ボルボV40 T3 SE(FF/6AT)
ガソリンエンジンならではの美点 2015.09.10 試乗記 ボルボのCセグメントハッチバックモデル「V40」に、新開発の1.5リッター直4直噴ガソリンターボエンジンを搭載した「T3」が登場。上級グレード「T3 SE」の試乗を通して感じた、「あえてガソリン車を選ぶ理由」とは?もうディーゼルしか考えられない?
近年の輸入車事情を語る上で欠かせないキーワードとなるのが「ディーゼル」だ。欧州でユーロ6が発効されたことによって、日本のポスト新長期規制との規制値の差が小さくなったこともあり、細かなキャリブレーションを済ませたインポーターが続々と日本市場にディーゼル搭載モデルを投入している。恐らくフォルクスワーゲンやアウディ、プジョー・シトロエン(以下、PSA)の参入も時間の問題というところだろう。
それらに先んじて今年、ディーゼルエンジンを怒涛(どとう)のごとく展開し始めたのがボルボだ。搭載される2リッター4気筒ユニットはボルボのオリジナル設計となり、燃焼環境に応じて2500バールの超高圧インジェクターを独立制御するという最先端の燃料噴射システムをデンソーと共同で開発している。
メガサプライヤーががっちり脇を固めるドイツ系メーカーへのアプローチが難しいとあらば、欧州市場における日本のサプライヤーのプレゼンスがそれ以外、すなわちジャガー・ランドローバーやPSA、そしてボルボ辺りに委ねられるのは当然の流れ。それゆえ、デンソーも持てる全力をボルボに注ぎ、ボルボもそれに技と数の両面で応えるという相乗効果がこのエンジンからはうかがえる。つまり、そのくらい出来がいい。
トルクのみならずパワーもリッチというだけでなく、超高圧噴射をものともしない振動や音の少なさ、そして回転フィールの滑らかさやピックアップの軽快感など、ドイツのプレミアム御三家のそれと比べても何ら遜色はないほどだ。それが補助金等も含めれば同等グレードのガソリンモデルに対して10万円台の価格差に収まると聞けば、もうボルボはディーゼルしか考えられないだろうと個人的には思っていた。
1.5トンの車体を動かすのに十分なパワーを確保
しかし、そのディーゼルを大々的にプロモーションし始めた直後、ボルボはV40のガソリンモデルにも新しいエンジンを搭載して、販売を開始した。T3……とそのグレード名を聞けば、かつてのボルボの文法から3気筒? と思ったりするが、それは1.5リッターの4気筒エンジン。4気筒よりシリンダー数の多いエンジンは用いないという戦略にのっとって、「T」や「D」の後に続く数字はパフォーマンスのレベルを示す符号となったそうだ。
独自開発の新しいエンジン群は、ボアおよびシリンダーピッチを完全互換とする構造のため、この1.5リッター4気筒は昨今のエンジンにしては珍しくショートストロークとなっている(内径×行程=82.0×70.9mm)。高圧インジェクターを備えた直噴システムや、自社開発のタービンを用いる過給システム、専用プラグやオイルなどによる理想の燃焼と摺動(しゅうどう)抵抗低減の追求など、高効率化が徹底されたそれは、152psの最高出力、25.5kgmの最大トルクを発生。これを積んだV40の車重は1480kgと軽くはないが、それに見合う必要十分な力を備えているといえそうだ。そしてこのエンジンに組み合わせられるトランスミッションは、アイシン・エィ・ダブリュの最新世代6段AT。「D4」が積む8段ATに対して小型・軽量であることが特徴で、重量は約16%軽い80kgに収められている。
加えて、サスペンション設定がパワーに見合うベーシックな仕様となっていることもT3のハード面におけるトピックといえるだろう。合わせられるタイヤサイズは、基本グレードが16インチで、パワーシートやナビ、キセノンヘッドライトなどを備えたSEが17インチ。このあたりは幅も含め従来と変わりはない。
快適性に貢献するトルコンATの特性
今回試乗したモデルは17インチタイヤを履くSEだったが、会場の取り付け路に敷かれている石畳みでの転がり始めでも、アシの動きがまろやかなことははっきりと感じ取れた。一般道に出てもその印象は変わらず、不規則なアンジュレーションについても、クルマへの伝わり方は明らかにおうようだ。
発売当初のV40は、標準車でも180psという大盤振る舞いのパワーを受け止めることもあって、低速域ではガチッと硬めな乗り味がちょっと鼻につくところがあった。そのぶん、高速域では相当な負荷にも音を上げないスタビリティーが確保されていたが、それまでのボルボの性格を思うと、ここまで運動性能の側に振らなくても……という疑問が湧いたのも正直なところだ。
そこから比べれば、今のV40は全般的に角の取れた乗り心地を供してくれるが、中でもこのT3は快適性に関して頭ひとつ抜きんでている。そこには新たに採用されたトルコンATの滑らかな駆動の伝達感や変速マナーも少なからず寄与しているといっていい。V40の登場当初は、効率とスムーズネスを両立する手だてとしてデュアルクラッチ式ATが注目されていたが、直近では、伝達効率が高まったトルコンATを加減速の柔軟性の面から見直す動きも見受けられる。T3の新しいトランスミッションも、恐らくはその辺りをみての採用となったのだろう。
そのキャラクターは“実用最優先”
それでも6段ATとあらば、ステップ比の大きさから速度変化によるエンジン回転の上下が気になるかなと思っていた。しかし、組み合わせられる1.5リッターユニットは、ごく低回転域からしっかりと力を立ち上げつつ、2000~3000rpmでのトルク特性も相当粘り強くしつけられていて、日常使いでのアクセルワークでは変速の煩雑さやレスポンスのぬるさは一切感じさせない。音や振動もしっかり対策されており、静粛性が際立つD4に乗った後でも、やはりガソリンユニットゆえの心地よい音環境はあるものだと感心させられる。ただし、ショートストロークならではの軽快なピックアップは期待できず、回転を高めてのフィーリングにも特段のドラマはない。あくまで実用最優先の味付けという印象だ。
D4に対して25万円安というT3の値札が、果たしてV40を求めるユーザーにどれほど刺さるものなのかは計りかねるところがある。先述の通り、補助金等も含めればその差はさらに狭まるのだから、T3だからこその美点がなければ商売的にも難しいことになるだろう。
個人的にその美点を問われれば、前述の乗り心地や音環境も含めた快適性に加えて、D4に対して鼻先が60kg軽いことからくる軽快感を挙げるだろうか。「300km以上離れた目的地なら迷わず新幹線だろう」という近距離ニーズ主体のユーザーにとっては、T3の美点はメリットとして十分享受できると思う。ともあれ、眼前にD4がチラつかないよう、もう一声の価格低減の努力を、せんえつながらインポーターさんにはお願いしたいところだ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ボルボV40 T3 SE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1490kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:152ps(112kW)/5000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1700-4000rpm
タイヤ:(前)205/50R17 93W/(後)205/50R17 93W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:374万円/テスト車=452万9000円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパールメタリック>(10万3000円)/パノラマガラスルーフ(19万円)/歩行者エアバッグ(6万2000円)/モダンウッドパネル(2万1000円)/PCC(パーソナル・カー・コミュニケーター)キーレスドライブ(3万1000円)/パークアシストパイロット+パークアシストフロント(5万2000円)/プレミアムサウンド・オーディオシステム/マルチメディア(12万円)/レザーパッケージ<本革シート+助手席8ウェイパワーシート+フロントシートヒーター>(21万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:789km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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