三菱ランサーエボリューションX GSR(4WD/5MT)/GSR(4WD/2ペダル6MT)【試乗速報】
ハイパフォーマンス&ハイコストパフォーマンス! 2007.10.02 試乗記 三菱ランサーエボリューションX GSR(4WD/5MT)/GSR(4WD/2ペダル6MT)……391万5450円/375万600円
「三菱ギャラン・フォルティス」に続いて、派生モデルの枠を大きくはみ出した「ランサーエボリューションX」がついに発表された。北海道は十勝からの報告。
10代目の重要ポイント
「三菱ランサーエボリューションX」に乗った。北海道は十勝にある、同社の研究所内テストコースにて。
いきなりだが、ランエボXのドライブフィールは、総じて落ちついている。挙動は自然で穏やか。ことにしなやかな足まわりが印象に残った。コース中、速度ののったカーブでリアがフルバンプする箇所があるのだが、乗ったグレードにかかわらず、素直にサスペンションが動いて不安感なくショックを吸収してくれる。さすがに1992年以来、代を重ねて磨き続けたハイパフォーマンスモデルだけのことはある。
10代目となったランエボXは、ベースモデルの代替わりにともない、やや大きく、重くなった。ドライブフィールが−−月並みな言葉でいうと−−「大人になった」と感じたのは、100kgほど増した車重が利いているのだろう。
新しいランサーエボリューションの眼目は、以下の通り。
・エンジンは、鋳鉄ブロックの「4G63」がついに捨てられ、2リッターのアルミ「4B11」ユニットが採用された。もちろんターボ。
・4輪のトルクコントロールがよりきめこまかくなった。
・オートマのランエボというべきツインクラッチモデルが加わった。
そしてなにより重要なのは、驚異的なコスト・パフォーマンスが維持されたことである。
一般向けのランエボたる「GSR」は、
・5MT=349万5450円
・2ペダルMT「TC-SST」=375万600円
競技車両のベース「RS」は、
・5MT=299万7750円
2007年10月1日、ランサーエボリューションXが発表・発売された。ただし、国内でのメイングレードと予想されるツインクラッチSST版は、2007年11月下旬から販売が開始される。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
スムーズなSST
簡単なジムカーナを行うため、ランサーエボリューションXが列をつくっている。自分も並びながら、「熱心なスバルファンに続いて、三菱車好きも微妙な気持ちになるんじゃないか」と思った。後ろ姿を見る限り、「アルファロメオの試乗会」と言われても疑うまい。残念なことに。大きな口を開けたフロントセクションは迫力あっていいのになぁ……。
フォルクスワーゲングループが先行してマーケットに投入した「DSG」の三菱版が、SSTである。スリーダイヤモンドのそれは、ゲトラク社との共同開発で、やはり2枚のクラッチを交互につなぐことで、2ペダル式MTながら、トルコンAT顔負けのスムーズな変速を実現する。
テストコース内の限られた場所ながら、走るほどに、なるほど、滑らか。ちゃんと(?)クリープする。上り坂でも、「ブレーキペダルから足を離したとたんバックする」といったことがない。オートマ車に馴染んだ人でも違和感なく使えるだろう。
SSTには、穏やかな「ノーマル」に加え、「スポーツ」「スーパースポーツ」モードが用意される。最後のスーパースポーツは、いわばタイムアタック用で、タコメーターの針を5000rpm以上に置こうとするプログラムが採られる。気の弱いリポーターなどは、叫び続けるエンジン音だけで腰が引けちゃう感じ。血の気がひく速さ。
「ノーマル」から「スポーツ」に変えるだけで、シフトプログラムがアグレッシブに豹変するから、普通のスポーツ走行にはこちらで十分だと思う。「スーパースポーツ」は宝刀みたいなもんで、抜かなくてもいいんじゃないでしょうか。
凄腕ドライバー
5MTモデルのクラッチはじんわり重い。「やっぱりハイパフォーマンスカーは、クラッチを踏まなくちゃ」と、守旧派のリポーターはニンマリ嬉しい。
新しい「4B11」ユニットは、280ps/6500rpmの最高出力と、43.0kgm/3500rpmの最大トルクを発生する。まったくの新開発ながら、280psのピークパワーはそのままに、トルクを太らせる“従来型”のチューニングが施された。
ランエボ用のターボエンジンは、「アウトランダー」から用いられるNAユニットとはブロックからして異なる。増大したアウトプットに対応するため、各所に補強が施され、冷却に配慮された。ピストンはマーレ社製。テーパー状のサージタンク、短いインテークマニフォルドなど、限られた予算内で最大限の努力が払われたのがよくわかる。今後、デチューン版がほかの三菱車にも使われよう。
テストコースを行くと、低回転域から厚いトルクがわき出るターボエンジンの力強さがいかんなく発揮される一方、レスポンスもいい。スロットルペダルの一踏み、一踏みごとに、太いトコロテンを押し出しているようだ。
三菱ジマンのS-AWC(Super All Wheel Control)は洗練され、リポーターのような鈍いドライバーには作動しているのがよくわからない。なんだかわからないけどやたらと速くコーナリングでき、安定して中速コーナーにも入っていける。「ホンダ・レジェンド」のときのような、「オオ! 利いてる!!」といった感覚は皆無。あくまで自分の技量、と錯覚する。無条件に“凄腕ドライバー”な気分を味わえる。
今後のランエボ
S-AWCは、「ACD」(前後のトルク配分)「AYC」(左右のトルク配分)「ASC」(各輪のブレーキ制御)「ABS」によって構成される。
エボリューションIXでは、「ハンドル角」「車速」「前後/横G」でクルマの姿勢を判断、次の動きを予測していた。今回はさらに「ヨーレイト」「エンジントルク(加減速)」「ブレーキ圧」のセンシングが加わり、よりリアルに自車の状況を把握できるようになったわけだ。
仏さまの手のうえで踊らされるだけ?
「いいえ。ビギナーのひとにも、クルマをコントロールする楽しさを知っていただきたいのです」とは、S-AWC開発担当エンジニアの言葉。
2003年のエボVIIIから、ヨーロッパ、アメリカへの輸出を開始して、いまや輸出台数が国内販売を上まわるランサーエボリューション。10代目では、日本市場の2倍を北米で売ろうと目論んでいる。
やや大柄になったボディ。敢えてキャパシティに余裕がある5MTと2ペダル式MTが選ばれた理由は? ハイパフォーマンスモデルへの世間の風当たりを見つつ、増大した車重を相殺する出力強化モデルがリリースされるのだろうか? さらなるモンスターが!?
WRC(世界ラリー選手権)のオーラが薄れつつある昨今のランサーエボリューションだが、どうか「ラリーウェポン」にかわって「プレミアム」を押し出すことなく、ハイパフォーマンスとともに、ハイコストパフォーマンスを守りつづけてください。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏、三菱自動車工業)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。


































