三菱ランサーエボリューションVIII GSR(6MT)【ブリーフテスト】
三菱ランサーエボリューションVIII GSR(6MT) 2003.02.08 試乗記 ……334.3万円 総合評価……★★★★スリーダイヤモンドのキモチ
8代目「ランエボ」こと「三菱ランサーエボリューションVIII」の民生部門担当「GSR」の特徴は、ギアボックスが5段から6段MTになったこと。「そのぶん車重は10kg重くなって1410kgに」というより、「ボディ各部の補強」「空力性能向上のためフロントアンダーカバー装着」「燃料タンク容量拡大」といったエボリューション(進化)を果たしにもかかわらず、重量は10kg増に抑えられた。
やや拘束感が減ったレカロシートに座って走りはじめる。と、疾風怒濤の、目眩せんばかりの“速さ”は従来通り。「ドコが進化したの?」というのは冗談で、3500rpm付近から本領を発揮するターボエンジンはトルクをが1kgm増しの40.0kgmに、280psのピークパワーこそ変わらないが、過渡期3500-5500prmにおいて出力が上乗せされた。新しい6スピードのギアは、ランエボVIIGSRの4-5速間に1速を追加した、と考えるとわかりやすい(先代の競技用「スーパークロース5MT」に6速ギアが追加された、という方が近い)。ただ、クロースされた4-5-6速を活用しようとすると、とんでもない速さになっちゃうからなァ……。
一方、合法的に(?)1世代分の進化を活かせるのが、今回名前に“スーパー”がついた「スーパーAYC(Active Yaw Control system)」。旋回時に後輪内側のトルクの一部を外輪に渡すシステムで、VIIIは移動トルク量をVIIの約2倍にアップ。「旋回限界を10%引き上げた」とされる。競技用「RS」にもオプション設定されるから、ジムカーナ等の競技で強い味方になる可能性がある。
三菱自動車は、2003年度の「WRC(世界ラリー選手権)」参戦を見送った。一抹の寂しさは拭えないけれど、ランサーエボリューションVIIIは、改造範囲が狭い「グループN」でプライベーターたちに愛用され、世界中のサーキットやジムカーナ場、そして各地の峠で、その姿が見られるはずだ。そんなところに、WRCで、市販車との共通部分が残る「グループA」から、ラリー版シルエットフォーミュラともいえるWRカー(ワールドラリーカー)への移行を最後まで渋ったスリーダイヤモンドの精神が生きている。
|
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1992年10月に初代が登場して10年余、2003年1月29日に8代目に“進化”したランサーエボリューション。ベースが「ランサーセディア」になった2代目である。グレードは、従来通り街乗り用「GSR」と競技用「RS」に大別される。2リッターターボは基本的にキャリーオーバーだが、組み合わされるトランスミッションに6段MTが採用された。ホイールは17インチ。「過酷なモータースポーツでは、信頼性が大事」と先代ランエボでギアボックスの6段化を見送った手前(?)、RSには5MT仕様も残される。こちらのホイールは15インチ。
なお、ランエボVIIIから、北米への正式な輸出が始まった。こちらは、電子デバイスを省いた5段MT車。最高出力は275psだ。
(グレード概要)
「GSR」は、「2リッターターボ+6MT」のみの設定。VIIIでは、空力の洗練と、後輪左右にトルクを可変配分する三菱ジマンの「AYC」の移動トルク量が増大、「スーパーAYC」に進化した(RSにはオプション設定)。MOMO製ステアリングホイール、RECARO製バケットシートが奢られる。「ACD(アクティブ・センター・デファレンシャル)」「スーパーAYC」「スポーツABS」「BRENBO製ブレーキ(フロント4ポット/リア2ポット)」そして「フロントヘリカルLSD」と、スポーツ走行用装備満載。一方、「パワーウィンドウ」「フルオートエアコン」「センタードアロック」「キーレスエントリー」など、快適装備もきっちり揃える。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
インパネ上部を横切るパネルをブルー系の塗装としてシート生地とのコーディネイトをはかり、センターパネルをダークチタン調にして“スポーツ”を演出する「VIII」。とはいえ、WRC覇者の系譜として“ショボい感”は否めない。価格対性能比を考えるととても文句は言えないが、良くも悪くも「民主ニッポン」のラリーウェポンではある。メーターナセル内中央にタコメーターがドンと置かれるのは本格的でカッコいいのだが、左隣の小径スピードメーター−−黒地に暗いオレンジの数字−−は、太陽や照明によってはひどく読みにくい。革巻きのステアリングホイールはMOMO社製。
(前席)……★★★★
ダークブルーのニットと黒いバックスキン調素材「シルクウェーブ」を組み合わせ、精一杯クールに装ったフロントシート。シートはRECARO製のフルバケットタイプで、先代よりややサイズに余裕がもたされたが、ホールド性は確保される。
(後席)……★★
座面が短めで、着座位置が低くいのは気になるが、パッケージのいい「ランサーセディア」がベースだから、膝前、ヘッドクリアランスとも、スペースに不満はない。ショルダーラインが低く、サイドウィンドウが大きいのもいい。ただ、“ドライバー独尊”モデルゆえか、ヘッドレストは簡略化されたバックレスト一体型で、追突されたときに不安が残る。ルーフが短く、リアシートの乗員が、直射日光を受けやすいのも気になるところ。
(荷室)……★★★
雄々しいウィング(フルカーボン製!)を備えたトランクリッドを開けると、ラリーウェポンには不釣り合いなほど(?)実用的なトランクルームが広がる。床面最大幅135cm、奥行き94cm、高さは50cmと、まず不満のない大きさだ。ただ、かさばりやすいマルチリンクサスの影響か、ホイールハウスの張り出しが大きく、ハウス間は90cmと急激に狭まる。トランクリッドは、横にわたされた2本のトーションバーで簡素に支えられる。大きく湾曲したヒンジが荷室に干渉し、また、閉めるときに手をかける取っ手がないのは不便。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
最高出力280ps/6000rpm、最大トルク40.0kgm/3500rpm。カタログ数値上は「VII」比1kgm増しにすぎないが、パワー、トルクとも、中回転域で太らされ、街なかでの使いやすさが増した。アウトプット増大のため過給圧が上げられたほか、ウォーターポンプの容量アップ、ターボチャージャーの水室拡大と、冷却系のチューンもぬかりない。耐久性に考慮して、アルミ鍛造のピストン、コンロッドの強度も見直された。3500rpmを超えると「ヒーン!」というタービン音とともに、クールな2字曲線的加速を披露する。法の下では、4速80km/hからの追い越し加速がひとつのハイライトになるわけだ。
6スピードになったギアボックスは、“ちょい乗り”リポーターには「3-4」と「5-6」間が狭く、「シフトミスの恐れ」が感じられたが、慣れればスピーディなギアチェンジに貢献するのだろう。形状が変更された丸いシフトノブは好印象。FISCO(富士スピードウェイ)のレースコースで行われたプレス試乗会で確認したところ、ロウで60km/h、セカンドで95km/h、サードで130km/h、フォースでは170km/hまでをカバーする。ということは、クロース化された4-5-6速をフルに使うとなると……。
(ハンドリング+乗り心地)……★★★★
ラリーフィールドで鍛えに鍛えられたランサーエボリューション。前後輪の差動制限を変化させる「ACD」、ベベル式から遊星ギアタイプになった「スーパーAYC」、旋回時のブレーキングをコントロールする「スポーツABS」と電子デバイス満載、乗るというより乗せられる。サーキットおよびジムカーナコースを使ったプレス試乗会はあいにく大雨で、VIIからVIIIへの進化を堪能するに至らなかったが、後日ハコネに赴いたところ、執拗に路面を捉える足まわりに感嘆。普通ならスライドするはずのタイトコーナーでも後輪はトラクションを伝え続け、さらに加速しようとする。むしろドライバーの神経がもたない。ストッピングパワーは、フロント対向4ポット、リア対向2ポットのブレンボ製ブレーキシステムが発生、しっかり速度を殺す。
乗り心地はさすがに硬いが、突き上げを剛性感高いボディがガッシリ受け止め、ハーシュの角を鈍らす。フロント下部のアンダーカバーの恩恵か、ハイスピードクルージング時の安定感は抜群。前行くクルマが蜘蛛の子を散らすように……てな運転はしないように。言うまでもなく、“誰でもガンダム”といえども、物理的な法則に抗えるわけではない。
(写真=清水健太)
|
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2003年2月6日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1734km
タイヤ:(前)235/45ZR17(後)同じ(いずれもヨコハマAdvan A046)
オプション装備:プライバシーガラス(2.5万円)+6スピーカー(2.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(6):山岳路(1)
テスト距離:278.2km
使用燃料:44.3リッター
参考燃費:6.3km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】 2026.7.20 3000台の限定で販売される新型「インサイト」は、クロスオーバー風のフォルムと、これまでのホンダ車にはなかった内外装のデザインテイストが新鮮だ。中国で生産され、日本独自の名前が与えられた新型電気自動車の走りと仕上がりを、ロングドライブで確かめた。
-
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】 2026.7.18 ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。
-
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】 2026.7.17 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
NEW
ボルボEX90プラス ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.7.22試乗記ボルボのフル電動SUV「EX90」が上陸。3列7人乗りのキャビンを有する圧倒的なサイズや空力性能を磨き上げたボディー、継続的なアップグレードに対応する最新の電子プラットフォームと、新たなフラッグシップにふさわしいトピックが並ぶ。果たしてその走りは? -
NEW
第121回:幽玄なるBMWアルピナ(後編) ―成功のためには美学を捨てろ? “優雅なラグジュアリーカー”の成否を考える―
2026.7.22カーデザイン曼荼羅BMWのクルマをベースに、優雅で上品なグランドツアラーを仕立ててきたBMWアルピナ。BMWの傘下で再出発を切ったラグジュアリーブランドは、その美学を守り続けられるのか? オラオラ系がもてはやされる高級車マーケットでの成否を、カーデザインの識者と考えた。 -
電気自動車の人工的な走行音はどうあるべきか?
2026.7.21あの多田哲哉のクルマQ&AEVの走行時に車内で聞こえてくる人工的な“音”は、本来、どうあるべきなのか? やはり、疑似エンジン音が最適なのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんの考えを聞いてみた。 -
アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)【試乗記】
2026.7.21試乗記アストンマーティンの擁するFRスポーツ「ヴァンテージ」が、より高性能な「ヴァンテージS」に進化。よりたくましいエンジンを獲得し、卓越したコーナリング性能に磨きをかけつつ、“優しさ”も身につけた最新モデルの走りを報告する。 -
第340回:一にエンジン、二にカッコ
2026.7.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マツダ渾身(こんしん)のラージ商品群を応援するカーマニアのひとりとして、「CX-60」と「CX-80」の動向は常に気になっている。3列シートSUV、CX-80の最新モデルにあらためて試乗して感じたこととは? -
日産は“再挑戦”でホンダは“終了” 新型「エルグランド」発売に見る、プレミアムミニバンの今
2026.7.20デイリーコラムトヨタが圧倒的なシェアを占める上級ミニバンの世界において、新型「エルグランド」で復権をねらう日産。しかし、なぜフルモデルチェンジは16年ぶりになったのか? ホンダはどうするのか? この市場の今を考察する。
































