トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ(4WD/8AT)
6年の熟成 2026.09.01 試乗記 2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。東洋の奇跡
トヨタGRヤリスの登場は、ベースとなる「ヤリス」より約半年遅れの2020年秋。つまり、デビューからほぼ6年の月日が流れた計算だ。世界ラリー選手権(WRC)でラリー1規定が施行された2022年に合わせるようなデビューとなったわけだが、実際、同年以降のマニュファクチャラーズタイトルはトヨタが独占しており、旧規定の2021年も合わせれば5連覇中……と、もはや所期の目標は十分に達成したようにもみえる。
が、GRヤリスは活躍の場をラリーやダートのみならず、ジムカーナやスーパー耐久にも広げるなど、モータースポーツ全般にリーチするトヨタきってのスポーツモデルとして、今も成長を続けている。また、チューニングの素材としても成熟しつつあり、指標となる筑波サーキットのレコードは8段AT車でも1分切りと、もはやBセグメントの範疇にはない。今後、かつてのCT系ランエボやGC系インプのように魔改造を受けながら化け続けていく可能性も高そうだ。
思えば、トヨタがこれほど高い実戦力を持つクルマを継続的に販売し続けた例は、過去にない。それこそ、そういうのは三菱やスバル、あるいは日産やホンダのお仕事だった。言わずもがな、トップの熱の入りようが奏功してのことだが、前述のモータースポーツやチューニングの話も相まって、近ごろはユーザー側からみても、このクルマに託すものがちょっと変わりつつある気がしなくもない。
それこそ、1990年代には選ぶに悩むほどあった、手が届きそうなガチマジのスポーツギアという役割は、見渡せば唯一、このクルマが担うのみである。特に乗り出し400万円以内にして純正オプションも整う「RC」グレードの存在は、もはやそんなものを期待しようもない欧米の好事家にとっては七不思議のひとつだろう。
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まさかステアリングホイールを変えるとは
そんなGRヤリスは2026年も進化を遂げた。振り返れば、2024年型ではスポット増しや構造接着剤の塗布長拡大でボディー剛性を高めたほか、ECUチューニングでエンジン出力を32PS上乗せし、ダッシュボードの形状も変更するなど大掛かりな改良が施された。さらに2025年型では、フランジ厚を上げてリブを追加したボルトを足まわりに採用し、締結剛性を向上。併せてダンパーや電動パワーステアリング(EPS)のセッティングを変更している。
そして2026年型は、急減速~高負荷旋回時といったモータースポーツ領域での操舵応答性を高めるべく、EPSに備わるトルクセンサー内のトーションバーの剛性を変更。ソフトウエアの合わせ込みも行ったほか、最上位グレードの「RZ“ハイパフォーマンス”」には、ブリヂストンの専用開発タイヤ「ポテンザ レース」が装着される。
ひと目で分かる変化がステアリングホイールだ。今までは、標準車のヤリスなどと同じスイッチ類を配するステアリングを用いていたが、競技レベルの操作状況では手のひらがボタンを押し込んでしまい、メーター表示が変わってしまうことがドライバーから指摘されていたという。これは2024年型からメーターパネルが液晶化され、表示内容の詳密化かつコンフィギュレーションが可能となったことによる弊害ともいえるかもしれない。
どうせコースを走るような本気組はみんなステアリングも換えるわけだし、そこまで面倒見なくてもいいんじゃないの? と思わなくもないが、そんな妥協すらも許すまじということだろうか。わざわざ専用形状のステアリングがモデルライフの途中で与えられるなんてことは、並のトヨタ車では考えられない。GR銘柄の別腹ぶりをみせられているかのようだ。
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このステアリングは当代随一の出来栄え
新しいステアリングは、操作スイッチ類をホーンパッドの側に寄せて取り囲むように配置。透過照明によって夜間視認性にも配慮されている。T字のスポーク部はサムレストを廃して幅広&土手高に整形し、スイッチの誤動作を防ぐとともに、手のひらや親指の腹でもじわりと入力しやすい形状とした。スポークはやや細身となり、わずかに三角断面的な形状になっている。この辺りも、開発を務めるレーシングドライバーと吟味を重ね、粘土型を盛ったり削ったりしながらディテールを詰めていったそうだ。結果、全体径はこれまでより5mm小さい360mmに収まった。加えて8段ATのモデルでは、パドル長を20mm伸ばして転舵時の操作性を高めている。
ステアリングの握り感というのは、つくり手の意図と乗り手の好みが合致するか否かで、評価が大きく変わる。それゆえ多分に個人的な尺度での話となるのだが、GRヤリスの新しいそれは、現在売られている数多のスポーツモデルのなかでもトップクラスの扱いやすさに仕上がっていると思う。スポークの土手や断面形状は微細な操作に繊細に応答してくれるし、指先や手のひらへの食いつきもちょうどいい。亀甲形状のステッチの縫込みも滑り感が気づかわれていて、細身の真円スポークのよさを引き立てている。マクラーレンのように操作ボタンを廃すれば、イナーシャも減ってさらにいい摺動(しゅうどう)感になりそうだが、さすがにそれは難しいだろう。同様に表皮の割線も減らしたいところだが、コストが合わないのは目に見えている。
サーキットに行かずとも心に響く
ステアリングがよくなるとクルマもよくなった気にさせられる……というわけでもないが、試乗車のRZ“ハイパフォーマンス”は、2025年夏に乗って感心させられた従来型(参照)にも増して、平時の乗り心地が洗練されていた。先述のとおり、タイヤはミシュランの「パイロットスポーツ4 S」からブリヂストンのポテンザ レースに変わり、タイヤのケース剛性や横剛性は、よりスポーティーな方向に振られたはずだ。それは、操舵応答のカチッとした精緻さにも表れていた。いかにもなトレッド面がパターンによる倒れ込みを抑えていることも、想像に難くない。
が、この硬めな縦バネ感がダンパーの減衰特性ともうまくマッチしているのだろう。タウンスピードでの凹凸や些細な段差の乗り越えでは“いなし”がしっかり効いている。高速巡航も基本は至ってフラットだが、凹凸が大きくなってくると、さすがにアシそのものの硬さを感じなくもない。でもタイヤが離れるほどに突き上げられることはないし、その後の上屋の収まりも穏やかだ。動きがちゃんと読めるという振る舞いのソツのなさは、やはり年次ごとに積み上げてきた熟成の重みを感じさせる。
いくら車体は小さく重量が軽くとも、このパフォーマンスを全部引き出そうと思えばサーキットに行くしかない。そういうものと分かっていながらも、ゆるゆる走らせて沁みるものがあるのは、やはり動くことに関して徹底的に手を尽くされたクルマにしか宿らない質感があるからだろう。
思えばGRヤリスは、動的質感について2020年の初出時(参照)からただならぬものをもっていた。これマジでトヨタのクルマすか? とちょっと驚くほどに。その魅力が古ぼけていくどころか、経年とともにしっかり積み増されているのだからいよいよ驚くほかない。こんなクルマは真面目に今までのトヨタでは考えられなかった。そういえば2025年型の試乗記もこんなオチで収まったのだが、RZ系もさておきシンプルグレードのRCは、モータースポーツやチューニングのニーズだけでなく、コンフィギュレーターを掘れば掘るほど、ときどきスポーツ走行を嗜むようなクルマ好きにとっても、とんでもないバーゲンプライスではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース:2560mm
車重:1310kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y XL/(後)225/40R18 92Y XL(ブリヂストン・ポテンザ レース)
燃費:10.8km/リッター(WLTCモード)
価格:588万2200円/テスト車=652万1300円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッドII>(5万5000円)/クーリングパッケージ<サブラジエーター+コールドエアインテークダクト>(11万円)/ナビパッケージ<ディスプレイオーディオ(コネクティッドナビ対応)Plus[ナビ:コネクティッドナビ対応≪車載ナビ有≫+FM多重VICS]/オーディオ・ビジュアル:8インチHDディスプレイ+AM/FMチューナー[ワイドFM対応]+TV[フルセグ]+USB入力[動画・音楽再生/給電≪TYPE-C≫]/スマートフォン連携:Apple CarPlay対応、Android Auto対応、Miracast対応/T-Connect:マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティングなど/その他:Bluetooth対応[ハンズフリー/オーディオ]+ドライブレコーダー[前方+簡易後方録画]+ステアリングヒーター+シートヒーター[運転席+助手席]+ナノイーX+JBLプレミアムサウンドシステム[8スピーカー]+ETC2.0ユニット[VICS機能付き+光ビーコンユニット付き]>(24万3100円)/デジタルキー(3万3000円)/カーボンルーフ<マーブル柄>(16万5000円) ※以下、販売店オプション GRフロアマット<アドバンスド>(3万3000円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1050km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:319.9km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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