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BMW M5ツーリング(4WD/8AT)

カッチカチやぞ 2025.09.01 試乗記 高平 高輝 プラグインハイブリッド車(PHEV)に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
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久しぶりのM5ツーリング

明るめのグリーンのボディーカラー「アイルオブマングリーン」のおかげで幾分和らげられているようだが、その威圧感は半端ではない。大谷翔平選手の太ももまわりもかくやというほどにパンパンに張り出したフェンダーの迫力、そしてそのなかにいかにも頑強そうなホイールやハブ、カーボンセラミックディスクがみっちりと詰まっている。おかげで全幅は1970mmというから普通の「5シリーズ」よりも70mm幅広い。しかもこれが実用性も求められるステーションワゴンというのだから、異様でさえある。

「セダン」よりも若干遅れて2024年末に導入されたM5ツーリングは、M5としては7世代目のG99型。M5にツーリング(ステーションワゴン)ボディーが設定されるのはE60型M5(V10搭載のイーグルアイ)の時代以来という。それ以前にも2代目M5(E34型)に設定されたことがあったが、日本市場に導入されるのは今回が初めてである。SUV全盛のこの時代に、セダンのみならずステーションワゴンにまで「M」モデルを用意するのは、やはりそういう需要があるということなのだろう。遠くまで快適に、超高速で移動するための(ついでにドリフトもできる)スーパーワゴンがライバルブランドにあればこちらも対抗しなければならない。そういう競争関係こそドイツ御三家の財産という気もする。

E60型以来の復活を果たした「BMW M5ツーリング」。M5としては第7世代、ツーリングとしては第3世代であり、日本に正式導入されるのは新型が初めてだ。
E60型以来の復活を果たした「BMW M5ツーリング」。M5としては第7世代、ツーリングとしては第3世代であり、日本に正式導入されるのは新型が初めてだ。拡大
ボディーの全長は5095mm、ホイールベースは3005mmにも達する。
ボディーの全長は5095mm、ホイールベースは3005mmにも達する。拡大
フロントが285mm、リアが295mmのワイドなタイヤをフェンダー内に収めるため、ボディーの全幅は標準の「5シリーズ」より70mmも広げられている。
フロントが285mm、リアが295mmのワイドなタイヤをフェンダー内に収めるため、ボディーの全幅は標準の「5シリーズ」より70mmも広げられている。拡大
長いオーバーハングが新型「5シリーズ」の特徴。長さを生かし、バンパーの奥には垂直方向に加えて水平方向のラジエーターも備わっている。
長いオーバーハングが新型「5シリーズ」の特徴。長さを生かし、バンパーの奥には垂直方向に加えて水平方向のラジエーターも備わっている。拡大
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なんでもありの怪物ワゴン

新型M5はPHEVとなったのが最大の特徴で、ツーリングも当然同じ。駆動システムはかつての「M1」以来のM専用モデルという「XM」と同タイプである。M5に搭載されるS68型4.4リッターV8ツインターボは、XMの高性能版「XMレーベル」に搭載されているユニットと同スペックの最高出力585PS/6000rpm、最大トルク750N・m/1800-5400rpmを発生、8段ATに内蔵されるモーター(197PS/280N・mでXMと同じ)を合わせたシステムトータルの最高出力と最大トルクは727PSと1000N・mというモンスターぶりだ。

当然、前後トルク可変制御4WDのM xDriveだが、そもそもが全長5mを超える大柄なボディーのうえに、容量22.1kWhのリチウムイオン電池を搭載するPHEV(EV走行換算距離はWLTCモードで70km)で、しかもステーションワゴンとくれば車重がかさまないわけがない。2.7t余りのXMほどではないが、M5ツーリングの車重は2490kgとほぼ2.5tもある。それにもかかわらず、0-100km/h加速は3.6秒(M5セダンは3.5秒)、最高速は本来250km/hに制限されるが、例によってオプションの「Mドライバーズパッケージ(MDP)」を選べば305km/hまで引き上げられるという。この試乗車は「Mレーストラックパッケージ」を装着しており、そのなかに上述のMDPやカーボンセラミックブレーキなどが含まれる(168万5000円のオプション)。

パワートレインは4.4リッターV8ツインターボにモーターを加えた4WDのプラグインハイブリッド。先代「M5」はV8エンジンのみでも十分に力強かったわけで、そこにモーターが加勢するのだから当然速い。
パワートレインは4.4リッターV8ツインターボにモーターを加えた4WDのプラグインハイブリッド。先代「M5」はV8エンジンのみでも十分に力強かったわけで、そこにモーターが加勢するのだから当然速い。拡大
ダッシュボードは大きなカーボンパネルが左右を横断する豪勢な仕立て。この試乗車のインテリアカラーはキャラミオレンジとブラックのコンビネーション。
ダッシュボードは大きなカーボンパネルが左右を横断する豪勢な仕立て。この試乗車のインテリアカラーはキャラミオレンジとブラックのコンビネーション。拡大
シートはレーシーな形状でありながら、ベンチレーションも含めて快適機能をフル装備。シートベルトにはMカラーがあしらわれる。
シートはレーシーな形状でありながら、ベンチレーションも含めて快適機能をフル装備。シートベルトにはMカラーがあしらわれる。拡大
ホイールベースが3mを超えているため、後席はさすがの広さ。左右がキャラミオレンジ、中央がブラックに塗り分けられているため分かりづらいが、きちんと3人が座れる構造だ。
ホイールベースが3mを超えているため、後席はさすがの広さ。左右がキャラミオレンジ、中央がブラックに塗り分けられているため分かりづらいが、きちんと3人が座れる構造だ。拡大

削り出しの金庫?

普通に走りだす限り、EV走行に徹するのは他のPHEVと同じ。しかもそのまま140km/hまで電動走行可能というから、街なかや高速道路では思い切ってスロットルペダルを踏み込まなければV8ツインターボが始動することはまずない。ただし設定によって人工的なV8サウンドを流すこともできるので、モーター走行していることに気づかない人もいるかもしれない。

もちろんひとたびエンジンが始動すると、ドライブモードにかかわらず(Mゆえに各種パラメーターを細かく設定できる)、ただ圧倒的に速い。それも力任せで加速するというより、間髪入れずにスルスルとどこまでも伸びていく感覚で、やはりBEVに近いかもしれない。静かにフラットに走るM5ツーリングのどこにも緩みも遊びも一切なし、といってむき出しのショックやガサツなバイブレーションが伝わってくるわけでもなく、高密度に高精度にとにかく冷徹に速い。巨大な質量を感じないわけではないが、これまでに経験のある重量級の挙動とは異質にさえ感じる。昔は「911」を金庫のようなボディー、などといったが、こちらは金属よりももっと揺るぎない堅固な物質に包まれているかのようだ。

日本の「M5」は「セダン」と「ツーリング」が同価格で販売される(2048万円)。ただし、セダンではカーボンのドアミラーカバーとリアスポイラーが普通の樹脂製となるほか、同じくカーボンのルーフがツーリングではガラスサンルーフとなる。
日本の「M5」は「セダン」と「ツーリング」が同価格で販売される(2048万円)。ただし、セダンではカーボンのドアミラーカバーとリアスポイラーが普通の樹脂製となるほか、同じくカーボンのルーフがツーリングではガラスサンルーフとなる。拡大
赤いスタート/ストップボタンが「M」モデルの証し。ハイブリッドシステムやドライブモードの切り替えボタンはすべてタッチスイッチ化されている。
赤いスタート/ストップボタンが「M」モデルの証し。ハイブリッドシステムやドライブモードの切り替えボタンはすべてタッチスイッチ化されている。拡大
ステアリングホイールには長いシフトパドルと並んで「M1」「M2」ボタンを装備。走りに関する好みのパラメーターの組み合わせをあらかじめ設定しておけばボタンで呼び出せる仕掛けだ。
ステアリングホイールには長いシフトパドルと並んで「M1」「M2」ボタンを装備。走りに関する好みのパラメーターの組み合わせをあらかじめ設定しておけばボタンで呼び出せる仕掛けだ。拡大

技術で無理を押し通す

もっとも、かつての911のような体にフィットするダイレクト感はそれほど濃密ではない。インテグレーテッドアクティブステアリング(後輪操舵システム)やアクティブMデファレンシャル、アダプティプMサスペンション、そしてM xDriveなどの電子制御システムを満載するM5ツーリングは、ドライバーの操作などわれ関せずとでもいうように、徹頭徹尾張り付いたようにコーナリングするのみ。みなぎる剛性感が伝わってくるものの、タイトで生々しい運転感覚はちょっと希薄である。それを体感するにはもっと高いスピードレンジで、あるいはサーキットに持ち込んで2WDモードを選択せよということなのかもしれない。派手なドリフトさえ楽しめてしまう高性能ワゴンなんて、なんだかいけないことをするような後ろめたさも感じるけれど、今なおアウトバーンでライバルの度肝を抜くためには情け容赦ない全方向の高性能が必要ということだろう。

ちなみに、最初から電動化をも考慮したプラットフォームを持つ現行5シリーズゆえに、PHEVとなっても犠牲になっている部分は事実上ない。それでもガソリンエンジン車に比べると荷室フロアがほんの少し高くなっているが、ほとんど見分けがつかないぐらいだ(後席バックレストを倒すと段差がつくのでそれと知れる)。荷室容量は500リッターから最大で1630リッター(スタンダードの「5シリーズ ツーリング」は570~1700リッター)と、文句のつけようがない容量が確保されている。何ひとつ我慢したくない人にとっては、理想のスーパーワゴンだろう。あらゆる手段で無理や矛盾を押し破る剛腕ぶりは恐ろしいほどだが、昔からドイツ御三家はこのような、すなわち「誰が一番か見せつけなければならない」という競争を繰り広げてきたのである。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)

駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は22.1kWhで、WLTCモード計測によるEV走行換算距離は70km。普通充電のみに対応する。
駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は22.1kWhで、WLTCモード計測によるEV走行換算距離は70km。普通充電のみに対応する。拡大
ハイブリッドシステムのモードはご覧の5種類。「ダイナミックプラス」を選ぶと電池残量がみるみる減っていく。
ハイブリッドシステムのモードはご覧の5種類。「ダイナミックプラス」を選ぶと電池残量がみるみる減っていく。拡大
自分でセッティング可能なドライブモードのパラメーターはこちらの6種類。「M5」には「ドリフトアナライザー」機能の設定がない。
自分でセッティング可能なドライブモードのパラメーターはこちらの6種類。「M5」には「ドリフトアナライザー」機能の設定がない。拡大
荷室の容量は500~1630リッター。右側の壁面にはコンビニフックが備わるなど、アメニティーにも配慮されている。
荷室の容量は500~1630リッター。右側の壁面にはコンビニフックが備わるなど、アメニティーにも配慮されている。拡大

テスト車のデータ

BMW M5ツーリング

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5095×1970×1510mm
ホイールベース:3005mm
車重:2490kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:585PS(430kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5400pm
モーター最高出力:197PS(145kW)/6000rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1000-5000rpm
システム最高出力:727PS(535kW)
システム最大トルク:1000N・m(102.0kgf・m)
タイヤ:(前)HL285/40ZR20 111Y XL/(後)HL295/35ZR21 110Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
ハイブリッド燃料消費率:9.6km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:70km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:75km(WLTCモード)
交流電力量消費率:310Wh/km(WLTCモード)
価格:2048万円/テスト車=2225万円
オプション装備:ボディーカラー<アイルオブマングリーン>(0円)/エクステンドレザーメリノインテリア<キャラミオレンジ×ブラック・ブラック>(8万5000円)/Mレーストラックパッケージ<Mドライバーズパッケージ、Mカーボンセラミックブレーキ、20/21インチMライトアロイホイール、ハイパフォーマンスタイヤ>(168万5000円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:3149km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:306.8km
使用燃料:39.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.9km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW M5ツーリング
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