BMW 120オリジナル(FF/7AT)
原点を身近に 2026.08.25 試乗記 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。廉価版ではない
BMWの新世代モデル「iX3」がいよいよ登場した。「ノイエクラッセ」として開発された第1弾モデルであり、ブランドの将来を担う電気自動車(BEV)である。単なる既存モデルのBEV版ではなく、新しいBEV専用プラットフォームや第6世代バッテリー、新デザイン言語、一新されたインターフェイスを採用している。
ノイエクラッセの展開に期待は高まっており、BMWの今後に注目が集まるなかで行われた試乗会に参加した。会場に用意されていたのは、1シリーズと「X1」「X3」の3車種。なんだ旧世代モデルか、とがっかりするのは待ってほしい。これは別の意味でBMWの現在を象徴するモデルなのだ。
いずれも新たに設定されたオリジナルというグレードで、「装備内容を厳選」「魅力的な価格を実現」と説明されている。つまり廉価版ということか、と早とちりするのは待ってほしい。確かに従来モデルより価格は安くなっている。そこに目がいってしまうのは致し方ないが、この新グレードからはBMWの戦略が透けて見える。オリジナルという名称には、深い意味が込められているのだ。
メルセデス・ベンツは1年ほど前に「Aクラス」「GLA」などに「アーバンスターズ」という新グレードを設定した。人気オプションを標準化しながら価格を抑えたラインナップである。「都会の星」の名が表すとおり、装備が充実して上質な内外装を持つお得なモデルだ。似たようなマーケット戦略のようだが、BMWは異なるアプローチをとった。オリジナルというグレード名を選んだのは、origin=オリジンが「原点」の意味を持つからだ。BMWの原点に戻り、本質を凝縮して提供したいという意図である。
4つのポイントを重視
BMWの原点といえば、もちろん「駆けぬける歓び」ということになる。それに「BMWらしいデザイン」「最新のデジタル体験」「安心と安全(先進運転支援システム)」を加えた4つのポイントを重視して装備を選んだわけだ。だから、引き算ではなく、装備の最適化だと主張する。クルマにはほかに「実用性」「快適性」「経済性」という要素もあるが、相対的に優先順位が低いと判断された。クルマを「生活を便利にする道具」というより、「BMWという体験を提供するプロダクト」と定義する姿勢を明確にしたということだろう。
新グレードの意味が最も分かりやすいのが120オリジナルだ。1シリーズは初代が2004年に登場したBMWとして初のCセグメントハッチバックである。「3シリーズ」よりも下の価格帯でエントリーモデルという位置づけだったが、単なる廉価版にはしていない。FRレイアウトで50:50の前後重量配分を実現し、コンパクトながらもBMWらしいハンドリングを守った。
現在では駆動方式がFFに変更されているが、走りのよさは高く評価されている。従来の「120」から外された装備は、「タイヤリペアキット」「電動シート」「シートヒーター」「電動テールゲート」「スルーローディングシステム」の5つ。確かにどれも4つのポイントとは関係しない装備だ。価格はマイナス20万円の480万円。微妙な価格差にも思えるが、500万円の壁を破ることが心理的ハードルを下げるらしい。
今回は試乗できなかったが、「2シリーズ アクティブツアラー」にもオリジナルが設定されている。こちらはマイナス45万円の498万円。ルーフレールやウィンドウモールが省かれたりしているものの、かなり魅力的な価格だ。
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新鮮な「素のモデル」
120オリジナルに対面すると、新鮮な驚きがあった。BMWに限らず、メディア向けの試乗車として提供されるのは、通常は最上級グレードである。しかも、豊富なオプションが付けられていることが多い。メーカー/インポーターとしては最もいい状態のクルマに乗ってほしいと考えるのは当然だ。上質なシートに高級オーディオなどが装備されていれば、満足度は高くなる。ただ、そのクルマ自体の魅力とオプションによる付加価値が混ざって区別しにくくなることも否定しがたい。
だから、いわゆる「素のモデル」に乗るのは得がたい機会なのだ。シートはファブリックで、ブラックとグレーの地味な色合いだ。座り心地は上々で何の問題もない。最近ではエコの観点から動物由来のレザーを忌避するケースも多くなっていて、高級車でもファブリックシートの選択肢を用意することが増えてきた。ポジション調整は手動で、これも特に困らないし、電動よりスピーディーなのを好む人もいると聞く。
ホイールは17インチの一択。18インチや19インチは選べない。大径ホイールのほうが見栄えがいいというのが常識になっているが、落ち着いたたたずまいにはむしろ好感がもてた。そもそも205/55のタイヤは、一昔前なら十分にスポーティーとされていたサイズである。
軽快な走りは変わらない
新型車の試乗会で異なるホイールサイズの異なる同じモデルを乗り比べることがあり、小さなホイールのほうに好印象を抱くことは珍しくない。上級グレードに大径ホイールが装備されるのが常なのだが、それは習慣のようなものだ。荒れた舗装路や目地段差を通る時には、厚めのサイドウォールで緩和してくれるのがありがたい。インチアップでハンドリングがシャープになるとはいっても、日常のドライブで必要と感じることはあまりないだろう。
試乗は都心部で行われたので、ワインディングロードを走ることはできなかった。市街路や首都高速で120オリジナルは軽快な走りを見せ、不満は一切感じない。エンジンやトランスミッションはもちろん従来モデルと同じであり、48Vマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。先進運転支援システムも最新だ。120はコンパクトなボディーに必要十分なパワートレインが組み合わされていて、実用性と運転の楽しさのバランスが絶妙だ。その美点は変わらないから、BMWに乗っているという充足感は損なわれない。
クルマというのは単なる実用の乗り物ではなく、ファッションの要素もあればステータスを見せる役割も担う。しかし、BMWを愛好するクルマ好きは、やはり走りにこそ価値を見いだすはずだ。480万円がとんでもなく安いとは言いにくいが、120オリジナルがBMWらしさを感じるための一番身近なモデルであることは間違いない。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 120オリジナル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:156PS(115kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1500-4400rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)
システム最高出力:170PS(125kW)
システム最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)
タイヤ:(前)205/55R17 95Y XL/(後)205/55R17 95Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック6)
燃費:16.8km/リッター(WLTCモード)
価格:480万円/テスト車:480万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:423km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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