メルセデス・ベンツE550アバンギャルドS(FR/7AT)【試乗記】
自由を手にするために 2007.01.15 試乗記 メルセデス・ベンツE550アバンギャルドS(FR/7AT)……1035万3000円
マイナーチェンジを受けた「メルセデス・ベンツEクラス」の中で、AMGモデルを除けば最高峰に位置するのが「E550」。5.5リッターV8を与えられたスポーツモデルに試乗した。
いわゆる「全部のせ」
メルセデス・ベンツのアッパーミドルセダン/ワゴンである「Eクラス」は、マイナーチェンジでエンジンラインナップに変更があった。話題のディーゼルエンジンまで選べるという、多彩な選択肢が用意されている。当然ながら価格差も大きく、「E300」が672万円と“お買い得”グレードとなっているのに対し、E550は1035万3000円というプライスタグがつく。Eクラスとしては(AMGを除き)、初めての1000万円超モデルということになった。
従来はE500と呼ばれていたが、エンジンの変更にともなって名称も変えられた。「E280」はE300に変わったにもかかわらずエンジンは同じであるから、いつもながら少々わかりにくい。ともあれ、E550に搭載されるのはSクラスにも採用されている(こちらはS500という名称である)5.5リッターDOHCV8エンジンである。従来の5リッターSOHCに比べると、最高出力で81psの向上を果たしている。トランスミッションは一気に2段増えた7G-TRONICが与えられている。スペックから見ると、プレミアムセダンのライバルたちに対して、大きなアドバンテージを得たといっていいだろう。
E550に用意される仕様は、「アバンギャルドS」のみ。スポーティで豪華なグレードである。AMGデザインの18インチアルミホイールを履き、フロント/リアにスポイラーを備え、スポーツステアリングホイールにはパドルシフトが装着されている。ホワイトステッチ入りの本革シート、前後左右独立調整のクライメートコントロール、harman/kardonサウンドシステムなど、豪華装備の充実ぶりも目覚ましい。いわゆる「全部のせ」状態のモデルなのだ。
メルセデス・ベンツの見識
少し前に新しい「S600L」に乗っていたのだが、このE550に乗り込んでみての印象はさほど遜色がないというものだった。2002年のデビューの時にはインテリアの質感の高さに驚かされたものだが、久々に目の当たりにするとやはり作りのよさに感心する。S600Lの約半額、とはいっても1000万円超なのだから、当然ともいえるのだが。
ただ、やはりEクラスであるから過剰な飾りっけはなく、運転席に収まると実直な気分に満たされる。アバンギャルドというのはスポーティなグレードなのだが、メルセデスはあからさまなスポーツモデル臭を振りまいたりはしない。スポーツシートもホールド性はよさそうなのだが、体がかっちりと押さえ込まれる感じはしない。ダブルのホワイトステッチは過度のスポーティ感を表現してはおらず、あくまでアクセント程度。節度をわきまえているのが、いつもながらメルセデス・ベンツの見識である。
しかし、フロントノーズに収まるパワーソースは、とてもじゃないがほどほどなどというものではない。5.5リッターV8エンジンは最大トルクこそ話題のディーゼルエンジン搭載車の「E320CDI」の55.1kgmにわずかに届かないものの、最高出力は当然ながらはるかに高い値で387psを誇っている。高回転まで回してパワーをもりもりと高めていく気持ちのよさは、どうしたってガソリンエンジンのほうが上だ。
望んだ通りの加速と軌跡
7段ATの7G-TRONICが、エンジンのもたらす快感をさらに高めてくれる。出来のよさに感嘆するというより、その存在を忘却してしまうのだ。低速走行ではスムーズにボディを滑らせるように振る舞い、加速時には変速を意識させないままどこまでもスピードを増していくかのように思わせる。ワインディングロードの下りで、初めてその存在意義を明確に示す。ギア選択は憎らしいほど正確で、コーナー進入前に適切なシフトダウンを行うのだ。せっかくのパドルシフトも、ほとんど使うべき場面がない。
AIRマチックDCサスペンションのもたらす乗り心地も、このクルマの大きな美点である。正直言って、ABC(アクティブ・ボディ・コントロール)が制御するS600Lよりも、好ましいと感じた。コンフォートモードを選んでおけば、多少の路面の凹凸などやり過ごして、快適なドライブを楽しめる。それでいてハンドリングがダルになるようなことはないのだから、よほど気合いを入れて走るとき以外はスポーツモードを選ぶ必要は感じられなかった。
街中や高速道路でE550を走らせていると、自由であるという気分が身体に充満してくる。望んだ通りの加速と軌跡が得られ、意思とクルマの動きの間にクッションがないのだ。クルマがどんな動きを示すかに、常に確信を持てる。ある意味それはクルマが消失してしまうような感覚でもあるのだが、それがこのクルマの目指すところであるのだろう。自由の感覚は、圧倒的な力を背景としなければ生じることはない。軽やかな洗練でとてつもない力を包み込んだクルマが、E550なのである。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=峰昌宏/2007年1月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】 2026.8.15 英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
NEW
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】
2026.8.19試乗記マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。 -
NEW
第125回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(後編) ―古豪復活と新勢力の出現で進むミニバンデザインの多様化―
2026.8.19カーデザイン曼荼羅帰ってきたキング・オブ・ミニバンこと新型「日産エルグランド」に、メルセデス・ベンツが世に問うた乗用MPVの「VLE」。古豪の復活とニューモデルの登場で、高級ミニバンのトレンドはどう変わるのか? オラオラ系が幅を利かすミニバンデザインの未来を考えた。 -
NEW
新型「キックス」がスマッシュヒットの日産 次なる一手のコンパクトミニバンとはどんなクルマか?
2026.8.19デイリーコラム新型「キックス」が好評の日産が、次はコンパクトミニバンの発売をプランしているという。日産の国内ラインナップには(なぜか)なかったジャンルのモデルだが、果たしてどんなクルマになるのだろうか。「シエンタ」「フリード」といった強力なライバルに、どのような武器を手に挑むのだろうか。 -
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】
2026.8.18試乗記クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
「シフトパドル」に代わる、より優れたCVTやATの変速デバイスはありうるか?
2026.8.18あの多田哲哉のクルマQ&AAT車の手動変速装置は今、パドルタイプのものが主流になっている。今後、これに代わる変速デバイスは登場するのだろうか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんが「変速と運転の今後」について語る。 -
第342回:どうしてこんなに高いんですか
2026.8.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?






























