ポルシェ・カレラGT【海外試乗記】
うらやましい1500人 2003.10.07 試乗記 ポルシェ・カレラGT(6MT) 2003年のジュネーブショーで姿を現した“スーパー・ポルシェ”ことカレラGT。5000万円&600psオーバーのモンスターに、河村康彦が乗った! ベルリンからの報告。4台をやりくり
普段なら、テストカーのキーを「ほいっ」と渡してくれるだけの本社広報チームも、今回ばかりはそうはいかなかった。
「トラクション・コントロールのスイッチは決してオフにしないこと」
「スタート時のクラッチワークは、アイドリング状態で行うこと」
……と、一刻も早くテストドライブに出かけたいボクら取材陣の心を見透かしたかのように、細かな諸注意が言い渡される。なにせ相手は「オーバー5000万円&オーバー600ps」の“スーパー・ポルシェ”。しかも、走行可能な車両がまだ数台しか現存しないとあって、今回のプレスイベントの後のスケジュールも超過密らしい。
さらに追い討ちをかけるかのように、われわれが到着する前、他国チームの取材中に「何とか修復は可能……」というレベルの“トラブル”が発生した模様。残り4台の車両を毎日やりくりする広報チームが神経質になるのも、当然といえば当然なのである。
というわけで、ドイツはベルリン郊外の、もうすこしでポーランドとの国境を迎えるという場所に、われわれはいる。旧ロシア軍が使用していたエアベースを舞台に、「ポルシェ・カレラGT」のプレス試乗会は開催された。広大な敷地内を走る「インフィールド・セッション」と、周辺の公道を行く「ロード・セッション」にプログラムはわかれる。日本人チームは、まず午前の部が公道セッション。さっそく、『Car Graphic』誌の塚原久記者とコンビを組んでベルリン(の町はずれ)の道へと繰り出すことにする。
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神経を遣うのは……
注意が与えられたクラッチは、たしかにこれまでの市販車では経験がないほど、重い。ポルシェが先にブレーキで実用化させた、セラミック・コンポジット素材を用いたこのクラッチ「PCCC」は、プレート直径わずかに169mm。パワートレインの重心を、大幅に下げることができた。そのうえ、従来プレートのおよそ1/10という超軽量さ。さらには「使い方次第で、車両寿命にも匹敵する」という耐久性の高さがウリだ。
濡れたクツ底が、アルミ製のペダルの上ではことのほか滑りやすく、難儀する。そう、このクルマを初めてドライブしようという、まさにそのとき、ベルリンの空には、招かれざる雨粒が舞っていたのである(鳴呼……)。
もっとも、クラッチミートは、脅されたほどに難しいものではなかった。ペダルストローク上の、いわゆる“半クラッチ”のゾーンは極めて小さい。が、それでも5.7リッターV10エンジンが生み出す「アイドリング時のトルク」は、1380kgという車両重量に対して十分過ぎるほどなのだ。というより、端的に言って、カレラGTのスタートは、ぼくが所有する2.5リッターのボクスターより、はるかに楽チン! テストドライブ中、一度もエンジンをストールさせることがなかったのは、“アイドリング発進”が至難の技という2.5リッター・ボクスターを日頃扱っている成果が現れたのか!?
神経を遣ったのは、アクセルワークの方だ。何しろ“ルマン用エンジン”を積んだこのマシン、ミドシップ・レイアウトによる強大なリア荷重にも関わらず、ウエット路面の上では、専用開発の20インチのミシュランタイヤを、2速ギアでいとも簡単にスピンさせる。決してラフなアクセル操作を行ったわけではない。が、「それ」は何の前触れもなく突然訪れるのだ。路面によっては3速ギアでも安心できないのが、612psというパワーなのだ。
もちろん、トラクション・コントロールは作動状態にあるが、それでもドライバーの腕を信じて、ある程度の空転を許容するそのセッティングは、フールプルーフなアクセルオンなど許してはくれない。直進状態でも、路面のわずかなカントを拾ってリアを振り出そうとする。そのたびに、「できのよい“トラクションコントロール”があるから“PSM”(アンチスピンデバイス)は装備しなかった」という開発担当者のコメントを、心底恨めしく思った……。
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どうにでもしてくれ!
幸運にも雨が上がり、路面が白く乾いてくるようになると、カレラGTはそれまでとは違う、本来の“素性のよさ”を味わわせてくれた。何しろエンジンのパワーバンドが広いから、とても乗りやすい。狭い道では、1.9mを越える全幅が多少気になる。が、想像していたより、よほどフラットでしなやかな乗り心地も含め、「これならば毎日でも抵抗なく乗れる」と思わせる。
背後から届くエンジン音は大ボリュームだが、それは紛れもなく“サウンド”として好意的に解釈できるもの。V10レイアウトを採りながら、フラット6と共通する高周波音が混じるのも興味深かった。なかでも、4000rpm以上で背中を「蹴飛ばされながら」耳にするV10ミュージックは、「もうどうにでもしてくれ」というくらいに最高だ!
無事に公道セッションを済ませると、次は滑走路セッション。開発担当ドライバーである元WRCドライバー、ヴァルター・ロール氏の手になる330km/hとスーパーハンドリングの世界を堪能し、その後、みずからの手でスラロームに挑戦する。
フェラーリF1のボディも製作するイタリアの“カーボンスペシャリスト”が生み出したモノコックボディを、V10パワーでもって心ゆくまでドリフトコントロールさせる……という機会は、残念ながら与えられなかった。それでも、ハンドリング感覚の、想像以上の素直さが記憶に残る。むろん、限界点を越えればそんな悠長なことはいっていられないだろうが、タイヤのグリップポテンシャルを探るのは、そう難しいことではないように思えた。
それにしてもこのスーパーマシンを手に入れる、世界で1500人のオーナーがうらやましい。『CG』誌で1台“長期テスト”用に購入して、それをときどき貸してもらうことはできないのかしらん、ねェ、塚原サン!?
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン/2003年10月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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