モーガン・スーパースポーツ(FR/8AT)
本物の粋人に 2026.04.14 試乗記 職人の手になるスポーツカーづくりを今に伝える、英国の老舗モーガン。その最新モデルがこの「スーパースポーツ」だ。モダンながらひと目でモーガンとわかる造形に、最新のシャシーがかなえるハイレベルな走り。粋人の要望に応える英国製ロードスターを試す。102kgのシャシーで340PSのパワーを支える
アイコンでもある「スリーホイーラー」の原型を製造した年次をとって、1909年を創業とするイギリスのスポーツカーブランドといえばモーガンだ。創業の地となるマルヴァーンはバーミンガムの近郊にあり、110年以上の歴史を誇るピッカースレイ・ロード工場では、現在も生産能力の上限である年間800台前後のロードスターがつくられ続けている。
そんなモーガンの最新作がスーパースポーツだ(参照)。直近まで販売されていた「プラス6」の実質的な後継となり、現行のラインナップでは最もパフォーマンスの高いモデルということになる。搭載するエンジンは変わらず、BMWから供給を受ける「B58」系3リッター直6ツインスクロールターボで、最高出力340PS、最大トルク500N・mを発生。組み合わせられるトランスミッションはZF製の8段AT「8HP」となる。
スーパースポーツの中身で大きく変わったのはシャシーだ。ボンディングやリベットワークによってアルミ材で形づくる「CXアーキテクチャー」が登場したのは2019年のことだが、このスーパースポーツでは各部がリファインされた「CXVアーキテクチャー」へと進化し、ねじり剛性は10%向上、カーボン製のハードトップを装着することで、さらに10%のプラスとなる。またラック&ピニオン式のステアリングシステムは、シャフトの取り回しを見直すなどして、操舵応答のレスポンスを13%高めたという。ちなみに上屋やそれを支える木枠などがない状態でのシャシー単体重量は102kg。この物量で340PSの走りを支えることになる。
タイヤは前後18インチを標準とし、オプションでは19インチの選択も可能だ。幅や径の変更に伴い、前後ダブルウイッシュボーンのサスペンションもセッティングが見直され、オプションの「ダイナミックハンドリングパック」には、24段階で減衰力を調整できる英ナイトロン製のダンパーを含む専用のサスセットが用意される。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
内外装にみる理想的な革新と継承の融合
パワーは変わらずともシャシーの能力が引き上げられたことで、走りの質感が大きく変わったことは予想できるが、ともあれ一目瞭然で違いがわかる、そしてモーガンが新しい世代に入ったと感じさせてくれるのが、内外装のデザインだろう。21世紀の入り口で、彼らは「プラス8」の後継として「エアロ8」を発表。新世紀のモーガンのフラッグシップを表現したが、変わらないことを是とするカスタマーの評価は芳しいものではなかった。スーパースポーツのこの意匠は、モーガンにとってそれ以来の挑戦ともいえる。
見てのとおり、全体的な印象は従来からの延長線にありながら、曲面の見せ方やディテールの処理に現代的なエッセンスを加え、かつルーバーやフィラー、ヒンジといったクラシックなアクセントをことごとくフラッシュサーフェス化することで、印象的にはフラット&ミニマルな方向に向かったようにうかがえる。新しい、けれどもモーガンとひと目でわかるよう、入念に配慮したのだろう。加えて床下まわりの整流効果も高めるなど、空力的な能力も確実に改善しているという。
内装は直近まで販売していたプラス6の基本造形を受け継ぎつつ、オーナメントの使用面積や表皮質感などを改善し、ラグジュアリー感を高めている。メーター類も機能的には直近のものと相違ないが、ユニットそのものは繊細なニードルにかつて使用していたスミスの字体をほうふつとさせる盤面デザインとなり、ぐっと見栄えがよくなった。なるほど調べてみれば、このメーターユニットはスミスが源流となるカーボント・オートモーティブというサプライヤーが卸しているものだという。こうして全体の雰囲気が整えられていくと、やっぱり手羽ギョーザみたいなBMWそのままのシフトレバーが浮いて見える。
ローラーを使って手曲げでかたどられるアウターパネルや、そこにロウ付けでつないで磨き上げられるライトユニットなど、スーパースポーツも形はモダンなれどつくり込みは昔からのモーガンのそれだ。刷新されたドアノブも相変わらずのメッキが施されたダイカストで、そのひんやりした触感が心地よい。ホロ屋根は骨をバラすことなく後方に畳み込むことができる、モーガンいわくの「イージーアップ」を前世代から継承。脱着式のサイドウィンドウはドアラッチと連動して抜き差しできるようになり、利便性も確実に向上している。
キャビンに収まっての居住性の改善も、CXVアーキテクチャーの進化点のひとつ。2ペダルのインターフェイスということもあって、スーパースポーツのドライビングポジションにまったく窮屈さはない。腹だけでなく足もでかい181cmのオッさんが収まってのロングツーリングも苦ではなさそうだ。いっぽうで、独特な着座感の座面やヒジを置くのにぴったりのドアオープニング形状など、モーガンの伝統をしっかりと受け継いだディテールも端々に垣間見える。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モダンな身のこなしに感じるささやかな寂しさ
0-100km/h加速は3.9秒、最高速は267km/h。市販車としてはモーガン史上最速となるスーパースポーツだが、普通に乗る限り、その走りに気難しさはない。車検証値で1190kgという軽さに対して、1250rpmから500N・mを発するB58ユニットの有り余るトルクが、低回転域から車体を軽々と押し出すや、トントンと素早いシフトアップを経て速度をやんわり乗せていく。80km/hに届くか否かのところからがトップギアの守備範囲で、100km/h巡航時のエンジン回転数は1000rpm半ばと、高いギアは完全にクルージング寄りの設定だ。総じてシフトマネジメントは燃費も意識したしおらしいキャラクターで設定されている。
と、ここでシフトレバーを「S」の側に倒せば、エンジンは2000rpm以上を多用する設定となり、がぜん野性味が増してくる。さらにシフトレバー脇のボタンで「S+」モードを選べば、回転域はさらに一段高まり、そのレスポンスは鋭さを増す。ここで普通のクルマの感触とはまた異なるのが、持ち前の開放感や軽さにプラスして、後軸寄りに設定された乗員の着座位置だ。アクセルオンでの蹴り出しが、間髪入れず生々しく伝わってくる。
そのぶん、前軸側と自分との距離が、ノーズの動きのズレとして伝わる感もあり、そのクセをくむのがモーガンを走らせる面白さともいえたわけだが、その“位相差”がシャシー剛性の向上やステアリングまわりの改良によって改善をみているのも、スーパースポーツの特徴ということになるだろう。ある意味、モーガンらしい情緒が薄らいだことも確かだが、このクルマの強烈な動力性能を鑑みれば、応答性はこのくらいのほうがいいかなと思ったのもまた正直なところだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ケータハムからの卒業組にも薦めたい
四輪独立懸架のダブルウイッシュボーンの足まわりは、日本のワインディングロードによくあるバンピー路でもしっかりグリップを確保して、340PSを路面に伝えてくれる。が、イギリスのカントリー路のような激しい凹凸で荷重が抜けたような場合に、どういう挙動を示すかについては、ちょっと想像できないところもある。CXVアーキテクチャーではサスストロークも30mm伸ばされたほか、ジオメトリーなども見直されているというが、依然として乗り手には、至れり尽くせりの現代的スポーツカーとは異なる野趣を慈しむ心が求められる。
そこでちょっとありがたく思えるのが、直6ユニットならではの上品で滑らかなパワーの伸び感だ。思えばスライディングピラー&リーフリジッド時代のプラス8は、後輪にゴンゴン蹴飛ばされる粗暴さがどうしても前に立つドラッグスターのような乗り物だった。メカニズム的には隔世的に洗練されたエアロ8でさえ、これはサーキットでないと踏み切れないというスイートスポットの狭さを感じたものだ。対すれば、同等以上の動力性能を供するB58ユニットは、踏んだ際のリアクションが優しいぶん、クルマの挙動を受け止められる余幅をドライバーに与えてくれるし、これ以上はヤバいというクルマの発するシグナルがわかりやすい。すなわち、ワインディングロードでも宝の持ち腐れにならず、ドライバーの気分や器量にちゃんと寄り添ってくれる。
もっとも、本当にこういう体のクルマでワインディングやサーキットで走りを突き詰めたいというのであれば、スーパースポーツとは別の選択肢がある。同じ英国系ロードスターなら徹底して軽い「ケータハム・セブン」のほうが有利だし、とにかくモーガンというのでも「プラス4」のほうがより現実的だ。
このクルマの存在意義は、そういう世界を楽しみ尽くした人が、なおそちら側に片足を突っ込みつつも、肩肘張らずに余裕を味わいたいといったとき、そんな達観者たちの願いをカバーすることにあるのだろう。いってみれば、おとなセブンの域に達した粋人がお相手ということだ。日本においてはケータハムとモーガンが同じ代理店で扱われているということは、それゆえ、とても合理的なことではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=エルシーアイ/撮影協力=河口湖ステラシアター)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
モーガン・スーパースポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4110×1805×1290mm
ホイールベース:2520mm
車重:1170kg(乾燥重量)/1190kg(車検証記載値)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340PS(250kW)/6500rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1250rpm
タイヤ:(前)235/45ZR18 98Y XL/(後)255/45ZR18 103Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ5)
燃費:36.8mpg(約15.6km/リッター、WLTCモード)
価格:2457万4000円/テスト車=2925万6400円
オプション装備:ペイント<スペシャルメタリックカラー:ライラック>(72万6000円)/インテリア ペブルグレインレザー<ぺブルチョコレート>(25万0800円)/インテリアテキスタイル カーペットオプション<ボックスウィーヴブラック>(20万0200円)/トンネルサイドレザー<レザー内装色と同色>(9万6800円)/ヒーテッドシート(11万6600円)/コンフォートプラスシート(20万0200円)/刺しゅう入りヘッドレスト(9万3500円)/センターコンソール<ブラウンベルベッド/マットフィニッシュ>&ダッシュボード<マットシルバー>(20万0200円)/ゼンハイザープレミアムオーディオ(100万3200円)/コネクティビティーパック(9万2400円)/ラゲッジラックイクイップメントパック(3万3000円)/ダイナミックハンドリングパック(83万6000円)/LSD(65万2000円)/フォトグラフィックビルドレコード(18万1500円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1198km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:263.0km
使用燃料:18.35リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.3km/リッター(満タン法)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
日産キックスG(FF)/キックスX e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.7.13 日産のコンパクトSUV「キックス」が、いよいよフルモデルチェンジ! デザインもパワートレインもプラットフォームも刷新された新型は、見ても乗っても長足の進化が感じられる力作となっていた。日産の再生を担う重要モデルの仕上がりを報告する。
-
BYDシーライオン6 AWD(4WD)【試乗記】 2026.7.11 BYDのプラグインハイブリッド車「シーライオン6」の4WDモデルが登場。先に登場したFFモデルにリアモーターを追加したという説明は間違いではないが、実はエンジンが違うばかりか、加速力にも別物といえるくらいの差がつけられている。300km余りをドライブした印象をリポートする。
-
スズキ・エブリイワゴンPZターボスペシャル ハイルーフ(MR/CVT)【試乗記】 2026.7.8 フロントマスクが変わったのはすぐにお気づきのことと思うが、実は最新の「スズキ・エブリイワゴン」は中身のレベルアップが著しい。内装デザインが刷新されたほか、アダプティブクルーズコントロールなどの軽バンらしからぬ装備も標準化されている。ワゴンの最上級グレードを試す。
-
ポルシェ911 GT3 S/C(RR/6MT)【海外試乗記】 2026.7.7 スポーツカーの水準器「ポルシェ911」に、新たなバリエーションの「GT3 S/C」が登場。サーキット直系の走りとオープンエアの爽快感は、私たちにどんな体験をもたらしてくれるのか? ポルシェのおひざ元である、ドイツのワインディングロードで確かめた。
-
NEW
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.7.15試乗記歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。 -
NEW
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】
2026.7.15試乗記ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。 -
NEW
第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?―
2026.7.15カーデザイン曼荼羅日本でも、ファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その伝統である「控えめの美学」は今後も受け継がれるのか? ショーカー「ビジョンBMWアルピナ」の造形から、カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
MVアグスタ・ドラッグスターRR SCS(6MT)
2026.7.15JAIA輸入二輪車試乗会2026宝石とも形容される伊MVアグスタのバイクのなかでも、アグレッシブなデザインと前のめりな走りで異彩を放つ「ドラッグスター」。自動クラッチシステム「SCS」が搭載されたモデルに試乗し、刺激的でありながら懐の深さも合わせ持つ走りに触れた。 -
スライドドアはいつから? 「日産エルグランド」登場前夜の国産ミニバン史
2026.7.14デイリーコラム間もなく「日産エルグランド」の新型が発売される。これに限らずわが国は多くのブランドが多くのモデルをラインナップするミニバン王国なわけだが、そもそも国産ミニバンはどのようなかたちで始まり、どのような進化を遂げてきたのだろうか。多人数乗車モデルの歴史を解説する。 -
自動車メーカーがアピールする「ちょうどいいクルマ」って何ですか?
2026.7.14あの多田哲哉のクルマQ&A自動車メーカーはしばしば、「ベスト」や「最高」ではなく、「ちょうどいい」というキーワードで製品をアピールすることがある。その意図や背景は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。























































