アウディA4アバント 1.8T クワトロ(5AT)【試乗記】
遊び心ある優等生 2002.07.30 試乗記 アウディA4アバント 1.8T クワトロ(5AT) ……474.5万円 アウディの“スポーツプレミアムワゴン”A4アバント。1.8リッターターボエンジンを積む4WDモデル「1.8Tクワトロ」に、webCGの大川悠エグゼクティブディレクターが試乗した。イイ仕事している
きちんとできていてとても良識的で、でも肩が凝るほどでも退屈でもなく、ちょっとスポーティなワゴン。アウディ「A4アバント」の1.8Tクワトロを総括すると、こうなる。自動車専門誌『NAVI』2002年8月号の特集「2002夏の太鼓判」では、3リッターV6を積む4WDモデル「3.0クワトロ」を「優等生:ハナマル」と評価したが、1.8Tの方はもうすこし“遊び心”がある。でも基本的にはドイツ車らしい“しっかり志向”だから、まだ子供が小さな若いオトーサンが、家族を説得するにはピッタリだろう。
アウディのいいところは、乗り込んだ瞬間に「ああ、イイ仕事しているな」と感じさせること。実は生々しい「デニムブルーパールエフェクト」の外装色は、個人的には好きではなかった。しかし運転席に座るといつものアウディと同じ、いかにも上質な室内が迎えてくれて安心した。
これはアウディ特有の見事な演出のおかげだ。デザインのうまさと素材選択の妙味、フィッティングの巧みさによる。「それほどコストをかけず、上質に見せている」と、ある内装専門の会社で聞いたことがある。でもそれはそれでいいと思う。ともかくユーザーに満足感を与えればいいのだから。
アウディ解釈のワゴン
インテリアで目を引くのは、スッキリした気持ちよさのあるダッシュボードのデザインだ。ドイツの家電や家具のようにきちんと筋をとおし、面や線で整然と構成される。ドイツっぽさを強く感じるのは、赤い文字で様々な情報が表示される、メーターに囲まれたインフォメーションパネルだ。それを見ているうちに気温計はもちろん、気圧計、湿度計などまで壁にかかっている、ドイツ人の家を思い出した。彼らは基本的に「計器オタク」なのである。
シートの座り心地は、フォルクスワーゲンのそれと並んで、素晴らしい。大きすぎず、タイトに体を包みこむ。リアシートも同じようなかけ心地で、クッション位置が高くて視界も良好である。だがそれは、あくまでも2人がけの場合。真ん中に座らされた人間は、硬い部分で我慢することになる。後ろは1人か2人で座り、大きなセンターアームレストを引き出してのうのうと過ごすべきだ。
アバントは、アウディにおけるワゴンである。アウディの解釈では、ワゴンは「貨客兼用車」ではなくて「乗用車の一変種」。だから、以前からそれほど荷室は大きくなかった。
今回のモデル、他の記事を読むと「荷室は広い」と書かれている。旧型とのスペック比ではたしかにそうだが、実際に使おうとしたら意外と狭い。ゴルフバッグを2セット積もうと思ったら、それができないのだ。理由は荷室の幅が狭いこと。確かに左右にコンパートメントがあったり、フロア下が整理されているのだが、結果的に幅が狭められた。だからといって、ゴルフバッグを縦に並べられるほど奥行きはないので、結局リアシートを半分畳んだ。普通の乗用車なら、別にそんなことしなくても2バッグぐらい入るはずである。荷室は狭くはないが、入れるものの形状を選ぶ、と表現するほうが適切だ。
軽快な4WD
1.8Tクワトロは、A4の中でもかなり若向けのスポーティ版。だから走りもまた、気持ちのいいものだ。特にターボのラグをあまり感じず、低回転から望むだけ充分なトルクを出してくれるエンジンは、使い勝手がよくて好感が持てる。目一杯回したからといって、特に痛快ではないが、日常領域でスポーティを味わえるのは、やはり楽しいものである。
ただ変速モードがティップしかない5段ATは、ややわずらわしい。個人的にはティップを操作して適宜ギアを選択するより、Sや3ぐらいのポジションがあれば、そちらを選んで入れっぱなしにする。変速ショックがほんのすこし強めなことも、残念だった。
ハンドリングは、とてもバランスがよくて軽快だ。アウディのお家芸クワトロこと4WDだから直進性は高く、高速でのレーンチェンジなどでも安心感がある。一方乗り心地は、全般的に硬め。A4セダンと同様に、路面によってはピッチングを誘発されやすい。特に100km/h以上でゆるやかなデコボコにさしかかったときなど、それを感じる。
結論をいうと、基本的にはきちんとできているが、A4アバント1.8Tクワトロは、多くの人や荷物を積むより、パーソナルに楽しむためのワゴンだ。それが“大真面目”なVWパサートワゴンとの大きな違いといえるし、ちょっとした“遊び心”をかもし出す要因ともいえる。
(文=webCG大川悠/写真=清水健太/2002年6月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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