メルセデス・ベンツE550アバンギャルドS(FR/7AT)/E350ステーションワゴン アバンギャルドS(FR/7AT)【試乗記】
期待に応える実力派 2006.09.26 試乗記 メルセデス・ベンツE550アバンギャルドS(FR/7AT)/E350ステーションワゴン アバンギャルドS(FR/7AT) ……1035万3000円/909万3000円 ディーゼル車を導入したことで注目されるメルセデス・ベンツ「Eクラス」。外装デザインや足回り、ラインナップが変更された新型のセダン、ワゴンモデルに試乗。それぞれの印象を報告する。![]() |
![]() |
見た目はあまり変わらず
日本では、久々のディーゼル車投入に関心が集まるEクラスのマイナーチェンジだが、当然それ以外にも見逃せない部分は多い。
まず、エンジンラインナップが一部変わり、従来からの3リッターV6DOHC(グレード名はE300に変更)、3.5リッターV6DOHCに加えて、すでにSクラスに採用される5.5リッターV8DOHCと、AMG製の6.2リッターV8、そして、3リッターV6ディーゼルの5つが用意されることになった。トランスミッションは、E350のフルタイム4WDモデル「E350 4MATIC」に5段AT、それ以外の後輪駆動モデルには7段ATが組み合わされる。
このほか、4段階のテーマで安全性を確保する「PRO-SAFE(プロセーフ)」コンセプトをこのEクラスにも導入し、安全性向上に努めている。
一方、外観は基本的なフォルムは変わらないままで、フロントグリルの先端がやや尖った形状になり、ヘッドランプ上部のターンシグナル部に3本のフィンデザインが施されたのが新型の特徴である。どちらかといえば、外見より中身の進化に重点が置かれた今回のマイナーチェンジ。そのリニューアルしたEクラスから、今回は、E550とE350ステーションワゴンに試乗した。
身構えずに乗れるスポーツモデル
先に乗ったのはE550アバンギャルドS。E63 AMGに次ぐ高級モデルだ。用意される仕様は「アバンギャルドS」のみで、もともとスポーティなアバンギャルドに、日本市場向けにAMGデザインの18インチアルミホイールやフロントスカート/リアスカートを加えたのが特徴。さらに、ホワイトステッチ入りのレザーシートやパドルシフトなどを標準装着している。
そんな、見るからにスポーティなE550だが、走り始めた瞬間、あまりの乗り心地の良さに驚いてしまった。18インチを履くのが信じられないくらい、タイヤの硬さや重さといったものを感じさせないし、路面の荒れも見事にシャットアウトしてしまう。その快適さはスピードを上げても変わらない。場合によってはゆっくりとした周期の上下動が感じられるものの、快適さが損なわれるほどではない。
これを支えているのが、E550に標準の「AIRマチックDCサスペンション」だ。ここまでは、もっとも快適な“コンフォート”モードを選んで走ってきたが、試しに“スポーツ1”に切り替えると上下動を抑えたピシッとした挙動に変わり、コーナーではロールが低減、それでいて一般道の乗り心地はさほど悪化しない。さらに“スポーツ2”にすれば、多少路面の凹凸を伝えてくるようになるが、コーナリングの安定感は格段にアップする。ダイレクト感が増したステアリングとあいまって、クルマとの一体感が味わえる。スポーツモードのお世話になる機会は少ないかもしれないが、コンフォートモードの快適さだけでも、AIRマチックDCサスペンションの価値は十分にあると思う。
5.5リッターV8は、2800rpmから4800rpmの回転域で最大トルクの54.0kgmを発揮するが、それ以下の回転数でも、実に豊かなトルクを絞り出す。しかも、エンジンは極めてスムーズで静粛性は高く、高級サルーンには申し分のない。一方、積極的なドライビングを試みると、おとなしいだけのエンジンでないことはすぐにわかる。フルスロットルをくれてやると、回転計の針が4000rpmあたりからレブリミットに向かう途中で背中が押しつけられるような加速を覚え、それまでのジェントルさが嘘のように思えた。
主力モデルの面目躍如
E550同様、後輪駆動のE350ステーションワゴンもまたアバンギャルドS仕様のみのラインナップで、エクステリア、ホイール、タイヤ、シートなどはE550アバンギャルドS同様の豪華さを誇っている。ただし、AIRマチックDCサスペンションは非装着で、オプションリストにも載っていない。そしてその差は歴然、E550に比べると乗り心地はやや硬めになり、目地段差を越えたときのショックも遮断しきれない。それでも、18インチタイヤを履くにしては十分な快適さを備え、コーナーで落ち着いた挙動を示すのには好感が持てる。ただ、欲をいえば、コンフォート性を重視する人のために、“S”でない仕様か、あるいはAIRマチックDCサスペンション装着車があったらいいと思った。
エンジンはマイナーチェンジ前から用意され、高い評価を受けてきた3.5リッターV6。さすがにE550から乗り換えた直後は、低回転で物足りない感じがしたのだが、もちろん、1850kgにおよぶワゴンボディを動かすには十分な実力で、さらに、その気になってスロットルペダルを踏み込めば、4000rpmあたりから力強く、かつ、一気にレブリミットまで吹け上がる気持ちよさを誇る。
想像以上の快適さとスポーツサルーンにふさわしい速さを兼ね備えたE550。Eクラスに求められるものをバランスよく身につけたE350。いずれも、メルセデスの中核モデルにふさわしい魅力がぎっしりと詰め込まれているという印象だ。そして、あらゆるシーンをそつなくこなす実力は、ドライバーの期待に必ずや応えてくれるに違いない。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2006年9月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
NEW
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
NEW
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。 -
NEW
新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車
2025.10.8画像・写真いよいよ発表された新型「日産リーフ」。そのラインナップより、スタンダードな「B7 X」グレードや、上質でスポーティーな純正カスタマイズモデル「AUTECH」、そして純正アクセサリーを装着した「B7 G」を写真で紹介する。 -
NEW
新型日産リーフB7 G
2025.10.8画像・写真量産BEVのパイオニアこと「日産リーフ」がいよいよフルモデルチェンジ。航続距離702km、150kWの充電出力に対応……と、当代屈指の性能を持つ新型がデビューした。中身も外見もまったく異なる3代目の詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
第87回:激論! IAAモビリティー(後編) ―もうアイデアは尽き果てた? カーデザイン界を覆う閉塞感の正体―
2025.10.8カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。クルマの未来を指し示す祭典のはずなのに、どのクルマも「……なんか見たことある」と感じてしまうのはなぜか? 各車のデザインに漠然と覚えた閉塞(へいそく)感の正体を、有識者とともに考えた。 -
NEW
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる
2025.10.8デイリーコラム「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。