第207回:サバイバルのためにはミニバンに乗るべし
『ゾンビランド:ダブルタップ』
2019.11.21
読んでますカー、観てますカー
10年でゾンビが凶暴に進化
彼らはまだ生き残っていた。2009年に『ゾンビランド』で出会った4人は、その後ずっと戦い続けてきたのだろう。悪性ウイルスに感染して人類のほとんどがゾンビ化してしまったが、知恵と勇気でサバイブしたのだ。『ゾンビランド:ダブルタップ』は、ゾンビが進化した10年後の世界を描く。数が増えるだけでなく凶暴化しているようで、いきなりコロンビアレディーに襲いかかるのだ。
人類は10年もの間ゾンビと向き合ってきたので、研究が進んで分類が可能になった。ホーマーと呼ばれる太っていて愚鈍な従来型ゾンビも健在だが、危険な能力を身につけた新型が現れた。知性を手に入れた“ホーキング”、優れた反射神経を持つ“ニンジャ”、足の速い“ボルト”などである。最も危険なのは“T-800”。『ターミネーター』の殺人アンドロイドから名付けられた。強力なパワーとしぶとい生命力を持ち、簡単には死なない。
オープニングから、派手なバトルが繰り広げられる。迫りくるゾンビを銃で迎え撃ち、皆殺しにする。血が噴き出し肉が飛び散る様子がスローモーションで映し出されるのだ。このジャンルが好きな人にとっては、気分のアガるシーンである。怖い映画が苦手というタイプでも大丈夫だ。様式化された映像であり、リアリティーを感じることはない。
キャストはもちろん前作を引き継いでいる。コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)、タラハシー(ウディ・ハレルソン)、ウィチタ(エマ・ストーン)、リトルロック(アビゲイル・ブレスリン)の4人だ。いがみ合っていた彼らだが、今ではすっかりファミリーとなった。穏やかに暮らすための安全なすみかも手に入れている。アメリカ最強のセキュリティーを誇る建物、ホワイトハウスである。
大統領専用車に乗って駆け落ち
前作ではコミュ障の引きこもりでD.T.だったコロンバスも、いっぱしの男になった。ウィチタとはいい関係を築いているようである。男としてケジメを付けなければならないと考えた彼は、一大決心をする。プロポーズしたのだ。これが裏目に出る。マリッジブルーに陥った彼女は、妹のリトルロックと一緒にホワイトハウスを後にした。タラハシーがマッド・マックス風に改造した大統領専用車で逃亡したのだ。そういえば、この姉妹はもともと札付きの詐欺師コンビだった。
残されたコロンバスとタラハシーは、ショッピングモールで1人の生き残りに出会う。ちょっと脳みそがあったかいが、食肉冷蔵庫に隠れてゾンビをやり過ごしてきたという明るいキャラの女子だ。ホワイトハウスに連れ帰ると、間の悪いことにウィチタが帰ってきてしまう。リトルロックが途中で出会ったヒッピー男と駆け落ちしてしまったのだ。
ギクシャクした関係ながら、4人は彼女を迎えにいくことにする。移動するには、まずクルマを手に入れなければならない。ゾンビランドで生きていくには、クルマは重要なアイテムなのだ。ヤツらの攻撃を防ぐための動くシェルターである。「ポンティアック・トランススポーツ」を見つけたが、タラハシーは気に食わない。彼はミニバンが大嫌いなのだ。前作では「シボレー・ルミナ」をぶち壊していた。V8エンジンを積んだパワフルなクルマしか認めないのである。
彼らが向かったのは、メンフィスのグレイスランド。エルヴィス・プレスリーの生家である。熱狂的なエルヴィスファンのタラハシーは、リトルロックがそこにいると思い込んだのだ。しかし、彼女が行動をともにしているのはヒッピーなのだから、エルヴィスとは相性がよくない。彼らはラブ&ピースな人々が集うコミューンに参加した。非暴力主義だから、ゾンビだって殺したりはしない人々である。
生き抜くためのルールは73項目
残念ながら、平和主義ではゾンビに対抗できない。特に最強ゾンビのT-800は厄介なのだ。一発の銃弾では倒せない相手である。タイトルの“ダブルタップ”は、二度撃ちという意味を持つ。『ジョン・ウィック』シリーズでキアヌ・リーブスがやっている手法で、確実にとどめを刺すことができる。これはコロンバスが自らに課したゾンビランドを生き抜くためのルールの一つである。ほかにも「ゾンビを発見したらまず逃げろ」「家族・友人でも容赦しない」「英雄になるな」など32項目のルールがあったが、今回は73項目に増えた。来るべきゾンビ社会に備えるために、ぜひとも覚えておきたい。
『ゾンビランド』が公開されたのは2009年だから、ジェシー・アイゼンバーグが『ソーシャル・ネットワーク』で注目される前の年である。エマ・ストーンはまだ『小悪魔はなぜモテる!?』や『ラブ・アゲイン』に出ていない。まだまだ駆け出しの頃だ。10年たって彼らは超売れっ子となっている。こんなB級作品に出演する義理はないはずだが、ノリノリで楽しそうに演じているのがうれしい。ジャンルを限らず、上質な作品に出演することは俳優にとって何よりも名誉なことなのだ。
残念な続編やリメイク作が多い中、『ゾンビランド:ダブルタップ』は着実に前作を超える仕上がりになった。CGで派手な演出をするだけの志の低い作り変えではなく、脚本を練り込んでいるのが偉い。コメディーゾンビ映画を革新した前作の手法を受け継ぎながら、新たなキャラクターを加えて物語の厚みを増している。ルーベン・フライシャー監督は『L.A.ギャングストーリー』や『ヴェノム』を撮り、脚本のレット・リースとポール・ワーニックは『デッドプール』を手がけるという実績を残している。オリジナルのスタッフとキャストが再集結したこと自体が奇跡的なのだ。
「キャデラック・エスカレード」と「ハマーH2」が活躍した前作から、クルマもパワーアップしている。モンスタートラックがゾンビを蹴散らすシーンは圧巻だ。そして、1955年型の「キャデラック・フリートウッド」。エルヴィスのピンク・キャデラックが、4人の疑似家族にとっての新たな方舟(はこぶね)になるのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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