新型「ゴルフ」は本国から1年半遅れ 輸入車の国内導入に時間がかかるのはなぜなのか?
2021.06.23 デイリーコラム1年以上の遅れは当たり前!?
2021年6月15日、8代目となる新型「フォルクスワーゲン(VW)ゴルフ(ゴルフ8)」が日本でも正式発売(=納車開始)となった。ゴルフ8は2019年10月に世界に向けてアンベールされて、ドイツ本国を含む一部市場で2019年末に発売されていたから、日本発売はドイツ本国のそれから約1年半遅れたことになる。正直いって“待たされた感”を強く抱いている日本のファンも少なくないと思う。
ただ、ゴルフ8の兄弟車ともいえる新型「アウディA3」も2021年5月に日本発売となっているが、欧州発売は2020年3月。その1年2カ月というタイムラグは、ゴルフ8よりは小さいが数カ月の差でしかない。また、日本では昨2020年に発売となった5代目「ルノー・ルーテシア」や2代目「プジョー208」は、欧州でゴルフと激しいベストセラー争いを繰り広げる量販ハッチバックである。そんなルーテシアは2019年5月の欧州発売(あちらでの名前は「クリオ」)で、2020年11月の日本発売はそこから1年半のタイムラグがあった。いっぽう、208の欧州発売は2019年秋で日本発売は2020年7月だから、こっちのタイムラグは1年弱だった。
こうして兄弟車のアウディA3やフランスの欧州ベストセラー組と比較すると、(今回は頑張った感のあるプジョー208を除けば)ゴルフ8の日本上陸は早くはないが、特別に遅いわけでもないように思える。ただ、歴代モデルが日本の輸入車ベストセラーの座をほしいままにしてきたゴルフとしては、比較対象とすべきは、やはりメルセデス・ベンツやBMWといった日本での売れ筋ドイツ系ブランドだろう。
実際、メルセデス・ベンツは欧州と日本で発売のタイムラグが1年以上になることがほとんどないし、BMWの日本発売は平均してさらに早い。たとえば、2019年3月国内発売の「3シリーズ」は欧州と約3カ月のタイムラグしかなかったし、現行「1シリーズ」は2019年8月の世界同時発売市場のひとつに日本も含まれた(さすがに日本での納車開始はそこから3カ月ほど経過した11月以降となったが)。ちなみに、先代にあたる「ゴルフ7」の日本発売は、2012年11月のドイツ発売から7~8カ月遅れの2013年6月だった。こうして見ていくと、今回のゴルフ8の日本発売は、やはりちょっと遅いという印象を抱いてしまうのも事実だ。
むしろ早かった国内導入
……といったことを日本のインポーターであるフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)の広報部にぶつけてみたところ、「ゴルフの発売スケジュールにおいて、日本が後回しにされているわけでは決してありません。それどころか、日本市場への導入はVWの足元となる欧州市場の次であり、どちらかというと早いくらいです」との担当氏の回答だった。
ゴルフ8はいわゆる“コロナ前”の2019年10月に世界初公開された当初から、2020年末から2021年前半に日本導入する計画だったという。それなら同年12月のドイツ発売から最短で1年以内の日本発売となるわけだから、ゴルフ7と比較してもあからさまに遅かったわけではない。そこから年が明けた2020年前半はご承知のように新型コロナウイルスが(とくに欧州で)猛威を振るい、その生産計画が狂いまくった。それでも、2020年後半以降は急速に巻き返して、日本仕様の上陸も、当初計画の範囲内ともいえる2021年春とするメドをつけることに成功した。
ただ、最後のネックとなったのは新型コロナウイルスの影響による“渡航制限”だった。VGJでは現在、クルマを国内に持ち込む以前に日本スタッフが渡欧して、日本仕様の型式指定取得のための確認や準備作業を現地でするのが通例なのだそうだ。しかし、今回のゴルフ8ではそれがかなわず、基本的にすべての作業が実車が日本に来てからになってしまったという。前出の広報担当氏によると、この部分での遅れが「約2カ月」だったそうで、最終的に日本発売がこの2021年6月にずれ込んでしまった。
もっとも、6月中の発売となったことで「2020年後半から2021年前半」という当初からの計画は、本当にギリギリではあるが守られたということでもある。この1年半の新型コロナによる世界の混乱を考えれば、現場の苦労は推して知るべしである。
ビッグネームゆえの宿命
そうはいっても、メルセデスやBMWはもっと早いぞ……といいたくなるゴルフファンも少なくないだろう。ただ、ゴルフは世界のベストセラー争いの常連であり、メルセデスやBMWのどのクルマよりも販売台数が多い。また、高級車ブランドでもあるメルセデスやBMWのほうが導入スピードに対する意識も高い。日本での売れ筋グレードをきちんとそろえてから発売するVWに対して、メルセデスやBMWは「とりあえず輸入できるグレードから入れていく」と“さみだれ式”の導入になりがちだ。
ゴルフのケースに近いのは日本メーカーのグローバルカーかもしれない。たとえば、先日販売終了となった10代目「ホンダ・シビック」の日本発売は最初に発売された北米の1年8カ月遅れだったし、同じホンダの現行「CR-V」は北米発売から約2年が経過してからの日本発売だった。というのも、最近のホンダは真正面から市場規模の大きい順に投入していく傾向があり、(少なくともシビックやCR-Vにとっては)小さい市場である日本は、地元市場であっても最後発組にスケジューリングされることも多いのだ。また、現行「トヨタ・カローラ」は、2018年夏にまずグローバルで共通部分の多い5ドアハッチバック(日本名:「カローラスポーツ」)が発売された。この時点では北米市場などとともに、世界でもっとも早い時期の発売でもあった。しかし、日本で主力となるセダンやステーションワゴンは、全幅や全長を日本専用に縮小した車体構造もあってか、そこから1年以上経過した2019年9月の発売となった。もちろん、グローバルではそれで終わりでもなく、カローラほどのクルマになると、世界中すべての導入スケジュールを終えるまでに数年かかるのだそうだ。
今回のゴルフ8の日本発売も、ゴルフがシビックやカローラに匹敵する世界屈指のワールドカーであること、そして世界が未曽有のパンデミックに見舞われていること……を考えると、いうほど遅いわけではないことが理解できる。しかし、地球の裏側の情報も一瞬にして伝わる現代にあって、1年半もの“おあずけ”は、ファンにとってはなかなか酷な時間であることも事実。それがゴルフほどのビッグネームともなればなおさら……なのだが、じつはグローバルなビッグネームほど市場による発売時期の差が大きくなりがちである。それが仕向け地ごとに生産を細かく順番に立ち上げていくしかない、クルマという商品のむずかしさだ。
(文=佐野弘宗/写真=フォルクスワーゲン、ルノー、BMW、本田技研工業、トヨタ自動車、webCG/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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