ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィー ロングホイールベース(4WD/8AT)
圧倒的な存在感 2014.08.04 試乗記 20年ぶりに、「レンジローバー」にロングホイールベースモデルが登場した。200mm延長されたホイールベースがもたらすその走りとは? 東京から一路、西を目指した。プラス200mmの恩恵は?
レンジローバーの標準車が1265万円で買えるのに対し、ロングホイールベース(LWB)版の最高価格車は1810万円もする。その見返りというか価値観をどこにみいだすか……。200mm長いホイールベースの恩恵を考えてみよう。
レンジローバーは標準車でも全長5mを超すが、LWB版はさらに200mmも長く、大きな車体サイズは見る人を圧倒する。そこを誇示したい人にとって、LWB版は大いなる満足感を与えてくれるはずだ。駐車場に止めて、歯止めで決まる後輪の位置が同じなら、標準車と並べばノーズはさらに先まであり、ソコに優越感を抱くこともできるだろう。
長いホイールベース(WB)がもたらす直進安定性が独特の味をもつこともご想像の通りだ。それは逆に、ショートホイールベース(SWB)の軽快な旋回性能を証明することにもなるが、LWBは決して動きが鈍いというわけではない。些事(さじ)に動じない鷹揚(おうよう)な操縦感覚も捨てがたいし、ゆったりした乗り心地がもたらす高級感も提供してくれる。
もっとも今回レンジローバーLWBに試乗して、乗り心地については絶対的にはランフラットタイヤにも似たややザラザラした微振動域の路面感触が気になった。実際に装着されていたタイヤはランフラットではないが、高級車の乗り心地としてはやや粗いように思う。さらなる高級感を得たければ、エンベロープ特性をもっと有効利用できるタイヤを選択する必要があるだろう。
ちなみに、SUVの乗り心地に関して筆者が経験した過去のベストは「ランボルギーニLM002」で、ピレリ・スコルピオの感触は最高だった。その乗り心地は、まるで前走車が分厚いじゅうたんを敷いてくれていて、その上を走っているかのようだった。あれは戦車のキャタピラーにも等しく、エンベロープ特性の極致だった。
レスポンスこそが重要
LWB化の目的は、もちろん後席の居住空間拡大にある。フツウに足を組んでも広々と座れ、標準型と比較して快適性が向上したことは言うまでもない。その辺は言うに及ばず……ということで、ココでは運転感覚を主にリポートしていきたい。
レンジローバーはフルタイム4WDの最高級SUVということになっているが、世評はともかく、大きな車体でラフロードを駆け巡るためにつくられた一般的なクルマにありがちな大味で鈍な感触はない。むしろ繊細で高性能を遅滞なく引き出せる、好レスポンスな乗り物である。
最近流行の電子制御という言葉に、万能で高効率なイメージを思い浮かべる人は多いと思う。けれど、決してレスポンスは速いわけではない。電子制御のイイ点は途中経過の特性を細分化してコントロールでき、その魅力は段差をうまくつなげるところにある。作動そのものが速く行われるわけではないのだ。自動車の電気が流れる速度は1秒間に4cmといったところ。光や音とおなじように速く流れると思っている人も多いようだが、実際の電線の中は抵抗も大きく、その中をゴシャゴシャとかき分けて進むのでそんなに速くはないのだ。
でも、スイッチを入れれば電球など即座に点灯するではないか、という反論があるかもしれないが、それはあらかじめ電圧がかかっているのでトコロテン式に押し出されているだけの話だ。だから、電子制御式の4WDといっても四駆状態になるレスポンスがいいわけではなく、ロスタイム・ゼロの常時つながっているフルタイム4WDにかなうものではない。
だからこそランドローバー各車は、フルタイム4WDにこだわるのだ。最終的に4輪が駆動されればいいというような悠長な発想ではまったくない。大きく重い巨体ゆえに、スッと遅滞なくレスポンスすることこそレンジローバーの主張する高級車のキャラクターなのだ。
LWBは走破性でも有利
筆者の自己総走行距離は300万kmを超える。その道中にはいろいろな路面があったし、いろいろなクルマにも乗ったが、特徴的なクルマは今でも忘れられない。オフロードカーでいえばシュタイア・プフの6輪駆動車だろうか。フルタイム6輪駆動ではなく四駆と“六駆”を切り替えるタイプだが、ギアの切り替え作動精度が素晴らしくなめらかで、目前に泥の土手が現れて、勾配が変わる直前でも、手動で簡単にシフトできた。二駆と四駆の切り替え式のものの中には、止まっていてもギアが到底入りそうにないほど固く、出来の悪いものもあるが、アレは素晴らしかった。
その作動精度の高さもさることながら、前輪と中間輪と後輪の3軸連係プレイは感動的だった。前輪がスリップを始めても後輪が後押ししてくれ、後輪が滑るころには前輪のグリップが回復していて、真ん中の中間輪は何事もなかったかのように泰然自若としている。そうして難なく泥の山を乗り越えることができて、まるでムカデのアシのように多くのタイヤを“長い区間”で駆動することの有効性を知った。
この事例から何を言いたいのかというと、WBの長さというものは走破性の面で数字から受ける印象以上に効果的ということだ。SWBなら小さな山や谷など、どこでも忠実に接地してくれるように錯覚するが、前後駆動輪間隔が長いほど“中間”を省略できて有効な場合もあるということだ。つまりロードクリアランスさえ確保されていれば、SWBよりもLWBの方が走破性は高いのだ。どんな場合でもそうだとは言えないものの、過去の経験上、これは間違っていないと思う。
このレンジローバーのLWBでもあの時の感覚がよみがえってきて、LWBの利点をもうひとつ自分の頭の中にメモリーできた。オンロードの乗り心地がいいことについても同じ理由だ。
逆にLWBが不利に働く場合もある。回転半径が大きくなるため、例えばフル舵角(だかく)でUターンするような場合がそれに当たる。もっとも、通常の走行においては前輪切れ角が大きく確保されているおかげで、すれ違いなどで苦労することはない。苦労するとすれば、WBというよりも全長の長さゆえ切り返しを要する場面はある。
スーパーチャージャーにこだわる理由
「ポルシェ・カイエン」は格好のライバルだと思う。どちらも過給圧が高まった時の圧倒的な加速力は、2トンを超える車両重量を感じさせない暴力的なものだ。4WDでしかも接地荷重が十分に与えられた状態ゆえ、パワーを伝えるトラクション感覚は尋常のものではないが、レンジローバーがスーパーチャージャーを採用する理由は、レスポンスを重視するからにほかならない。ターボとスーパーチャージャーの違いはレスポンスだ。4WDの妙味は、高速域よりも極低速で低ミュー路をジワーッと這(は)い回るテクニカルな場面でこそ味わえる。それこそアイドリング速度からのレスポンスが重要。ソッとスロットルを開けても、フッと即座に動き出すレスポンスがあってこそ快感だ。高速で豪快にすっ飛んでゆくような走り方も、たしかに面白かろう。事実、そうした領域は両車ともに得意とする分野でもあるが、現実に身近な環境下ではあまり経験するチャンスはない。
さらに言えば、パワーは絶対値ではなく感覚的なレスポンスが重要である。それをかなえる上で、排気量は大きな要素とはなるが、気筒数が持つ魅力はさらにそれを上回る。筆者の記憶するベストは、この点でもやはり12気筒エンジンを積むランボルギーニLM002であるが、「メルセデス・ベンツGクラス」の12気筒も良かった。今では小排気量化がすすんで8気筒から6気筒へ、さらに4気筒へ……という傾向にあるが、やはりVIP用のクルマには排気量を少なくしても気筒数は確保してほしいところだ。
挙動は“軽快”
大きなクルマを運転する上で嫌われるのが、操作上の遅れやダルでヤワな感触だ。LWBの鷹揚な旋回感覚とスロットル(=駆動)レスポンスは、文字だけ追うと、相いれないように思えるかもしれないが、LWBは反応が遅れるわけではない。つづら折りのタイトコーナーが連続するようなステージでは、旋回の理論上は苦手に見えるかもしれないが、曲線をトレースしていてその方向が反転する場合、むしろヨー慣性の大きさによる位相遅れの方が気になるところである。その点でLWBは有利。ヨー慣性モーメントはむしろ小さくなる方向に作用するからだ。
例えば、極端に小さなギア比を与えられたパワーステアリングは、一見キビキビ動くように錯覚させる。しかし、実際にはノーズが回頭するまでの遅れが気になって、切り過ぎてしまう傾向がある。舵角的には大きく切っても遅れがないパワーステアリングの方が、動きとしてスッキリしていて自然だ。だからこそレスポンスが重要なのだ。そんな良好なレスポンスを備えるレンジローバーは、重量を感じさせない軽快な挙動が魅力だ。
もし仮にSUV専用ガレージの中に前述したようなクルマたちが全車待機していて、どれでもその時の気分で選んで乗れる状態にあると想定しよう。そんなVIPカーたちの中にあって、長期的な集計でみれば、このレンジローバーLWBがもっとも走行距離を伸ばしているのではないだろうか。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィー ロングホイールベース
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5205×1985×1865mm
ホイールベース:3120mm
車重:2620kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージド
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:63.8kgm(625Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)275/45R21 110W/(後)275/45R21 110W(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリックSUV)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:1810万円/テスト車=2058万7000万円
オプション装備:電子制御リアディファレンシャル(10万3000円)/ウエイドセンシング+ブラインドスポットモニター(クロージングビークルモニター付き)12万9000円/パークアシスト(10万2000円)/運転席・助手席22ウェイ+リアエグゼクティブクラスシート(56万6000円)/レザーヘッドライニング(41万8000円)/フロントセンターコンソール・クーラーボックス(5万3000円)/リアセンターコンソール・クーラーボックス(5万3000円)/ブライトペダル(2万9000円)/ACC(23万円)/ラゲッジスペースレール(4万9000円)/メリディアン・シグネチャーオーディオシステム(1700W)(71万7000円)フルサイズ・スペアホイール(3万8000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4500km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:229.3km
使用燃料:43.0リッター
参考燃費:5.3km/リッター(満タン法)/6.2km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】 2026.3.4 メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
NEW
BYDシーライオン6(FF)
2026.3.6JAIA輸入車試乗会2026“中国の新興ブランド”BYDにあこがれは抱かずとも、高コスパの評判が気になる人は多いだろう。では、日本に初導入されたプラグインハイブリッド車のデキは? 初めて触れたwebCGスタッフがリポートする。 -
NEW
実に3年半ぶりのカムバック 「ホンダCR-V」はなぜ日本で復活を果たしたのか?
2026.3.6デイリーコラム5代目の販売終了から3年半のブランクを経て、日本での販売が開始された6代目「ホンダCR-V」。世界的なホンダの基幹車種は、なぜこのタイミングで日本復活を果たしたのか? CR-Vを再販に至らしめたユーザーの声と、複雑なメーカーの事情をリポートする。 -
NEW
「ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド」発表会の会場から
2026.3.5画像・写真ジープブランドのコンパクトSUV「アベンジャー」に、4WDのハイブリッドバージョン「アベンジャー4xeハイブリッド」が追加された。その発表会(2026年3月5日開催)の場に展示された同モデルの外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
NEW
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。 -
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。





























