ベントレー・フライングスパーV8(4WD/8AT)
後席ではもったいない 2021.06.01 試乗記 ベントレーのフラッグシップサルーン「フライングスパー」にV8モデルが登場。635PSの最高出力を誇るW12に対して、550PSとなるV8の走りとは? 印象的なボディーカラーをまとった導入記念仕様車「ファーストエディション」に試乗し、その仕上がりを確かめた。ファーストエディションって何?
昨2020年で生産中止となった「ミュルザンヌ」に代わってベントレーのフラッグシップサルーンを名乗るのがフライングスパーである。「コンチネンタル」が付いた復活初代のフライングスパーから数えて3代目の新型は2020年にW12モデルが導入されており、今回追加発売されたのはファーストエディションスペシフィケーションを装備したV8搭載のフライングスパーである。
ベントレーともあろうブランドまでファーストエディションかよ、という気もするが、それが昨今のトレンドである。とはいえ「ファーストエディション。684万4100円。豪華絢爛(けんらん)フル装備。以下同文」だけでは、あまりにも愛想がないし、webCG読者の皆さんに申し訳がない。
縁のない庶民には関係ないだろう、と指摘されればその通りなのだが、何しろその金額はおよそ680万円である。「パサート」を買ってもおつりがくるほどの特別装備の内容を知りたいと思うクルマ好きもいるはずだ。試乗車のスペックシートには細かい説明がないので(こういうの最近多いんです)、ちょっと長くなるが英文カタログを参考にしてざっと並べてみよう。
すなわち専用エンブレムと刺しゅう、デュアルフィニッシュヴェニア(ヴェニアとはウッドトリムのこと。ただしこのクルマはハイグロスカーボンファイバー仕様)、イルミネーション付き電動格納式フライングB、ローテーションディスプレイ、ディープパイルマット、コントラストステッチ、そしてマリナードライビングスペシフィケーション(内容はダイヤモンドキルティングレザー、3Dレザートリム、レザーヘッドライナー、22インチホイールなど)、ツーリングスペシフィケーション(ACCなどのADAS装備やナイトビジョン、ヘッドアップディスプレイ)、ムードライティングスペシフィケーションというものだ。もちろん、各市場によって異なる場合もあるので注文の際にはしっかり確認されたい。
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何とも言えない迫力
さらにこの車両には外装の光り物がすべてグロスブラックトリムとなるブラックラインスペシフィケーション(約65万円)が備わり、「パティーナ」という新しいオプションカラー(約84万円)をまとっていた。パティーナはゴールドではなくベージュ系らしいが何ともエレガントな微妙なトーンで、それにブラックアウトされたグリルやフェンダーベントとの組み合わせは不思議な迫力をまき散らしている。ちなみに“Patina”とは本来は緑青、あるいは古びたものの艶(つや)や風格を意味する言葉で、クラシックカーのレストアの世界ではおなじみの用語である。
というわけで、2350万円の車両本体価格に計840万円ほどの追加オプション代が乗っかる。庶民感覚で言えば、非常識きわまりない金額である。ただ、ベントレーぐらいのレベルになると、対価としてリーズナブルかどうかというのはほとんど主観的なものになる。
そもそもベントレーともなれば“つるし”のままで乗る人はほとんどいないはず。それこそパイピングの色まで細かく指定するのが当たり前の“あつらえもの”である。ただし、あらゆるビスポークに応えてくれるということは、発注するカスタマーのほうも相応の知識と経験、そして“良い趣味”を持たなければならない。
かつて本拠地クルーを取材した時に、ビスポーク部門であるマリナーの責任者に「とんでもない突飛(とっぴ)な色の組み合わせや、非常識な注文を受けた場合はどう対応するんですか?」と尋ねたことがあるが、彼は眉をほんの少し上げただけで「粘り強く説得します。ほぼすべてのお客さまがわれわれのお薦めに納得してくださいます」と答えたものである。
「コンチネンタルGT」やフライングスパーは、いわゆるコーチビルドモデルたるミュルザンヌとは桁違いの量産車だから(あくまでベントレーにしては)、すべての仕様をいちいち指定するのは面倒くさいという現代の顧客のためのベントレーのお薦めセットがファーストエディションというわけだ。
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掛け値なしにスポーティー
新型フライングスパーも先に登場したコンチネンタルGT同様、フォルクスワーゲングループのプレミアム後輪駆動用「MSB」プラットフォームを採用していることは言うまでもない。特徴は従来型に比べてホイールベースが130mm延長されていることだが、いっぽうで全長は30mmしか伸びていない。要するに伸びた分のほとんどはフロントアクスルを前方に移動したことによるものだ。おかげでいかにも後輪駆動車らしいショートオーバーハングに加え、コンパクトで上下に薄いキャビン部分(もちろん相対的なもので室内が窮屈なわけはない)と巨大なホイールが相まって、堂々としながらもクールなプロポーションを生み出している。
2基のツインスクロールターボをVバンク内に詰め込んだ4リッターV8ツインターボも、同グループの高性能モデル用エンジンに共通するもの。最高出力635PSと最大トルク900N・mを誇る6リッターW12ツインターボほどではないが、こちらもコンチネンタルGTと同じ最高出力550PS/5750-6000rpmと最大トルク770N・m/2000-4500rpmの強大なパワーとトルクを生み出しながら、軽負荷時には4気筒を停止する気筒休止システムとコースティング機能も備える。
トランスミッションは同じZF製ながら先代モデルのトルコン式8ATから換装されたデュアルクラッチ式の8段DCT。後輪駆動優先の4WDで、0-100km/h加速は4.1秒、最高速は318km/hという。
8段DCTを搭載した初期のコンチネンタルGTは微速でまれにシフトショックを感じさせることもあったが、新型フライングスパーのマナーは模範的でわずかな加減速時も極めて滑らかで、同時に出足はベントレーにしては鋭すぎるのではないかと感じるほど鋭敏だ。
V8仕様はW12モデルより車重はざっと100kg軽いという。それでも2.4tを超える大型サルーンを軽快だと評するのは奇妙な感じだが、実際にそう感じるのだから仕方がない。精度の高さゆえの軽快感、軽やかさゆえのスポーティーさである。この10年でフライングスパーのステアリングホイールを自ら握るオーナーが増えたとベントレーは言うが、確かに後席に座っているだけではもったいない。
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ベントレー随一の乗り心地
しかも乗り心地が素晴らしい。低速でも当たりが滑らかで滑空しているような浮遊感があるいっぽうで、速度が増してもヒタヒタと路面に張り付くような安定感もあり、アウディほど硬質な反応も見せない。フラットさを維持しつつ滑るように走る身のこなしは最近のベントレーで一番洗練されているのではないだろうか。
3チャンバー式エアサスペンションはヘビー級高性能車用の足まわりとして定番化しつつあるが、ダンパーだけでなくエアボリュームも可変制御する本格的エアサスペンションの面目躍如といえる。したがって、スポーツ/B(ベントレー=これがデフォルトモード)/コンフォート/カスタムと4種類用意されているドライブモードセレクターには事実上、触る必要がない。
オートモードたるBモードに入れっぱなしにして高速でも山道でもまったく不足はないし、コースティング機能も作動する。地の底から湧き上がってくる地響きのように重厚で逞(たくま)しいミュルザンヌのあの6.75リッターV8 OHVツインターボの骨太なパワー感が懐かしくないといったらうそになるが、現代のベントレーには洗練されたスマートさが必要だろう。いっぽうで、これ以上の気遣いは要らないとも思う。どんなに優しくても、線が細いと言われてはベントレーとして不本意である。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ベントレー・フライングスパーV8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5325×1990×1490mm
ホイールベース:3195mm
車重:2480kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770N・m(78.6kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR22 104Y/(後)315/30ZR22 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.7リッター/100km(約7.8km/リッター、WLTPモード)
価格:2350万円/テスト車=3189万7230円
オプション装備:ボディーカラー<パティーナ>(84万1400円)/ファーストエディションスペシフィケーション(684万4100円)/カーペットオーバマットにコントラストバインディング(4万5590円)/フライングスパー ブラックラインスペシフィケーション(64万7480円)/バッテリーチャージャー<ソケット付き>(1万8660円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:752km
走行状態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:237.3km
使用燃料:38.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/6.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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