BMW M5(2ペダル7MT) 【海外試乗記】
息づくポリシー 2004.10.22 試乗記 BMW M5(2ペダル7MT) ……1290.0万円 スーパーカーに匹敵する5リッターV10を積む、E60型「BMW 5シリーズ」ベースのスポーツサルーン「M5」。先頃わが国でも予約受付が始まった4代目のニューM5に、海外で一足先に試乗した自動車ジャーナリストの河村康彦は、BMW M社のポリシーを感じたという。そこまでやるか?
次の「M5」はV型10気筒エンジンを搭載――そんなスクープ情報を目にしたとき、「いくら何でもそこまでやるか!?」と、ぼくは疑った。だってV10エンジンといえば、「ポルシェ・カレラGT」や「ランボルギーニ・ガヤルド」といった“スーパーカー”の心臓か、F1マシンなどレーシングカー向けのパワーユニットと相場が決まっているではないか。だからこそ「いくら何でも」と思ったのだが……。
いま、ぼくの目の前には、あり得ないと思った10気筒エンジンをノーズに詰め込んだ新型M5が鎮座する。BMWは本当にヤッテしまったのだ。いや正確にいうと、これはBMWの作品ではなく、その関連会社でユーザーの好みに応じたテーラーメイドカーなども仕上げる「M社」の作品ということになる。M社にはM社のポリシーがあるという話題は、後で披露することにしよう。
感動的な動力性能
いずれは「6シリーズ」にも積まれて「M6」になる、と予想される新開発のV10エンジンは、90度バンクを持つブロックにオーバースクエア型デザインのシリンダーという基本スペックの持ち主。「高回転型エンジンとはあまりマッチングがよくない」ことから、「バルブトロニック」技術は採用されないが、吸排気双方に連続可変バルブタイミングシステム「ダブルVANOS」を採用。5リッターの排気量から最高出力507psと、1リッター当たり100psを超える高出力を生み出す。
エンジンの多気筒化は高回転化を意味するのがコンペティションの世界だが、このエンジンのレブリミットは8250rpmと、同じ排気量の従来型M5用V8エンジンの7000rpmよりもグンと高い。それでも、M系モデルすべての面倒を見るというプロダクト・マネージャー氏に、「『ホンダS2000』の心臓は9000rpmまで回るんだヨ」と教えてあげたら、かなり悔しそうだったけれど……。
ついに7段化を果たしたシーケンシャルマニュアルギアボックス「SMG」(2ペダルMT)との組み合わせによる動力性能は、当然、感動的なものだった。任意で選択可能な変速スピードは最大で「従来型SMGよりも20%短縮」だという。たしかに、ここまでくるとプロ級ドライバーでも、このロボット君の変速スピードを超えるのはかなり大変そうだ。
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高級セダンに相応しい
実はこの新型M5のパワーパックには、ひとつの“隠し技”的ロジックが盛り込まれている。なんとこのクルマ、F1でお馴染みになったカタパルト発進システム「ローンチ・コントロール」を装備するのだ。
こんな高級・高性能セダンを駆る人が一体どこでそんなシステムを使うのか? というハナシは別として、アクセル全開にすれば、後は自動的に250km/hの最高速までクルマが面倒を見てくれる。このメカを用いれば、誰もが0-100km/h=4.7秒という最大加速力を手にできてしまいそうだ。
低回転域ではどこか5気筒エンジン的な不協和音を耳に届かせていたエンジンも、フルスケールで回すとさすがに官能的な音色を聞かせてくれる。
それでも、同じV10レイアウトでありながら、カレラGTの“F1サウンド”とは随分違う。ひとことで言えば、そうしたサウンド面も含めて、M5用エンジンの方がグンと“乗用車的”なフィーリングなのだ。向こうはレーシングユニットがベースなのだから、これだけ違うのは当然かもしれないが……。
どこから踏んでも吸い込まれるような加速を披露するオーバー500psの心臓に対応し、足まわりも当然強化された。3段階調整式の可変ダンパー「EDC」を“コンフォート”にセットしても、そこはスーパーサルーン。「ソフト」というコメントを発するのはさすがに厳しい。
しかし、ファットな19インチシューズを履くわりに高速でのフラット感は高く、時には高級セダンに相応しい「しなやかな」という表現を使いたくなるテイストもプレゼントしてくれる。このあたりには、このところBMW車が好んで用いる、ランフラット式タイヤを敢えて廃したタイヤチョイスの好影響もありそうだ。
「ダイレクトなステアリングフィールを重視した結果、“アクティブ・ステアリング”には手を出さなかった」というコメントを含め、ニューM5には、M社のポリシーが息づいているというわけだ。
(文=河村康彦/写真=BMWジャパン/2004年10月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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