ポルシェ・カイエン ターボGT(4WD/8AT)
圧巻のパフォーマンス 2022.06.28 試乗記 ニュルブルクリンクの北コースで、SUV最速タイムをたたき出した「ポルシェ・カイエン ターボGT」が上陸。専用チューンが施されたシャシーやブレーキ、そして最高出力640PSを誇る4リッターV8ツインターボが織りなす走りは、まさに別格だった。カイエンの頂点に君臨
ハイパフォーマンスSUVの元祖ともいえるポルシェ・カイエンだが、いまではライバルも多い。身内の「アウディRS Q8」や「ランボルギーニ・ウルス」、あるいは「BMW X5 M」など強烈なホットモデルが市場には顔をそろえている。
そこに決定版とばかりに登場したのがカイエン ターボGTだ。4リッターV8ツインターボは「カイエン ターボ」「カイエン ターボ クーペ」比で最高出力が90PS増の640PS、最大トルクが80N・m増の850N・mとなり、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)で7分38秒9のSUV最速タイムをたたき出した。
名実ともに、純エンジン搭載SUVにおける最強の座を獲得したのだ。ポルシェのなかで特別な響きがある「GT」という名を冠したのだからサーキットで輝くのは当然だが、ポルシェによれば日常の使いやすさも兼ね備えているのだという。
車名はカイエン ターボGTだが、ボディーはクーペ。フロントエンドではサイドエアインテークが大型化され、リップスポイラーを装備。冷却性能とエアロダイナミクスを向上させている。ルーフスポイラーにはカーボン製のサイドプレートが装備され、アダプティブリアスポイラーはカイエン ターボ クーペよりも25mm大きく、最高速度域ではダウンフォースが最大40kg増加する。
カイエン ターボ クーペに比べると車高は最大17mm低く設定され、3チャンバーエアサスペンションは最大15%剛性が向上。PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメントシステム)のダンパー特性を最適化し、PDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロールシステム)のアクティブ制御ロール安定化システムは、パフォーマンス指向で再設定されたという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モードによってキャラ変
タイヤはカイエン ターボよりも1インチ大きい22インチサイズで、専用開発の「ピレリPゼロ コルサ」を装着。「サテン ネオジム」塗装の専用ホイールはリム幅を広げてトレッド拡大を図り、フロントはネガティブキャンバーを0.45度増やしている。PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)も標準装備。ポルシェの最新のシャシーテクノロジーがふんだんに盛り込まれた内容だ。
インテリアはブラック基調でカーボントリムがサーキットを意識させる。ゴールドのステッチやサテン ネオジムのシートベルトなどのアクセントがしゃれている。シートの中央部分やステアリングシフトセレクターなどにアルカンターラが採用されていて触感もいい。
ある程度は硬い乗り心地を覚悟して街なかを走り始めたが、さすがはエアサスペンション、ドライビングモードを「Normal」にしておけば思いのほかスムーズで拍子抜けするほど快適だ。試しに「Sport」に切り替えてみると途端に硬さが増して、ボディーが上下に揺すられるようになった。モードによってはっきりとした差があるようだ。
フロントが285、リアが315の幅がある22インチタイヤだからロードノイズはちょっと大きめだが、耳につきやすい高周波ノイズは抑えられているのでさほど気にならない。バネ下の重さを感じるようなことがまったくないのはPCCBが軽量だからだろう。街なかや郊外路を普通に走らせるだけならば、それほど過激なイメージは受けない。
エンジンは2000rpmも回せば十分だから静かなものだし、PDKではなくトルクコンバーター式8段ATの「ティプトロニックS」だから、ギクシャクすることなど皆無でマナーがいい。近所に買い物に行くだけなら至って平和だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ブレーキに絶大な信頼感
高速道路に乗り入れるために右足に軽く力を込めるとグワッとトルクが盛り上がり、あっという間に法定速度に達してしまった。感覚的には2割ぐらいしかアクセルをあけていないのだが、すでにどう猛さを見せつけてくる。その際、エンジン回転数は3000rpm程度までしか上がらなかったが、2300~4500rpmの範囲で850N・mを発生するのだからそれぐらいの回転域でも十二分に速いのだ。
高速道路の巡航ではほどよく風切り音が混じってロードノイズが気にならなくなった。エンジン音も合わせて全体的には、ハイパフォーマンスカーのわりに静かといえる部類。道路の継ぎ目など大きな入力も意外なほどスムーズにいなし、不快さはまったくない。基本的には硬質で引き締まっているが、しかるべき柔軟性もあって突き上げ感を出さないようにしつけられているうえに、ダンピングが適切でフラットライドなので体が揺さぶられることがないのだ。これならロングドライブでも快適だろう。
ワインディングロードでは少しだけ非日常の世界に足を踏み入れてみた。3000rpmでもどう猛な雰囲気があったエンジンは、4000rpmから上が本当においしい領域。回転上昇の勢いが増して6800rpmのリミットまであきれるほどシャープに吹け上がっていくのだ。
90PS増とはいっても600PS級だから15%程度にすぎず、きっちり比較試乗でもしないと違いがわからないかもしれないと想像していたが、記憶にあるカイエン ターボよりも確実に速く感じる。チタン製のエキゾーストシステムが奏でる刺激的なサウンドも加わって、気分を盛り上げてくれる。
0-100km/h加速3.3秒という圧倒的な加速性能をちゅうちょなく引き出せるのは、ブレーキに絶大な信頼感があるから。ブレーキペダルの踏み応えは、かっちりとした剛性を感じさせながら、短いストロークのなかで絶妙なコントロール性を有している。姿勢を整えるためのほんのわずかなブレーキングからフルブレーキまで自由自在。ABSの制御はきめ細かく、作動と非作動の境目が手に取るようにわかる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ポルシェファンを楽しませるキャラクター
試乗した日はドライとウエットの入り交じった路面だったが、どこでも最大の減速Gを引き出す自信が持てた。リアブレーキもしっかりと利いている感触があってあまりノーズダイブせず、きれいな姿勢で減速していくのもいい。ブレーキだけでもほれてしまうほどだ。
コーナーに向けてステアリングを切り込んでいくと、見事にリニアな感覚でノーズがインへ向いていった。あくまで公道の領域だが、この世にアンダーステアなんて存在しないといわんばかりにスルスルと向きを変えていく。
フロントのメカニカルグリップを増大させたことと、リアステアが効いているのだろう。ステアリングは適度な重さで路面の状況を刻々と伝えてくる。コーナリング中に大きなギャップがあったときの足さばきも、ドライビングモードが「Normal」ならば良好だ。「Sport」にするとちょっと上下動が大きくなるので今回の状況では乗りにくく感じた。もっとハイスピードで路面がいいサーキットでベストマッチするモードなのだろう。
SUVの頂点に君臨するハイパフォーマンスは、その片りんをのぞいた程度だが、アクセルを踏み込むほどにどう猛になっていくさまは圧巻。精緻なエンジニアリングによって一体感の高さも見事なので、公道でも操る楽しさを見いだせるだろう。
それでいて音や振動、乗り心地などにも配慮されていて、日常の使いやすさを兼ね備えているといううたい文句は本当だった。さらに、前後で異なるタイヤサイズとして、軽やかな操舵感とトラクションの高さを強調。ブレーキング時の荷重変化に対応する理想的な姿勢など、どことなく「911」をほうふつさせる乗り味がうれしい。ポルシェファンを楽しませるために走りのキャラクターがつくり込まれているのだ。
(文=石井昌道/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・カイエン ターボGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4939×1989×1653mm
ホイールベース:2895mm
車重:2275kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:640PS(471kW)/6000rpm
最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2300-4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR22 106Y/(後)315/30ZR22 107Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:14.1-14.1リッター/100km(約7.0-7.0km/リッター、WLTCモード)
価格:2851万円/テスト車=3110万9000円
オプション装備:ボディーカラー<アークティックグレー>(39万6000円)/GTインテリアパッケージ<コントラストステッチ ネオジム>(0円)/イオナイザー(4万8000円)/アルミルック燃料キャップ(2万2000円)/チャイルドシートISOFIX<助手席>(3万円)/リアシート用サイドエアバッグ(6万9000円)/ティンテッドLEDマトリックスヘッドライト<PDLS Plusを含む>(7万9000円)/インストゥルメントパネル<ダイヤル ネオジム>(5万8000円)/ティンテッドLEDテールライト<ライトストリップ含む>(13万9000円)/4ゾーンクライメートコントロール(13万7000円)/スモーカーパッケージ(9000円)/ブルメスターハイエンド3Dサラウンドサウンドシステム(76万4000円)/ソフトクローズドア(11万7000円)/ヘッドアップディスプレイ(24万4000円)/リモートパークアシスト(22万9000円)/アンビエントライト(6万8000円)/PORSCHEロゴLEDカーテシ―ライト(4万8000円)/スポーツクロノウオッチダイヤルネオジム(5万8000円)/プライバシーガラス(8万4000円)/22インチGTデザインホイール<サテン ネオジム塗装仕上げ>(0円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2278km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:329.6km
使用燃料:51.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.0km/リッター(車載燃費計計測値)

石井 昌道
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
NEW
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
NEW
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。 -
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。


















































