アウディ A8 6.0 クワトロ (6AT)【試乗記】
積極的に選べるラクシャリーサルーンに 2005.05.19 試乗記 アウディ A8 6.0 クワトロ (6AT) ……1480万円 軽量かつ、コンパクトに抑え「6.0リッターW型12気筒エンジン」を搭載した「アウディA8」。その未知なる走りに、自動車ジャーナリストの生方聡は……。“シングルフレーム”効果
このところ急速に存在感を高めているアウディのニューモデルたち。その急変ぶりに大きく貢献しているのが、アウディの新しい顔として増殖中の“シングルフレームグリル”だ。逆台形型の太いクロームリングのなかに水平のフィンとフォーシルバーリングスを配置するデザインは、日本でもニュー「A6」を皮切りに、「A3スポーツバック」や新型「A4」のフロントマスクに採用されてきたが、アウディのフラッグシップたるA8にもいよいよ“お色直し”の日がやってきた。
A8への“新顔”導入は、フラッグシップたる6リッター12気筒エンジン搭載のA8 6.0クワトロからということになったが、実はドイツ本国では、このモデルがシングルフレームグリルを採用した最初の量産車だった。ちなみに、ドイツではこの5月から、A8の他のグレードにもシングルフレームグリルが与えられることになっているし、A3の3ドアにも採用が決まった。従来のちょっと控えめなキャラクターにもアウディらしさを感じる筆者にとって、やりすぎという気がしないでもないが、すくなくともA8とシングルフレームグリルのマッチングは非常によいと思った。
さて、日本に導入される12気筒エンジン搭載モデルは、2945mmのホイールベースを持つ「A8 6.0クワトロ」と70mmホイールベースが長い「A8 L 6.0クワトロ」の2タイプ。そのうち今回は標準ホイールベースのA8 6.0クワトロを試乗した。
12気筒エンジン+フルタイム4WDの独自性
このモデル最大の特徴は、ボンネットの下にW型という実にユニークな12気筒エンジンを搭載することだ。12気筒エンジンとしては2基の直列6気筒を一体化したV12が一般的だが、このW12ではコンパクトなV6エンジンを並列に組み合わせている。
実はこのV6エンジン、アウディA3やTTに搭載されるいわゆるVR6(V型直列6気筒)ユニットで、一体型のシリンダーブロックに15度の角度でジグザグにシリンダーをレイアウト。V型ながらカムシャフトは1組しかなく、限りなく直列6気筒に近いV6エンジンといえるものだ。そのメリットとしては、直列6気筒に比べて全長が抑えられること、そして、一般的なV6に比べて高い剛性が得られることなどが挙げられる。
そのVR6を組み合わせたW12は、エンジンの全長や全高を抑えることに成功。おかげでエンジンルームに前輪を駆動するコンポーネントが収まり、このクラスとしては稀なフルタイム4WDを採用することが可能になった。これこそがA8 6.0クワトロの強みなのである。
450psを使い切る
6リッターW12ユニットは、最大出力450ps/6200rpm、最大トルク59.1kgm/4000rpmの圧倒的スペックを誇るが、これを特別なテクニックを要さずに手なずけられるのもアウディのシャシー&ボディ、そしてクワトロシステムならではだ。
アイドリングでは、その存在を押し殺すかのようなW12。街なかを走る場面はもちろん、高速道路をのんびりと巡航するときでも、その静粛性は極めて高い。クルマを発進させるべくスロットルペダルに軽く右足を載せると、1000rpmを過ぎたあたりから、2030kgの巨体をスムーズに動かすのに必要なトルクを発揮しはじめる。約60kgmに達する太いトルクを利して、レブカウンターの針が2000rpmに到達する前にシフトアップ、気がつくとクルマの流れをリード。6速:60km/hのエンジン回転数はわずか1400rpm、さらに100km/hまでスピードを上げたところで、エンジンは2150rpmに達するに過ぎない。12気筒もの多気筒エンジンをこれだけしか回さないのだから、ドライバーの耳に届くのは255/45R19サイズのタイヤが発するロードノイズだけだ。
滑るような巡航走行からちょっと加速するくらいなら、キックダウンの必要はなく、6速のままでOK。右足の力の込め方に応じてスーっと加速するのだから、そのトルクの凄さがわかるだろう。
もちろん、静かでスムーズなだけがこのエンジンの取り柄ではない。試しに発進の際にフルスロットルをくれてやると猛然とダッシュ、レブカウンターの針はレブリミットの6300rpmにみるみる近づいていく。4600rpmを超えたあたりからは咆哮ともいえる勇ましいエグゾーストノートを響かせ、それまでのジェントルさが嘘のようにスピードを上げる。路面がドライの状態であれば、フルタイム4WDのクワトロシステムによって配分されたトルクを4輪がもてあますことはないから、トラクションコントロールの介入とも無縁。パワーを余すところなく使い切れる、というわけだ。
超一級の高速性能
さらにこのクルマの魅力、高級サルーンの価値を高めているのが、高速でのマナーだ。後輪駆動のライバルとは一線を画す、極めて高い直進安定性を備えるうえ、標準で備わる「アダプティブエアサスペンション」がフラットでスムーズな乗り心地をもたらす。おかげでドライバーは、常にリラックスした状態でステアリングを握ることができるのだ。一般道でもスピードや路面状況に応じて、スプリングレートとダンパーの減衰力を調節するエアサスペンションが、快適で落ち着いた乗り心地を実現する。
気になるのは、舗装の荒れた一般道では、19インチタイヤがバタついてしまうこと。スポーティを標榜するアウディとはいえ、快適性を重視するユーザーもいるだろうから、ロングホイールベース版に装着される18インチタイヤを選択できるようにしてほしい。それから、ノーズに収まるW12ユニットのおかげで、ややフロントヘビーな印象は否めなかった。まあ、このクルマでワインディングロードを攻めることはないだろうが……。
それはさておき、これまでは「メルセデスSクラス」や「BMW 7シリーズ」は「ちょっと遠慮したい……」ユーザーが消去法で選ぶイメージが強かったA8が、W12のパワーとクワトロによる高い走行性能を手に入れ、積極的に選ぶことのできるラクシャリーサルーンになったことは事実だと思う。IT関係のオーナー社長などのあいだでは密かに人気が高まっているという話を耳にしたこともあり、長らくニッチに留まっていたアウディのフラッグシップにも、春がやってきそうなのは喜ばしいかぎりだ。
それにしてもこのクルマを手に入れられるなんて、うらやましいかぎりである。
(文=生方聡/写真=荒川正幸/2005年5月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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