アウディA8 3.0 TFSIクワトロ(4WD/8AT)/A8 4.0 TFSIクワトロ(4WD/8AT)/A8 L W12クワトロ(4WD/8AT)/S8(4WD/8AT)
熟成の域へ 2014.03.13 試乗記 デビューから4年を経て、アウディのフラッグシップサルーン「A8/S8」にフェイスリフトが施された。一見さりげない変更だが、その中身は着実に進化し、熟成を感じさせる域に達していた。一見さりげない変更だが……
ここ数年のプレミアムブランドとしてのアウディの浸透ぶりを実感させるのが、特に都市部におけるフラッグシップサルーンの「A8」、そして「S8」との遭遇の機会の増加ぶりである。実際、アウディ ジャパンによれば現行モデルは発表以来、毎年ほとんど変わらないペースでコンスタントに売れているという。もちろん、まだ「メルセデス・ベンツSクラス」や「レクサスLS」ほどとは言わないが、しかし「BMW 7シリーズ」は尻尾をつかまえられつつあるのでは。感覚的には、そんなふうに映る。
世界的にも、きっと同じような販売状況なのだろう。発表から4年を経て行われた初のフェイスリフトは、一見したところそれほど大掛かりなものではない。しかしながら結論から言えば、これがなかなか侮れない進化を遂げていたのだった。
例によって外観は化粧直しが行われた。ボンネットやアイデンティティーのシングルフレームグリル、前後バンパーなどの形状が改められ、またヘッドライトおよびテールライトの意匠も変更されている。
従来のヘッドライトのデザイン、歌舞伎の隈(くま)取りか何かを想像させる妙な表情で個人的にはあまり好きではなかったのだが、新型はシャープさ、ハイテクな雰囲気などアウディらしい個性が前面に出ていて悪くない。ディテールの洗練度を見ても、きちんと時代をキャッチアップしているなというところだ。
「マトリックスLEDヘッドライト」を採用
もちろん、見た目が変わっただけじゃない。特に注目すべきは、初採用の「マトリックスLEDヘッドライト」だ。これは左右ライトをそれぞれ25個のダイオードで構成し、走行状況に応じてそのひとつひとつについてオン/オフだけではない光度調整を行い、多彩な照明パターンを実現するというもの。例えばハイビームで走行中、対向車を検知するとそこだけ光をマスクして幻惑を防いだり、歩行者がいれば点滅によって合図を送ったりする。またカーナビゲーションの地図情報によっても配光を変化させるといった具合に多彩な機能が盛り込まれている。配光のパターン、何と約10億通りというから驚いてしまう。
「R8」に続いて「ダイナミック・ターン・シグナル」も搭載された。単なる点滅ではなく、光が流れるような表示を行うコレも、LEDの採用によって可能となった。まあ、ちょっとトラック野郎的な感じもしてしまうけれど……。
インテリアの変更も最小限にとどまる。機能面で目をひくのは視線を動かさずに各種情報を確認できるヘッドアップディスプレイの採用。従来はスイッチがずらりと並んでいたMMI(マルチメディアインターフェイス)も最新型となって操作系がスッキリとまとめられた。見た目の違いは少ないけれど、視認性や操作性はグンと増しているというわけである。
より静かに、よりしっとりと
エンジンラインナップは基本的に従来から踏襲されており、日本仕様には「3.0 TFSIクワトロ」「4.0 TFSIクワトロ」、そして「W12」に「ハイブリッド」がそろい、さらにスポーツ性を際立たせた存在として「S8」が設定される。そのうち今回はハイブリッド以外のすべてを試すことができた。
動力性能の前に、まず触れたいのが走りの質に格段に磨きがかかっているということだ。全車に共通して乗り心地が今まで以上にしっとりとして、静粛性も著しく向上。特にロードノイズは大幅に低減されている。遮音材/吸音材や制振材の量や配置も見直されたというが、実はそれだけではなくオールアルミ製ボディーのパネルの肉厚や接合方法も見直しが図られているのだという。単に見た目を新たにしただけではないよというわけだ。
出力、燃費をともに向上させた3.0 TFSIクワトロは、アクセル操作に対して素直に力が出る特性で、軽快感あるフットワークと相まって良い意味でラージサルーンらしからぬ身軽さを味わえる。
同じく改良された4.0 TFSIクワトロは、回すほどに力が漲(みなぎ)るが決して粗野ではなく、スマートに速いという印象。どちらにも確かなうまみを感じる。
W12の6.3リッターユニットは、大排気量自然吸気エンジンならではの余裕と、どこまでもリニアなパワー感、そしてマルチシリンダーらしい滑らかさが格別な印象をもたらす。ただし車体のキャパシティー的にはギリギリという感じもするから、ゆったり巡航させるような使い方がふさわしそうだ。
そこかしこに進化の跡
では高速移動を思い切り気持ち良くと望むなら、狙うべきはS8である。低速域から力感にあふれ、それでいて回せば520psという豪快なパワーを発生するエンジンは文句なしに気持ち良く、フットワークの良さもまさに車体の大きさを忘れさせるほど。アルミボディーにクワトロ、専用のエアサスペンションにスポーツディファレンシャルと、アウディ自慢のテクノロジーをフルに活用したその走りは、飛びっきりのスポーツサルーンとして結実していた。実はエンジンには変更はないのだが、それでもこれほど印象が良くなるとは。まさに熟成の効果、絶大である。
冒頭に記した通り、一見するとそれほど大きく変わったわけではないように思えるA8/S8だが、実際には内外装の仕立ても走りっぷりも格段に洗練度を高めている。また、視界や操作系に関する部分でもアップデートが図られているし、詳細は割愛してしまったが先進安全装備も最新ものがおごられているという具合。つまりどこを見てもしっかりと手が入れられ、進化を実感させるのだ。
目下のこのセグメントの注目株といえば、フルモデルチェンジを遂げたばかりの王者Sクラスということになるだろう。しかし最新のドライバーアシスト技術をてんこもりにした弊害でドライバーズカーとしてはまだ感触的にこなれていないSクラスではなく、このフェイスリフト版A8の方を選ぶ意味は十分にあるぞというのが、試乗を終えての偽りない実感である。街中で遭遇する機会が今以上に増えることになっても筆者は驚かない。「熟成」の良さをしみじみ実感させてくれる、充実のフェイスリフトである。
(文=島下泰久/写真=アウディ ジャパン)
拡大 |
テスト車のデータ
アウディA8 3.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5135×1949×1460mm
ホイールベース:2992mm
車重:1830kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:310ps(228kW)/5200-6500rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/2900-4750rpm
タイヤ:(前)235/60R17 102Y/(後)235/60R17 102Y
燃費:7.8リッター/100km(約12.8km/リッター EUサイクル複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--円
※数値はドイツ仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
アウディA8 4.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5135×1949×1460mm
ホイールベース:2992mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:435ps(320kW)/5100-6000rpm
最大トルク:61.2kgm(600Nm)/1500-5000rpm
タイヤ:(前)235/55R18 104Y/(後)235/55R18 104Y
燃費:9.1リッター/100km(約11.0km/リッター EUサイクル複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--円
※数値はドイツ仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
アウディA8 L W12クワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5265×1949×1471mm
ホイールベース:3122mm
車重:2075kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.3リッターW12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:500ps(368kW)/6200rpm
最大トルク:63.7kgm(625Nm)/4750rpm
タイヤ:(前)255/45R19 104Y/(後)255/45R19 104Y
燃費:11.3リッター/100km(約8.8km/リッター EUサイクル複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--円
※数値はドイツ仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
アウディS8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5147×1949×1458mm
ホイールベース:2992mm
車重:1990kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:520ps(382kW)/5800rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/1700-5500rpm
タイヤ:(前)265/40R20 104Y/(後)265/40R20 104Y
燃費:9.6リッター/100km(約10.4km/リッター EUサイクル複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値はドイツ仕様のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
NEW
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。 -
NEW
「AOG湘南里帰りミーティング2025」の会場より
2025.11.26画像・写真「AOG湘南里帰りミーティング2025」の様子を写真でリポート。「AUTECH」仕様の新型「日産エルグランド」のデザイン公開など、サプライズも用意されていたイベントの様子を、会場を飾ったNISMOやAUTECHのクルマとともに紹介する。 -
NEW
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?―
2025.11.26カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する! -
NEW
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.26試乗記「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。 -
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。






























