定員乗車となればそれだけでも簡単に350〜400kgほどは重量が増す計算で、そうなれば当然動力性能の低下はまぬがれない。高速への合流や追い越しの際、ミニバンをドライブする上で、大いに気を付けなければならない事柄だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
走り出してすぐに、期待以上の質感の高さに驚かされる。「ミニバンだから走りの質感はそれなり」というのは完全に過去のハナシ。というよりも今の時代、こうしたモデルこそが売れセンで、各メーカー間の競争も激しいだけに、開発には勢い“リキ”が入る。それを実感をさせる仕上がりなのだ。
路面凹凸のいなし方はしなやかで、ローリングやピッチングなど不快なボディの動きも良くチェックされている。ロードノイズの遮断もなかなか優秀で、ヒタヒタと走る感覚は“高級乗用車”然とさえいえる。
ただし、ボディ側面が「切り立った」スタイリングゆえの弱点は横風に対する弱さ。大した風でもないのにいちいちそれを意識させられる点に、この種のモデルの宿命的な限界を感じさせられる。
ステアリングフィールは、EPS(電動パワーステ)を用いるゆえか中立付近での座りがやや甘いものの、違和感と指摘をするには至らない。
だからと言って、「ドライビングが楽しい!」と感じさせるモデルではもちろんない。そもそも頭上には無駄と思えるほどの空間を残し、背後には広大なスペースを背負いながらひとり乗りで走っていると、今の時代、何とはなしにプチ罪悪感が……。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2007年8月14日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:2018km
タイヤ:(前)195/65R15 91S(後)同じ(いずれも、TOYO J31)
オプション装備:S-VSC+ヒルスタートアシストコントロール+前席SRSサイドエアバッグ&全席SRSカーテンシールドエアバッグ(14万7000円)/スマートエントリー&スタートシステム+盗難防止システム(3万9900円)デュアルパワースライドドア(5万2500円)/ワイドビューフロント&サイドモニター+インテリジェントパーキングアシスト+HDDナビゲーションシステム(43万500円)/ETC(1万4700円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:117km
使用燃料:13リッター
参考燃費:9km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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