ポルシェ・カイエン(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
ポルシェ・カイエン(4WD/6AT) 2007.07.04 試乗記 ……751.0万円総合評価……★★★★
ポルシェのSUV「カイエン」。エンジンをパワーアップするとともに、デザインが変更された。3.6リッターに拡大されたベーシックなV6モデルに試乗した。
ポルシェの人気モデル
「ポルシェがSUV?」
という賛否両論のなかデビューしたカイエンは、フタを開けてみればポルシェの販売台数の1/3近くを占める人気車になった。しかもこれ、プレミアム性を維持すべく、生産台数を意図的に抑えた結果の数字だという。売ろうと思えばもっと売れたというわけだ。
このままでもしばらくは安泰だろう。でもポルシェはカイエンをモデルチェンジした。このあたりの状況はミニを思わせるが、新型のベーシックグレードを旧型と乗り比べてみたら、あらゆる面で進化を実感した。簡単にいえば、よりポルシェらしく、よりプレミアムSUVらしくなった。
排気量拡大と直噴化を実施したV6エンジンは、余裕だけでなく快音も手に入れた。乗り心地とハンドリングは、ノーマルのままでもレベルアップしていたが、オプションで用意される新開発の電子制御アクティブスタビライザーは、SUVの新境地を切り開いたといいたくなる走りを実現していた。
薄くシャープなヘッドランプと左右に広がったグリルからなる顔つきは、旧型に比べるとポルシェらしくないかもしれない。でも走り出せば、新型カイエンはまぎれもないポルシェになっていた。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
スポーツカー専業メーカーだったポルシェが、フォルクスワーゲンと共同で開発したポルシェ初のSUV。2002年のパリサロンで発表され、日本では同年12月に導入。4.5リッターV8ターボエンジン(450ps)搭載の「カイエンターボ」と、同NAエンジン(340ps)の「カイエンS」をラインナップ。
2003年9月、3.2リッターV6エンジンを搭載したエントリーモデル「カイエン」を追加。加えて、カイエンとカイエンSに受注生産ながら6段MT仕様(坂道発進アシスト機能付)を設定した。
2006年1月には、「カイエンターボ」をスペシャルチューンした、「カイエンターボS」(521ps、73.4kgm)が30台限定で発売された。
2006年12月にモデルチェンジが実施され2代目へ。排気量の拡大にともなって出力が大幅に向上し、外観も手直しされた。オプションとして新設定されたのは、「ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロールシステム(PDCC)ロールスタビライザーシステム」。あらゆる走行状況においてボディのロールを抑え、安定した姿勢を保つ機能だ。
さらにカイエン全モデルに標準装備される「ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム(PSM)」には、ブレーキシステムの反応速度を速める「ブレーキアシスト機能」、牽引中の車両の挙動に悪影響を及ぼすヨーイングを大幅に抑えるという新「トレーラースタビリゼーションシステム」、低μ路での制動力を最適化する「オフロードABS」が組み合わされる。
(グレード概要)
テスト車は、V6エンジンを搭載するベーシックな「カイエン」。マイナーチェンジで、3.2リッターから3.6リッターに排気量を拡大、パワーは40ps、トルクは7.7kgmアップし、290ps、39.3kgmとなった。これにより、0-100km/h加速は先代の9.1秒から8.1秒に短縮、最高速度も214km/hから227km/hとなった。
その他のラインナップ、V8エンジン搭載の「カイエンS」は、4.5リッターを4.8リッター(385ps、51.0kgm)とし、直噴技術と可変バルブタイミング&リフト機構「バリオカム・プラス」を採用。そして「カイエンターボ」のV8ツインターボはプラス50psの500ps、8.2kgm増しの71.4kgmを発生し、0-100km/hを5.1秒で駆け抜け、最高速は275km/hに達する。
【車内と荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インパネは旧型との違いはほとんどない。仕立ては最近のプレミアムSUVのなかではシンプルだが、クオリティは高く、ポルシェらしいクールな雰囲気にあふれる。これで700万円を切るのだからお買い得だ。ただしノーマルではエアコンがマニュアル式というのはどうか。8万円高なら標準装備にしていいように思える。
新型になって追加されたアイテムとして注目なのは、助手席側の死角部分を確認する装備。カイエンは無骨なミラーではなくカメラとモニターを使用し、画像はルームミラー左端に映し出される。社外品のカーナビにこのような製品があるが、グッドアイディアだと思う。
(前席)……★★★★
日本仕様はすべて12ウェイのパワーレザーシートを標準装備する。こういう部分でグレードごとの差をつけないのは好ましい。旧型と比べると座面のサポート感がタイトになって、イタリア車のような着座感。背もたれはそれに比べるとルーズな形状だが、これはドイツ車にはよくあるパターンだ。ちなみに911は逆で、座面がルーズ、背もたれがタイト。スポーツカーとSUVでは求められる性能が違うとポルシェは考えているのかもしれない。
(後席)……★★★★
スライドやリクライニングはしないが、身長170cmの自分が前後に座ったとき、ひざの前には約15cmの空間が残り、頭上にも余裕がある。座面、背もたれとも角度は適切。座面は前席同様、腰のサポートがタイトで、横滑りを抑えてくれそう。背もたれはカチッとした張りがあって心地よく、高さも不足はない。ファミリーユースにも対応できる空間だ。仕上げは上質だが、ゆえにガラガラ引き出す方式のカップホルダーは画竜点睛を欠く。
(荷室)……★★★★
他の空間同様、ここも仕立ての上質感が目に付く。巻き取り式トノカバーより下はすべてカーペット張りで、フロアのリッドはパチッと閉まり、4個のフックはスプリングでフラットに戻るなど、精緻な作りはポルシェならでは。奥行きはオーバーハングが短いのでほどほどだが、フロアはそれほど高くはなく、左右はタイヤ幅以上の出っ張りがないので使いやすそうだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
排気量を3.2リッターから3.6リッターに拡大し、ダイレクトインジェクションを導入したV6エンジンは、低中回転域のトルクが明らかに太くなった。旧型と乗り比べると、追い越し加速のキックダウンが2段から1段になり、ゆるい上りならそのままスルスル速度を上げていけるようになった、などの違いがある。
しかも回転フィールはなめらかになり、サウンドは雑音がカットされ、911やケイマンに近い快音を奏でるようになった。新しいカイエンはターボの強烈な加速以外にもポルシェらしさが味わえるというわけだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
V6エンジンを積むカイエンの乗り心地は、旧型でもそんなに硬くはなかったが、新型ではしっとり感が加わった。鋭い段差はそれなりに伝えるが、総体的に快適になった。
一方でステアリングは剛性感、正確性が増し、操舵に対してスッとノーズがインを向くようになった。その後は文字どおり、切ったとおりに進む。4WDシャシーは500ps/71.4kgmのターボと基本的に同じなのだから当然だ。試乗時は豪雨に見舞われたが、こういう状況での安心感は絶大だった。
新開発の電子制御アクティブスタビライザーPDCC(ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロールシステム)は、カイエンにはエアサスペンション、電子制御ダンパーPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)とともにオプションとなる。
このシステムはターボで試したが、旧型ではガチガチだった乗り心地はまろやかといいたくなるレベルに仕立てつつ、コーナーではロールをほぼ皆無に抑えて曲がってしまう、マジカルなシステムだった。
ただしオプション価格は合わせて109万円。新型カイエンの購入を考えている人は、体験しないほうがいいかもしれない!?
(写真=ポルシェ・ジャパン)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2007年5月17日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:--km
タイヤ:(前)235/65R17(後)同じ
オプション装備:メタリックペイント(15.0万円)/フルオートエアコンディショナー(8.0万円)/バイキセノンヘッドランプ(27.0万円)/フロントシートヒーター・ステアリングシートヒーター(9.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:--
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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